ゲーム業界の現状(雑誌・書籍編)

Gayaline

前々回前回と続いたゲームの統計資料分析。またもやさらなるデータを追加したので、それについての分析を行ってみます。

今回はゲーム雑誌と攻略本などの書籍に関してです。ゲームに関するさまざまな情報を提供してくれるこれらの出版物ですが、その市場はここ20年でどう変化したのでしょうか。この疑問を統計データで答えてみましょう。


 引き続き「ゲーム業界の基礎統計データ」の更新を行っているが、今回はゲーム白書でなく別の資料を参照した。そちらにもゲーム業界についての情報が結構しっかり載っているのだ。

今回のターゲットはゲーム産業の一部といえるゲーム雑誌、攻略本であり、それらは『出版指標年報』(全国出版協会科学研究所刊)によって調べることができた。

ゲーム雑誌の種類別売り上げの変化

 以下では、「ゲーム雑誌・書籍の市場規模」に記載した元データに対する分析を行ってみよう。まずは雑誌の種類ごとの売り上げである。

このデータは1994年から現在まで存在し、いくつかのカテゴリーに分かれている。存在するのは「ゲーム総合」「任天堂系」「ソニー系」「セガ系」「PCゲーム」「美少女キャラクター誌(TECH GIANやコンプティークなど)」「女性向け雑誌(B’s-Logなど)」「その他(アプリスタイルなど)」「ムック」「増刊・別冊」であるが、時期によってはないものもある。その中から、家庭用ゲームに対象を絞ってグラフ化したのが以下である。

ゲーム雑誌の種類別発行部数

見ての通り、激減とか壊滅といっていい減少トレンドが見て取れる。最盛期の1997年は計9000万部以上売れているが、現在では1000万部を割っており、1割近くにまで減少している。ゲーム雑誌の縮小っぷりはここまでひどかったのだ。

 それ以外にもわかることはいろいろある。最盛期にはPSやSSの専門誌が花開いたが、それも2010年ごろにはほとんど消滅し、最終的にはゲーム総合誌、ほとんどファミ通のみになってしまった。なおかつ任天堂系専門誌は縮小に転じるのが早く、1997年に激減している。96年の836から163という数字は何か計算ミスか特定の雑誌の数え忘れを疑いたくなるが、事実だとしたらとんでもないことだ。どのくらい休刊があったのかなどをもう少し詳しく調査を行いたいが、この時期はNintendo64発売とともに、ファミリーコンピュータMagazineがファミマガ64になり、98年に休刊となってしまったタイミングなので、一方でこの変化はわからないでもない。任天堂系雑誌はこの時期にファミマガショックとでもいえる大打撃を被っていたのだ。その後DSとWiiの時期に多少盛り返すが、その後は減少し現在では部数としてはほんのわずかである。

2019/10/14追記:
こちらでさらに調べたところ、97年の任天堂系の減少は、何誌か新たに創刊された雑誌を数え忘れていたためであることが判明した。さらに95-96の減少は、ファミ通が任天堂系から総合に移ったためのようだ。つまり、ここでの見た目ほど任天堂系の売り上げが激減したわけではないが、この時期にTheスー、マル勝、必本という主要な雑誌が消えたこともまた事実である。

ゲーム雑誌の売り上げと全体に占める割合

 このようにゲーム雑誌市場は縮小の一途だが、それは雑誌全体にいえることで、無理もないと思われるかもしれない。確かに、以下に示すように出版物の売り上げは書籍・雑誌ともに減っており、雑誌などは4分の1ほどに減少している。

しかしである。さっき述べたゲーム雑誌の縮小は10分の1だったはずだ。つまり、雑誌一般の減少幅よりもさらにゲーム雑誌は落ちているのでは?そのことを確かめるために、次のグラフを見てほしい。

ゲーム雑誌の発行部数と全体に占める割合

ここで重要なのは線グラフの方である。これは雑誌全体に占める割合なので、雑誌全体が減少していても、それと等しい比率でゲーム雑誌も減少したのであれば、この割合は保たれているはずだ。しかし実際のところはそうではなく、97年の異常な盛り上がりは置いておくとしても、2001年から16年までは比較的割合が維持できているが、ここ2年で急落してしまっている。なんとか頑張っていたのがついに力尽きたような感じだ。果たしてこの時期に何があったのだろう。

 この割合の低下の理由は、やはりゲーム雑誌が担っていた役割を他のメディア、つまりインターネット上の情報が代替しているからだろう。そのような役割としては、新作に関する速報と、攻略記事が挙げられる。もちろん各ゲーム雑誌も自らのサイトを立ち上げているとはいえ、両者でネット上の情報に勝てなくなって以来、もはやゲーム雑誌にできることはスタッフインタビューの掲載や有名人によるコラム、ファンコミュニティくらいしかないだろう。しかしそれでも、2017年まではそうした役割でそれなりに存在意義を見出せていたといえる。

ゲーム関連書籍の売り上げの変化

 では次に、雑誌と同様にゲーム業界にとって欠かせない、攻略本についても見ていこう。攻略本の売り上げというのは書籍全体から見てもバカにならず、スーパーマリオの攻略本などは当時の年間No.1ベストセラーにもなっていたほどだ。ゲーム関連書籍は1999年から独立したカテゴリーとしてデータが存在するので、そちらを全体との比率と合わせてグラフにしてみよう。

ゲーム関連書籍の発行部数と全体に占める割合

このデータからはピークがいつだったのかがはっきりしないが、きれいに右肩下がりなのは明らかである。なおかつ、全体に占める割合も年々減少を続けており、これは雑誌よりもさらに顕著である。99年は世の中の本の40冊に1冊は攻略本だったのに、今ではその5分の1もない。

 このような減少理由もやはりインターネットに役割を奪われたからだろう。当サイトも含め攻略サイトというのは山ほど存在するし、データの更新も自由自在である。そうなると攻略本はどうしても分が悪いのだろう。そういう意味では、FF9の時に攻略本の刊行を辞めようとしたスクウェアは、消費者からするとまったくありがたくないが先見の明はあったということだろうか。


 総じて、ゲーム雑誌・書籍の業界は、ゲーム関連の領域で最も顕著に消滅に向かっているといえるだろう。家庭用ゲームの縮小もここまでひどいものではないが、サブ業界はメインの変化の影響をずっと大きく受けるということなのだろうか。

 さらに、「国内ゲーム業界全体の市場規模」にあるようにスマートフォンゲームも含めたゲーム市場は拡大しているはずなのだが、雑誌・書籍はその恩恵にまったく預かれていない。雑誌や書籍がゲーム文化に与える影響は計り知れないので、この点こそ現在のゲーム業界の最大の問題ではないだろうか。

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