世界の神話とゲームの関係 総解説(2)

Gayaline

 「ゲームの中の神話分析リスト」の内容を踏まえて、世界の神話とゲームの世界観を解説する連載記事です。今回は北欧神話・ケルト神話・エジプト神話を扱います。これらの神話が、ファンタジー作品でどのように用いられてきたのかについて見ていきましょう。


 前回の「世界の神話とゲームの関係 総解説(1)」では、「ゲームの中の神話分析リスト」の内容から、それぞれの神話からどの要素がゲームに登場するかと、どんなゲームが特定の神話の要素をたくさん用いているのかを明らかにした。今回も引き続き、残る神話について解説しよう。

北欧神話

 世界の神話の中でも、ギリシャ・インドに並んで有名なのが北欧神話である。北欧神話はギリシャと同様、現在ではそれを信じる人々はいないので(ただし北欧諸国にはアサトルと呼ばれる、北欧宗教を蘇らせようとする異教主義は存在する)、過去の物語や伝説としての「神話」の典型例ともいえる。

 北欧神話の性質はギリシャ神話と似ており、神々のパンテオンが存在し、それぞれの神の活躍が語られ、神と人間の関係も描かれる。何より特徴的なのはその世界観で、神々の住むアースガルズ、人間の世界ミズガルズをはじめとして、死者の世界や巨人の国など、詳細に考え出されている。北欧神話の世界観を代表するのが各世界をつなぐ世界樹ユグドラシルで、世界樹のイメージはドラクエはもちろんのこと、後述のようにさまざまなゲーム作品で登場する。神々の世界に位置するヴァルハラの宮殿も同様で、ここではヴァルキリーが戦場で倒れた戦士を集め、ラグナロクの際の戦力としているのだが、こうした要素もゲームの中に取り入られている。ヴァルキリー(ワルキューレ)は独自の性格付けがしやすいためか、キャラクターとして人気が高い。ナムコのワルキューレの冒険・伝説は北欧的要素は薄いが、ワルキューレを看板キャラクターにすることに成功している。

 北欧神話を作り上げたヴァイキング(ノルド人)からイメージできるように、北欧神話は戦闘的なエピソードも豊富である。とりわけその役割を担うのはトールで、巨人との決闘やミドガルズオルムとの再度の対決などバトルには事欠かない。それゆえモンスターの類も豊富で、ロキの子ミドガルズオルムとフェンリルのツートップをはじめ、フレスヴェルグ、ニーズホッグ、スレイプニル、ゲリとフレキなど多数の怪物が登場する。同時に武器や道具も盛りだくさんで、オーディンにはグングニル、トールにはミョルニルがあるほか、レーヴァティンやミストルティンなど魅力的なアイテムが多数登場する。ここまで挙げてわかるように、北欧神話の単語はやたらとかっこよくて強そうなので、グレイプニルとかスキーズブラズニルとかダーインスレイブとか、北欧神話ワードを散りばめるだけで何となく雰囲気が出てくるのも強みである。

 先ほど単語を挙げたが、神々と巨人の最終戦争であるラグナロクも北欧神話の魅力の一つだろう。これは予言された出来事なのだが、神々と敵が熾烈な戦いを行い、世界が破壊され、新たな時代がやってくるという世界の終末が描かれている点で、実に想像力を刺激されるストーリーとなっている。

ゲームの中の北欧神話

 そのように高い独自性と人気を誇っている北欧神話だが、その世界観自体が再現されたゲームは意外に少ない。今回対象としたゲームではサ・ガ2にオーディンとヴァルハラが登場するのと、テイルズオブファンタジアでヴァルキリーとのエピソードがあるくらいである。その他でとりわけ北欧神話の世界観が濃厚なのはヴァルキリープロファイルだろう。この作品では、ヴァルキリーを主人公として英雄の魂を集めていく過程が描かれている。さらにWiiの斬撃のREGINLEIVはフレイ・フレイヤ兄妹が主人公で、神々や巨人も登場するなど、全面的に北欧神話がベースとなっている。

 北欧神話はそれ以上に、モチーフとしてゲームに多大な影響を与えている。何より顕著なのは世界樹である。ドラクエの何作かやFF9やに用いられているだけではなく、「一本の柱がさまざまな異世界をつなぐ」というイメージは、サ・ガ1と2やタイトルにもなった世界樹の迷宮の主要プロットとなっている。また「世界を維持する力を持った大樹」という意味では聖剣伝説の世界観の根幹をなしており、テイルズオブファンタジアにも同様の樹が登場するなど、さまざまなゲームにインスピレーションを与えている。

 その上で、先ほど述べたように北欧神話の最大の貢献は「かっこいい単語を提供することで、ファンタジー世界観を下支えしている」ことにあるだろう。グングニルやミョルニルは持ち主の神々から独立してあらゆるゲームに出てくるし、モンスターも同様である。FFはその代表で、7ではミッドガルやニヴルヘイムなど随所に用いられ、「かっこいい系ファンタジー」の典型をなしている。ドラクエには世界樹は出てくるものの単語はほぼ出てこない(おそらく9のヴァルハラーが初出)点からも、両者の方向性の違いがわかる。他の例としては、魔装機神シリーズのテュッティはフェンリルクラッシュという必殺技をもつが、「ロキの子、地を揺らすものよ。今こそ足かせを解き、我が敵をむさぼれ!」というセリフには誰もがわくわくしたことだろう。また、聖剣伝説3もこの極致を行っており、バルムンクやレーヴァテインはもちろんのこと、ブリーシンガメンだのガンバンテインだのドラウプニルだの、北欧由来のアイテムで埋め尽くされている。

ケルト神話

 ケルト神話はおよそ謎の多い神話である。というのも、まず「ケルト」がどんな人の文化を指すのかがはっきりしていないからだ。ケルト人というのは紀元前の時代に西ヨーロッパに住んでいた人々を指しているが、大まかにヨーロッパ大陸の「大陸のケルト」とアイルランドの「島のケルト」に分けられている。そして島のケルトの神話はよく残されているが、大陸のケルトにも同様のものがあったのかはあまりわかっていない。

 いずれにせよ現存する神話から見ていくと、ケルト神話の世界には女神ダヌに由来するダーナ神族(トゥアハ・デ・ダナーン)の物語と、彼らが去った後の人間の英雄の物語が存在する。ダーナ神族には主神ルーを中心に、ダグダ、ヌアザ、マナナーン・マクリール、ディアン・ケヒト、ゴヴニュ、ミディールなどが存在する。英雄物語のうちアルスター神話と呼ばれるものにはルーの子ク・ホリン(クーフーリン)やディアドラの物語があり、フィアナ神話にはフィン・マクールらの物語が収められている。

 ゲームの歴史においては、ケルト神話はあまり注目されることがなく、初期にはせいぜいケルトの僧侶であるドルイドがウルティマに登場し、ドラクエでもモンスターになった程度であった。しかしその世界観をふんだんに取り入れた作品も少数ながら存在する。

ゲームの中のケルト神話

 最初にケルト神話に着目した日本のゲームは、PC-9801用に発売された「ティル・ナ・ノーグ」シリーズだろう。この作品は、シナリオはランダム生成だが、登場種族などがケルトの世界観を反映している。またPCエンジンの天使の詩は中世アイルランドが舞台で、ケルトの神々も登場する世界観となっている。一方で敵側はキリスト教的な悪魔である。時代的にもキリスト教が入ってきている時期なので、両者が混ざり合った世界だといえる。

 もう一つの作品は、先ほど挙げたケルトの神々や英雄を見れば、プレイしたことのある人ならすぐわかるだろう。ファイアーエムブレム聖戦の系譜である。本作の登場人物のほとんどが、ケルト神話に由来している。ディアドラ、エーディン、ミデェール、フィン、ホリン、ノイッシュ、アーダンはもとより、エスニャ、シャナン、エリウ、ヴァハ、キンボイス、ディートバ、ブリアン、ヨハン、ヨハルヴァなどサブキャラクターもことごとくケルト由来なのだ。おまけにレンスター、マンスター、アルスター、コノートの地名もアイルランドのものである。続編のトラキア776にも、聖戦で使われなかった人名が登場している。その用いられ方は必ずしも神話そのものではない(たとえば元の神話ではディアドラの相手はノイッシュ)が、一貫してケルトのモチーフが使われているのは確かだ。このようなケルト要素の導入を行ったのは、おそらく両作のゲームデザイナーの加賀昭三氏である。彼は『ファイアーエムブレム聖戦の系譜 ファンSpecial』のインタビューにおいて、「キャラの背景やイメージも北欧、ケルト神話から持ってきてるんです。神話を今風に描きたかったんです(p.120)」と語っている。加賀氏のケルト神話へのこだわりは、彼が独立した後に興した会社名「ティルナノーグ」からもわかる。ティル・ナ・ノーグとはダーナ神族が移り住んだと言われる理想郷の名である。

 もちろん、これらのみがケルト神話に触れていたわけではない。ルドラの秘宝では一部ケルトの要素が見られるし、クーフーリンは女神転生に登場する。また、北欧神話と同様武器だけ登場することも多数で、とりわけゲイボルグやカラドボルグ、ブリューナクやクラウソラスは強力な武器としてゲームでは人気となっている。その際には元来の持ち主であるク・ホリンやルー、ヌアザが出てくることはほぼなく、まさに武器が独り歩きしている状態となっている。

エジプト神話

 ピラミッドにスフィンクス、ヒエログリフ・・・そういった典型的エジプト要素は誰でも知っているが、それを作った人々の神話はそこまで知られていないのではないだろうか。実際ゲームにおいても、エジプト神話は微妙な扱いを受けていると思われる。

 歴史の授業で習ったように、古代エジプト文化は人類最古のもので、紀元前3000年ごろからナイル川流域に王朝を作り上げ、さまざまな建造物や文書を残した。その後これらの知識は失われたが、ヨーロッパ人が解読を続け、かなりの部分が判明している。ギリシャと同様パンテオンがあり、ラー、オシリス、イシス、セト、トトなどを中心に、さまざまな側面を司る神々が多数存在している。神々には動物と人間のミックスがしばしば見られ、ホルスやトトには鳥、アヌビスには犬、バステトには猫などの他、カバの神タウエレトや、サソリのセルケトなどモチーフも豊富である。

 神々と同様に有名なのは、死後の世界に対する信念だろう。それは「死者の書」に記されているが、死者は死ぬとオシリスによる裁判を受け、善行と悪行が量られる。審判に合格すると永遠の生を生きることができるが、そうした審判が正しく行われるようにするために、人々は遺体に防腐処理を施し、「ミイラ」を作ったのであった。

 このようにミイラはあくまで正しい埋葬方法にすぎなかったわけだが、それがなぜ創作作品ではゾンビのように動き回って人を襲う存在になってしまったのか。それは、ピラミッド発掘の際の出来事がもとで生まれた「ファラオの呪い」の伝説が影響していると考えられる。20世紀初頭にツタンカーメン王の墓を発掘していたカーナヴォン卿が謎の死を遂げたことから、墓を暴いてファラオの眠りを妨げた呪いによるものだという噂が広まり、発掘に関わった人が次々に急死した(実際はそんなことはない)など話に尾ひれがついていったというのがそれだ。これはある種の都市伝説で近代的なものだが、映画などを介してゲームにも輸入されたのだろう。つまりピラミッドに入ると、眠りを妨げられたミイラが襲ってくるというのが基本パターンである。

ゲームの中のエジプト神話

 エジプト要素をふんだんに盛り込んだ漫画作品といえば初代遊戯王であり、主要な神々がカードとして登場し、死者の裁きのエピソードなども用いられ、古代エジプト時代を舞台にしたゲームも作られている。その他のゲームでは、主に見た目の特徴的なバステトやアヌビスなどがモンスターとして出てくる程度である。中でも、女神転生シリーズは真・女神転生if…からエジプト由来の神々がかなり多く登場するようになった。また変わったケースとして、真・女神転生2ではセト=サタン説を採用している。これはサタンがセトの犬を意味する「セト・アン」から来ているとされるというもので、あまり有力な説とはいえないが、本作ではある人物がセト合体することによってサタンの姿を取り戻す。

 エジプト神話というより古代エジプト文化のゲームへの影響としては、何より「遺跡探検」の素材を提供したことにあるだろう。つまり、世界のどこかにピラミッドなどが遺跡として存在しており、足を踏み入れるとミイラなどが蘇って襲ってくるが、無事やり過ごせば内部のお宝を入手できるという流れだ。このパターンはドラクエ3、FF5、トレジャーハンターG、ヘラクレスの栄光4などに見られる。エジプト的なものに限らず、巨大な墓に足を踏み入れると、埋葬された死者が襲ってくるというのも、ここから少なからず影響を受けているだろう。

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