Nintendo DREAMを扱った学術論文について(1)概要と感想

Gayaline

 昨年末、ゲーム雑誌を研究した論文が学術雑誌上で公表されました。
 今回その論文を入手できましたが、丁寧な資料収集と調査を行った大変素晴らしい内容であり、当サイトの着目している領域とも多くが重なるので、何回かにわたってその内容をご紹介した上で、そこから明らかになることについて考えていきたいと思います。


論文について

 件の論文が掲載されたのは、國學院大學が刊行している『國學院雑誌』という学術雑誌。その第123巻12号(2023年)に、「任天堂専門誌『Nintendo DREAM』の展開とゲーム文化における意義 : 一九九〇年代後半を中心に」という論文が掲載されている。著者は小林真実氏で、学生懸賞論文として投稿して賞を取ったものが掲載されたようだ。
 https://k-rain.repo.nii.ac.jp/records/2000201
 こちらにその論文があるが、当該雑誌は新しいものはすぐにはWeb公開されないようなので、ネット上で読めるのはしばらく経ってからとなる。
 今回、どうにかいち早く雑誌を入手できたので、その内容を伝えてみよう。

論文の概要

 論文の章立てはこのようになっている。

  • はじめに
  • 一九九〇年代後半の任天堂ハードとその専門誌
  • 一九九〇年代後半から二〇〇〇年代初頭の『Nintendo DREAM』における読者の動向
  • 冠美花(りふぁ)と中植茂久
  • 他誌との比較
  • ゲーム文化における『Nintendo DREAM』の意義
  • おわりに

 それぞれの内容について簡単に記述してみると、第一章では一九九〇年代後半までの任天堂機種専門紙の動向について解説されている。ファミコンブームを受けてのファミマガの誕生から、PSの登場とN64の不振に伴う任天堂系ゲーム雑誌の苦戦というゲーム史を踏まえたものだ。
 第二章ではThe 64 DREAMおよびその後継誌であるNintendo DREAM(以下ニンドリ)の歴史と誌面の構成について明らかにしている。とりわけ読者投稿コーナーが充実しているという特徴や、当時N64が他ハードに押される現状に危機感を覚える読者の声などが紹介されている。
 第三章ではニンドリの一投稿者から編集長の座に就くに至る冠美花氏と、同じく漫画を投稿していた読者の立場から編集部に加わるようになり、最終的には任天堂に所属するに至った中植茂久氏の活動について詳述されている。
 続いて第四章では、『電撃Nintendo64』との誌面の比率などの比較から、より任天堂ハード・ソフトに注力している、ファンアートの投稿が活発といったニンドリの特徴を明らかにしている。
 最後に第五章では、ファミ通の読者投稿欄とも比較がなされ、そちらでは投稿者が自由に、ゲームと無関係な内容にまで投稿を拡大していき、その結果としてさまざまなクリエイティブな方向性が生まれたと述べられる。
 他方でニンドリはあくまで任天堂作品に関する内容に集中していた。その結果としてファミ通のような雰囲気は作られなかったが、その代わり生まれたゲーム文化におけるニンドリの意義として、

既に単一機種を対象とした家庭用ゲーム専門誌がメーカーから独立した個性を打ち出すことが難しくなり、それまで以上に公式情報中心の誌面に凝り固まりつつあった一九九〇年代後半、八〇年代から時間をかけて独自の読者コミュニティを醸成してきた『ファミ通』などの読者投稿欄における「無法地帯」とはある種正反対の、いうなれば「任天堂の専門誌」という主題に基づいた一定の「秩序」を維持する方向を選んだことが、結果的に『ニンドリ』の編集者、読者双方の中に「任天堂専門誌の読者」としての自負と一体感を醸成した可能性も示唆しているのではないだろうか。(84頁)

と指摘されている。つまり、本誌が任天堂ファンのためのコミュニティを形成した部分がとりわけ大きな意義だということである。

論文を読んだ印象

 一応筆者は、ゲーム研究ということを打ち出して十数年、できるだけ確かな資料に基づいたゲーム研究の必要性を訴えてきたし、それに寄与できるようにいろいろやってきたつもりである。
 そうしたゲーム研究の方法として、ゲーム雑誌を調べることが特定の時代の空気感などを含めたゲーム史を把握するために最重要だと常々考えてきたが、今回の小林氏の論文はまさに筆者が必要性を訴えてきたような、確かな情報を提供してくれる研究であるように思える。
 その情報の正確さは、1998年のニンドリの目次が掲載されている表(65頁)のゲームタイトルの表記の正しさからもうかがえる。Nスタの編集部も結構ゲームタイトルは間違えているのに
 また、ゲーム雑誌調査の方法論に関しても、参考になる先行研究がほぼない中で、誌面をカテゴリーごとに分類し、頁数を集計した上で他誌と比較したり、イラスト投稿コーナーの投稿をシリーズごとに分類して集計したりしているなど、印象論に留まらない実証的な方法を模索していることがうかがえて素晴らしい。
 さらに、読者投稿コーナーという着眼点にも光るものがある。ファミマガではこの少し前くらいに(1995年)、イラストを中心とした投稿コーナーが誕生しており、全体的にそのようなコミュニティが作られる素地が生まれていたといえる。ファミマガにおいてはスクウェアファンの投稿が目立っていたため、ファミマガ64からNintendoスタジアムにかけての移行期に投稿者がPSの方に離れてしまったのではないかと思っているが、他方で任天堂ファンはニンドリに集まってコミュニティを形成していたというのがよくわかる内容である。
 加えて、先行研究の知見の更新という点でもこの論文は十分である。「はじめに」の箇所でさやわか氏の『ゲーム雑誌ガイドブック』を取り上げ、本書では1996年からをゲーム雑誌黄金期の終わりとし、以後は徐々に衰退していったと書かれているが、それに対し論文ではニンドリが登場したのは同じ時期であり、この時期に必ずしもゲーム雑誌が衰退したとは限らないと述べられている。この点に関しては、以前この本を考察した時に似たような感想を抱いたし、刊行情報に基づいてゲーム雑誌を調べた際にもピークは1997年であり、黄金期の終わりはもう少し後だという結論に至った。本論文も、この見方を補強してくれる視点を提示するものとなっている。
 最後に、まったく前例がないといっていいゲーム雑誌研究というテーマの論文に偏見をもつことなく、正当な評価を与えた『國學院雑誌』の編集委員会のフロンティア精神にも感謝したい。おかげでこの論文に出会うことができた。


 今回はひとまず内容の紹介ということで、ここで一旦区切ろう。
 本論文は、ゲーム雑誌を分析した学術論文としてきわめて貴重なものなので、ゲーム史について関心がある人はぜひ呼んでもらいたい。半年くらいで一般公開されるはずなので。
 次回はこの論文をさらに深掘りして、読んでいて気になった点や新たに明らかになることを考えてみる予定。

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