ゲーム業界の現状はどうなっているか

Gayaline

 ゲーム業界の行方についてはいたるところで議論が交わされていますが、確かなデータに基づかない限りは印象論の域を出ることは難しいでしょう。そこで本稿では、そうしたデータを提供してくれる統計資料から、ゲーム業界の近年の変化についての大まかなデータを得て、ここ10数年でゲーム業界がどう変化したのかについて調べてみたいと思います。


 

今回の目的は、ゲーム業界全体がここ数年でどのように変化しているのかについて、できるだけ正確な分析を行うことである。そのためには何を見ればいいだろうか。ゲーム雑誌?ネット上のゲームメディア?巨大掲示板?それらもこの疑問について部分的な答えを与えてくれるだろうが、より確かで包括的な手段がある。それが「白書」という形態で刊行されているゲームの統計資料である。

 ゲームの白書にはどんな種類があり、だいたい何が書いてあるかについては、以前「ゲーム統計資料ガイド」というところで解説したが、実際にそれらを用いて情報を得るということをやっていなかったので、さまざまな白書を調べ、基礎的なデータを「ゲーム業界の基礎統計データ」としてまとめてみた。今回はその内容を踏まえて、まとめたデータの分析を行ってみたい。

 以下では、いくつかの疑問に回答しながらゲーム業界の現状について明らかにしていこう。

近年の家庭用ゲーム業界の変化

 まずは最低限の情報である家庭用ゲーム機の市場規模である。市場規模というのは基本的には関連業界の1年間での売り上げ総額を指すものだが、算出方法や関連業界に何を含めるかという点で3つの白書の間にもずれが生じている。今回は長期的データの多い『ファミ通ゲーム白書』からとっている。

 そのデータをグラフ化したので、まずはそれを見てみよう。

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一見して明らかなように、1997年から20年間では市場規模は一度上昇して下降していることがわかる。山の頂点は2007年にあるが、この年はPS3とWiiの発売の翌年で、DSとPSPの発売の3年後である。歴代ゲーム機の発売年と売り上げの一覧に記載したように、この4つのハードだけで国内では7800万台(ファミコンの4倍以上)売れているので、市場規模が最大になるのもうなずける。

 その後10年間は下降の一途である。以後は3DS、PS4とVita、WiiUなどのハードの投入があったが、トレンドを変えるには至らなかった。2017年のSwitchの発売で持ち直したように見えるが、『ゲーム産業白書2019』によると2018年のソフト販売数は2016年以下なので、決定的な変化には至っていない。

 結論として、家庭用ゲーム機市場はここ10年でどんどん縮小している。その水準は2016年次ではここ20年で最低レベルであり、さらに過去と比べると1991年、つまりSFC・MD・PCE・GBの時代にまで戻ってしまったといえる。これが危機的状況なのは疑いない。

 ではその原因は何だろうか。周りを見れば誰もが思い当たるように、スマートフォンゲームが拡大したのが最大の理由だろう。今度はそちらに目を向けてみよう。

近年のモバイルゲーム業界の変化

 スマートフォンや過去の携帯ゲームについては、『ファミ通ゲーム白書』においては他のダウンロード販売ゲームと含めて「オンラインプラットフォーム」として扱っている。そこから家庭用を引いたのが下のグラフである。

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PCのオンラインゲームやダウンロード販売はそこそこの規模を保っているが、残り2種の変化はあまりにも激しい。フィーチャーフォンのゲームは2009年にピークを迎えたが、スマートフォンの普及とともに消滅していった。そしてスマートフォンゲームは2009年にフィーチャーフォンを追い抜くと、1年で2倍、3年で6倍、7年で9倍にまで成長している。2017年には市場規模は1兆円を超えているが、これは同年の家庭用ゲームのソフトとハードの合計の倍以上である。両者の差がわかるよう別のグラフで示してみよう。

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こうして見ると、いつ潮目が変わったのかがわかるだろう。2013年である。この年にはスマートフォンゲームは1.5倍以上の成長を見せ、とうとう家庭用ゲーム市場全体を追い抜いた。それ以降はほとんど両者の差は開くばかりである。何よりもスマホゲームは現在まで途切れることなく拡大を続けているのが驚きだ。スマホゲームは供給過多で、これ以上参入が困難なレッドオーシャンだみたいな話はよく聞くが、競争の激しさはともかくまだ頭打ちではないのである。ましてや「オワコン」になるような兆候は微塵もない。消費者が出せるお金には限界があるはずにもかかわらずゲーム業界全体の市場規模もまた増え続けているので、むしろ家庭用ゲーム業界はこの程度の減少で済んでいることが奇跡的なのかもしれない。なにせ、ユーザー的には十分競合がありうるのがこの2つだからだ。

 さて、家庭用ゲーム業界の動向に関して今回わかることはこれで終わりだが、もう少し隣接業界も見てみよう。まずはアーケードゲームについて。

アーケードゲーム業界の変化

アーケードゲーム業界は、『アミューズメント産業界実態調査報告書』という別の統計資料によってデータが取られており、一部はネット上からでも見ることができる。まずは全体をグラフ化してみよう。

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一つ念頭に置かなければいけないのは、ゲームファンが一般にイメージするアーケードゲームよりも、「アミューズメント産業」全体はだいぶ大きいことだ。ゲームセンターに置いてあるものを考えればわかるが、必ずしもコンピューターゲームだけではなくクレーンゲームやメダルゲームもあるが、これらはアーケードゲームとはいえないものだろう。さらにはゲームセンターが購入するアーケードマシンの販売金額もこのグラフには含まれている。

 それを考慮した上でも興味深いのは、アミューズメント産業全体が2007年をピークとして縮小するという家庭用ゲーム業界と同じような変化を示していることである。この中で安定しているのはクレーンゲーム等の「景品提供機」で、それ以外はビデオゲームに加えメダルゲームも落ち込んでいる。ただし音楽ゲームは逆に近年になって拡大しているようだ。

 これを見ると現在もアーケードゲームは最盛期の半減という縮小ではなく、そこまで変動していないと言いたくなるかもしれない。しかし次の店舗数のグラフを見ればその考えも変わるだろう。

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こちらはさらに極端なことに、2001年から継続して減り続け、15年でほぼ半減している。おまけに、この数字はゲームセンターのみではなくショッピングセンター内のゲームコーナーなども含んでいるので、そちらの数があまり変化しそうにないことを考えると、ゲームセンター自体はさらに減っているということである。家庭用ゲーム以上に、アーケードゲームはこれまで縮小の一途だったのだ。ただし、2016年のビデオ+音楽ゲームは前年より若干盛り返しているなど、底が見えた可能性もある。

中古市場の変化

 もう一つ気になっている関連業界として、中古市場がある。これは『ファミ通ゲーム白書』ではあまり扱っていないので、『ゲーム産業白書』を頼ることにしよう。販売本数のグラフはこのようになる。

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こちらも右肩下がりであり、なおかつ2012年から5年で半減するなど新品ソフトよりも下降が急である。この原因としては中古売却のできないダウンロード販売の普及が考えられるが、結論を出すにはもう少し慎重になる必要があるだろう。

最近のゲーム業界の状況

 最後に、まとめとしてゲーム業界全体(中古は入れられていないが)の市場規模をグラフ化してみよう。

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こうして見ると、全体の市場規模は2013年に1兆円を突破し、拡大を続けているが、その内訳を見るとスマートフォンゲーム以外は縮小しているのである。その他の家庭用・アーケード・PCゲームについては、少なくともここ10年では最大の危機であることが改めて示されたと言っていいだろう。

注意点

 今回はこのような分析結果だが、とりわけ近年の状況に関しては、このデータだけで結論を出すには早いという見方もできる。というのも近年になればなるほどゲームの販売形態が多様化しており、従来の調査方法から漏れるものが出てくる可能性が増すからだ。

 例えばSteamで買ったゲームは入っているのかとか、中古ソフトの販売にネットショップの売り上げはどれくらい含まれているのか(Amazonなんかの売り上げから中古ゲームだけを取り出すのは可能なのだろうか)など疑問は多く、その解決には細かな計算方法の把握が必要である。そうしたゲーム業界のより細かい見方についてもいずれフォローしていく予定なので、今回の内容はあくまで大まかな状況の分析として理解していただきたい。

 さらに、やはり売り上げだけ見てもわからない部分は多い。全体の売り上げが伸びたというのは必ずしも面白いゲームがその時期に多かったということではないし、逆に革命的なゲームが現れたとしても、市場規模が劇的に変化するということはないだろう。最も影響力があるのは各ハードの活力である。

 総じて市場規模データというのは、ゲーム業界に関する最も視野の広い(ゆえに細かいことはわからない)見方だと理解するのがいいように思われる。

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