世界の神話とゲームの関係 総解説(3)

Gayaline

 前々回前回と、世界の神話のゲームでの用いられ方を解説してきたこの記事。今回は中東神話、インド神話、中国神話を扱います。引き続き、神話とゲーム世界観の関係について見ていきます。


 前回から引き続き、「ゲームの中の神話分析リスト」の内容を踏まえて、それぞれの神話からどの要素がゲームに登場するかと、どんなゲームが特定の神話の要素をたくさん用いているのかを明らかにしよう。今回はオリエントから中国まで。

中東神話

 今回は中東の名のもとにまとめたが、ここにはオリエントの神話、イスラム教・アラビア伝承が包括されている。オリエントの神話と一言に言っても、その元となった文化はシュメール、アッカド、ヒッタイトとさまざまである。主な文献では「ギルガメシュ叙事詩」や「エヌマ・エリシュ」が存在し、旧約聖書にも周辺地域の神々について触れられている。

 イスラム教はユダヤ・キリスト教に比べて、神話的な要素は薄い。聖典たるクルアーン(コーラン)に記されているのは、主にムハンマド以前の預言者、つまりユダヤ・キリスト教の著名な人物の物語をイスラム的に解釈したものと、ムハンマドが啓示を受け活動する様子である。神アッラーはユダヤ・キリスト教の神と同一のものとされているので、このような物語の共有が可能なのだ。そうした特徴ゆえに、ジブリールやアズラエルといった天使はイスラム教にも存在するものの、悪魔の側の存在感は薄い。ただしアラブ的な伝統を反映し、精霊の一種であるジンの存在は認められている。

 イスラム教が支配的なアラブ地域だが、その中でもさまざまな伝承が生まれている。ランプの魔人が登場する「千夜一夜物語」がそうだし、ゾロアスター教的世界観が反映された「王書」にも竜退治の物語が含まれている。ゾロアスター教は善なる神アフラ・マズダと悪の神アンラ・マンユが対立する世界観で、大天使アムシャ・スプンタとそれと対応する六大魔など、常に二元論的な対立が存在しているのが何より特徴的である。王書はペルシャの国の成立史を神話の時代から描写したもので、第一部では善王と悪王が交互に国を支配する様子が、第二部では英雄ロスタムとイスファンディヤールを中心とする物語が描かれている。

ゲームの中の中東神話

 神話リストの集計結果から明らかなように、何かしらの中東的な要素はゲームの中にも幅広く登場する。神話別に見ていくと、「ギルガメシュ叙事詩」からはギルガメシュやエンキドゥ、フンババがしばしば取り入れられ、神々の物語である「エヌマ・エリシュ」からはマルドゥークやティアマットが登場する。とりわけティアマットはFF1から見られるなどメジャーだが、これはおそらくD&Dに竜の怪物として登場するためである。他にもアン、エンリル、ウトゥなどの神や、「イナンナの冥界下り」に登場するイナンナ(イシュタル)、タンムズ、エレシュキガルなどの人物がシュメールには伝えられているが、ドルアーガの塔を出発点とする「バビロニアン・キャッスル・サーガ」にはこうした神々が多く登場する。

 その他のオリエントの神々、たとえばバール、ダゴン、ベルフェゴール、アスタロトは、何より悪魔としての登場がほとんどだが、これは聖書での記述に由来するものである。つまり聖書の神の他に神は存在しないはずなので、そうして言及されている存在は悪魔だとみなされるようになったのである。アスタロトはフェニキアの女神アスタルテに由来するなど、元々は周辺地域の神であった。

 イスラム教についても他の一神教と同様、中心的な教えよりは周縁的な伝承が好んで取り入れられる傾向にある。高い人気を誇るのはジンの一種であるイフリートで、暑そうな砂漠地域が出身ということもあってか、しばしば炎の魔人といった扱いをされている。FFでは最古参の召喚獣として頻繁に登場する。

 ゾロアスター教の悪神アンラ・マンユ(アーリマン)もまた、FFシリーズの定番モンスターとなっている。他にもズルワーンやザッハーク、アジ・ダハーカなど、モンスターの供給元としてゾロアスター教や関連伝承が参照されている。

インド神話

 インドの人々の多くが信じているヒンドゥー教の神話は、ヒンドゥー教が今日まで続いているゆえに、ほとんど最長の歴史をもつものだといえる。それゆえインド神話は古い要素と新しい要素が積み重なり、とても把握しきれない規模になっているが、どうにか解説を試みてみよう。

 ヒンドゥー教の古層をなすのが、祭祀中心の宗教であるバラモン教である。バラモン教においては『リグ・ヴェーダ』『サーマ・ヴェーダ』『ヤジュル・ヴェーダ』『アタルヴァ・ヴェーダ』の4つの教典を主とし、そこではギリシャや北欧に類似した神々のパンテオンが築かれている。神々は天・空・地の三界に存在し、天にはディヤウス、スーリヤ、ヴァルナなどが、空にはインドラ、ルドラ、ヴァーユが、地にはアグニやサラスヴァティなどが配されている。神話学者デュメジルによれば、とりわけ重要なのは三機能(法、戦闘、農耕)を体現する法の神ミトラとヴァルナ、雷神インドラ、治療者アシュヴィン双神である。その後、バラモン教の教えはより複雑化し、哲学的なウパニシャッド文献や、さまざまな学派が生まれたが、仏教やジャイナ教の登場に伴い、バラモン教とその祭祀制度は次第に求心力を失っていった。

 しかし、その後バラモン教は土着の神々を取り込み、より民衆的な形態となって復活した。これがヒンドゥー教である。この時代にはバラモン教の神々の多くは忘れ去られ、それぞれ創造、維持、破壊を司るブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの三大神が中心になった。その中でも、とりわけヴィシュヌとシヴァは幅広い信仰を集めており、現在でもさまざまな場所で崇拝されている。ヴィシュヌは10のアヴァターラ(化身)で世に現れたとされており、叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公ラーマや、救世主クリシュナもそこに含まれている。その他にも、像頭のガネーシャ、ヴィシュヌの妃ラクシュミー、シヴァの妃パールヴァティなど数え切れないほどの神がいる。

 ヒンドゥー教にはさまざまな側面があるが、現代においても影響を与え続けているのがヨーガである。ヨーガとは修行法のことで、身体や宇宙に関する哲学的な教えと、それに基づいて真理を体得し、サマーディ(三昧)の境地に至るための行法からなっている。健康体操のように扱われている現代のヨーガは、身体的な実践を重視する一派であるハタ・ヨーガが近代化されたものである。ヨーガが重要なのは、20世紀に西洋に伝わって大ブームを巻き起こしたからである。カウンターカルチャー運動や、ニューエイジは東洋思想や神秘主義を取り入れたが、インドはそうした思想の中心とみなされていた。ヨーガなどの東洋思想には西洋にはない真理や体験が存在していると考えられたのである。ニューエイジの流れは日本にも伝わり、ゲームの世界観にも影響を及ぼした。

 その他、仏教にもヒンドゥー教の要素が含まれている。インドで生まれた仏教は同地ではほとんど消え去ったが、インドを経由した際に多数の要素を受け継いだ。代表的なのが「~天」の名をもつ天部であり、彼らはインドの神々が仏教化したものである。例えば帝釈天はインドラ、弁財天はサラスヴァティ、大黒天はシヴァが仏教に取り込まれたものとなっている。

ゲームの中のインド神話

 インドの神々も、他の主要な神話のそれと同様に、ゲームに直接登場することはあまりない。モンスター扱いするのも、キャラクターとして登場させるのも手に余るのだろう。他方で怪物的な存在、ガネーシャやハヌマーン、ガルーダやナーガがモンスターとして人気なのも他と同様である。インドの神々を十全に扱っているのはやはり女神転生シリーズで、とりわけシヴァ、ドゥルガー、カーリーなどは破壊神にふさわしい実力が与えられているし、真・女神転生2ではアルダー(シヴァとパールヴァティが合体した神であるアルダナーリーシュヴァラ)はほぼ最強の悪魔となっていた。

 ここで調査しているように、ルドラの秘宝もインド的な世界観が濃厚な作品である。タイトルにもなっているルドラをはじめ、キーパーソンであるミトラもヴェーダの神々に由来している。ただし本作は北欧やケルト、聖書の世界観も混ざり、かなり混沌としたものになっている。ヒンドゥー教の哲学も含めて反映しているのは、異色のRPGサンサーラ・ナーガである。こちらは世界自体がインド的であり、インド由来の敵、人物、町が登場し、サンサーラ(輪廻)がキーワードとなっている。

 ヒンドゥーの神々に限らず、概念や哲学にまで視点を広げると、インド文化の影響は多岐にわたって存在している。たとえば日本語の「業」に近いカルマの概念は、ウルティマなどのゲームでパラメータとして登場する。どのくらい良いこと・悪いことをしたかを示す善行度のようなもので、イベントの成否などに影響を及ぼす。ウルティマ4では聖人を意味するアバタール(おそらく前述の「化身」が由来)になることが目標だが、その方法は悪行を行わず、徳を高めて瞑想することである。本シリーズではキリスト教とは異なる宗教観が探究されているといえる。また、ヨーガ由来のチャクラは、G・O・Dのようなゲームで魔法の一種として扱われることがあるし、気のパワーのような形で登場することもある。これらは、ニューエイジ的な思潮を経由して取り入れられたものと思われる。

中国神話

 長い長い歴史をもつ中国には、当然ながら多様な神話があるし、その歴史上で数々の幻想文学や伝承も生まれてきた。掘れば掘るほど出てくるのが中国の神話だといえる。根本的なものとしては、盤古による天地創造や、女媧による人類の創造の物語が存在する。日本やローマと同様、歴史の最初期には神話的な支配者がいたとされ、三皇五帝と呼ばれている。女媧に加え、黄帝は医学の始祖、伏羲は文字や占い、釣りを教え、神農は農業や薬学を司っている。

 宗教の観点から見ていくと、中国由来の儒教道教のうち、前者は「怪力乱神を語らず」で人格神を立てることはしないが、万物の原理としての「天」には言及されている。他方で道教は、修行を積んだ人間が仙人となり、超能力や不老不死を得るという神仙思想があるので、多くの人間由来の神的存在が崇拝されている。三清道祖と呼ばれる元始天尊・太上道君・太上老君に加え、現在では特に関帝君(関羽)や媽祖がポピュラーである。

 さらに、中国は独自の天文学および占星術を有しているが、そこでの星々は擬人化され、神々となっている。紫微(北極星)、北斗星君(北斗七星)、太白金星などの他、織姫と彦星は七夕の登場人物として日本にも伝わっている。

 幻想動物にも事欠かず、五行思想を表現した四神(朱雀、白虎、青龍、玄武)や正しい政治が行われている時に現れる四霊(麒麟、鳳凰、霊亀、応龍)、昼夜や四季の変化を起こす竜の燭陰、奇妙な姿の怪物の渾沌や饕餮などが存在する。とりわけ『山海経』にはそうした怪物が豊富であり、本書では各地に奇怪な生物が住んでいる様子をイラストつきで描写していることから、妖怪絵巻として高い人気を得ている。

 インドと同様、思想や文化面が及ぼした影響も計り知れない。陰陽五行思想や占星術、風水は多くが日本にも伝わっているし、ゲームとの相性もよい。また文化的なものとしては、過去に香港映画によるカンフーの人気や、霊幻道士シリーズによるキョンシーブームなども入ってきたが、こちらは流行り廃りが激しく、現在ではほとんど見られない。武術と関連して人気なのが気功だが、これは元来ヨーガのように身体の鍛錬を主にしたもので、メディアでよく見る気を飛ばすといった超能力的なものは近代の産物である。

ゲームの中の中国神話

 身近な中国文化だが、その神話体系は雑多で把握が難しいためか、ゲームに取り入れられる例は少ない。FCの神仙伝など中華風世界観のものはあるが、マイナーに留まっている。幻想水滸伝シリーズはもちろん水滸伝がベースだが、道教、儒教の要素は少なく、世界観はかなり西洋ファンタジー気味である。その中でも、古代中国の世界観を入念に描写しているのが、カオスシードである。本作は仙人の下で修業する主人公の物語で、風水の力で土地を蘇らせていくが、キャラクターは「仙術」を用い、十二支がモチーフの「仙獣」を呼び出すことができる。風水の要素はダンジョン内の気の流れをコントロールするという形でうまく取り入れられており、五行の相性をもつ気を整えることでさまざまな効果が生まれる。

 神仙思想ということでは、桃太郎伝説シリーズや天外魔境シリーズのような和風世界観のゲームにも仙人は登場する。基本的に長寿で、何らかの術や技をマスターしている存在である。陰陽師も道教の影響が色濃いが、中国思想が日本文化と適度にミックスされている例だといえるだろう。

 中国を舞台にしたものでは、三国志や史記などの時代を扱ったゲーム作品は多いし、その中にも五斗米道とか祝融夫人とか宗教的要素は存在しているが、歴史ものの場合ファンタジー要素は薄く、これらが注目されることはあまりない。文学作品のうち『封神演義』や『西遊記』はとりわけファンタジー色が濃厚で、両者ともコーエーによってゲーム化されているほか、無双OROCHIシリーズにはキャラクターとしても登場している。西遊記はモチーフにした作品がスーパーモンキー大冒険とかふぁみこんむかし話とかファミコン時代には多かったが、近年では人気はさっぱりである。

 それに引き換え、やはり思想・哲学的な側面は、ひっそりとしかし決定的にゲームに影響を与えているといえるだろう。とりわけそれはゲームの「属性」に顕著に見られる。前述のカオスシードでは、五行思想に基づき木火土金水の属性同士の関係が設定されているが、このような二項対立ではない属性の得意・不得意はポケモンのタイプ相性やFEの3すくみに見られるし、スマートフォンゲームにもよく取り入れられている。これらがどれくらい五行に由来しているかは明らかではないが、自然界の要素を属性に分け、相性を考えるという発想自体がゲームになじみやすいのは確かである。

 同時に、属性とさまざまなものを対応させるという要素も、五行思想の特徴である。たとえば木火土金水に対して方角は東南中西北が、色は青赤黄白黒が、聖獣は青龍朱雀黄龍白虎玄武が、それぞれ対応している。これをベースに魔法体系を作り上げたのがロマンシングサ・ガ3である。本作の魔法は四聖獣の力を借りる地術と、陰陽の力を用いる天術が存在しており、前者は蒼龍が風、朱鳥が火、白虎が土、玄武が水の属性となっている。ただの火属性魔法ではなく、対応する聖獣などを設定することによってより属性がイメージしやすくなるし、その聖獣の力を借りた術(たとえば朱鳥は不死鳥の力を得るリヴァイヴァ)を作ることができるなど、設定に説得力をもたせることができているのがわかるだろう。かつて占いに用いられていた知識体系ないし自然哲学は、ファンタジー世界の魔法体系として応用することが可能なのである。

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