ゲームの用語事典:「ダンジョン」

Gayaline

 ゲームに定番の要素や概念について一つ一つ考えていくこのコーナー。今回対象にするのは「ダンジョン」。果たしてダンジョンはなぜあるのか、何の役に立っているのか、どんな種類があるのかということについて、じっくりと考察してみました。


 今回のテーマは「ダンジョン」である。RPGにとっては欠かせないものであるこの要素についていろいろな角度から考えてみよう。

ダンジョンとは

 まずは言葉の意味について。ゲーム用語としてのダンジョンが何なのかはすぐにイメージできるだろうが、実は本来この単語には探索すべき洞窟や塔といった意味はなく、英語のdungeonというのは元々「城の地下牢」のみを指していた。ただしWiktionaryではdungeonのゲーム用語上の意味として「敵がいて、冒険の目的や宝、ボスが存在する領域」というものが記されているので、英語でもダンジョンは同じような意味を有していることがうかがえる。何よりRPGの元祖となったのが「Dungeons & Dragons」であり、そこからゲーム的なダンジョン概念が広まったとみていいだろう。

 上記の定義では、ダンジョンというのは地下牢はおろか洞窟にも限定されていないことがわかる。後でまとめるが、実際RPGなどでダンジョン扱いされるものは地下に潜るものだけではなく、上に登っていくものも存在している。この定義ではダンジョンと町やモンスターのいないほこらなどを区別できるが、より正確なダンジョン概念のために、ここに「フィールドとは別のマップ」という定義も付け加えたい。この「フィールドとは別」という要素はドラクエのようなスタンダードRPGだけではなく、ゼルダの伝説のようなアクションRPGやオープンワールドのゲームでも存在している。もちろん細かくマップを切り替えていくゲームのようにフィールドとの区別がないものもあるが、その場合はダンジョン概念自体が希薄といえる。そしてこのフィールドとダンジョンの区別という点は、ダンジョンの機能を考える際に重要になってくる。

ダンジョンの機能:何のためにあるのか?

 次に、ダンジョンのゲームデザイン上の機能を考えてみよう。思い当たるものはいくつもあるが、主なものとして「空間の拡大」「冒険の目標となる」「環境を変化させる」が挙げられる。順に解説しよう。

空間の拡大

 おそらくダンジョンの最大の存在意義がこれである。どういうことかというと、ダンジョンがあることによって自由に空間を拡張でき、「歩かなければいけない距離」を好きに設定できるということである。歩かなければいけない距離というのはゲームデザイン上重要である。歩く距離が延びるとMPやアイテムなどのリソースを消耗していくことになり、奥にたどり着くのを難しくすることによって、冒険の手ごたえを演出できる。これはドラクエが得意とするデザインで、以前セーブポイントのところで書いたが、4以降のFFのように途中で回復できるようなダンジョンはボスを強くできる代わりにリソース管理の必要性があまりなく、突破に苦労しない。クリスタルタワー以降、FFに「難ダンジョン」みたいなものが存在しないのもそのためである。

 ダンジョンの特徴として、「奥に進むのは難しいが出るのは簡単」という共通点がある。これも、ダンジョンがリソース消耗のために存在していることを示しているといえるだろう。諦めるのは任意だが、制作者が設定した距離を歩かないで突破することは許されない。リレミトで出るのは自由だけど、出たら最初から挑戦してね、ということだ。

 ダンジョンのリソース消耗の機能がいかに効果的かは、ダンジョンがないケースを見てみればわかる。FCの天地を喰らうでは細かいダンジョンはあるものの、三国志という原作ゆえに主な戦いの場は城攻めである。そしてその城攻めはフィールドから直接行える。その上天地を喰らう2では「やえいのどうぐ」というテント的なものを用意してしまったせいで、ボス前に消耗が一切なく、そのせいでボス戦が単調になってしまっている。道中で戦力を使うか、ボスに温存するかといったジレンマが発生しないのだ。

 その他にも空間を拡大することによって、宝箱によってアイテムを提供することができるし、分岐点やワープを設けたり、パズルを置いたりと構造を制作者の自由にできる。どのように空間が広がっても違和感がないというのが、特に洞窟タイプのダンジョンの強みといえる。ダンジョンメイクはゲーム制作者の腕の見せ所だろう。

冒険の目標となる

 英語版の定義にも含まれていたが、ダンジョンは冒険の目標に最適である。会話上でも、フィールドのこの辺に行けと言うよりもなんとか洞窟に行けとする方が明確だし、ボスやら何やらがいる理由付けにもなる。またダンジョンに挑むというと、次の町に行くのに比べてしっかり準備しなくちゃという気分になり、冒険にメリハリが出る。クリアしたときに一区切りになるのも同様である。

 他方で、必ずしもダンジョン自体が目的ではない「通過点」ダンジョンもある。ロンダルキアの洞窟がまさにその例だが、この場合は目標というより手強い障害として存在しているといえる。

環境を変化させる

 ダンジョンがフィールドから独立しているというのは、生態学的な意味でもそうである。これもまた冒険上のメリハリの話だが、ダンジョンで地下に潜ったり、上に登ったりすることによって見た目上の単調さを避けることができるし、そのダンジョンの環境にふさわしいモンスターを置くことによって、生態学的なリアリティを増すことができる。日中のフィールドにゾンビやスケルトンが出るのは変だが、ダンジョンであれば違和感はないということだ。そしてこの環境の要素は、ダンジョンの種類によってバリエーションを増すことができる。森では野生動物が出て、城では兵士が、火山では暑そうなモンスターが出るならば冒険の臨場感も増すことになる。ダンジョンはゲームの世界観にも影響を及ぼしてくるのだ。

 環境のメリハリを考慮すると、やはり同じタイプのダンジョンは連続して出すべきではないだろう。実際にいろんなRPGを見てみると、洞窟の次は山、その次は神殿と塔といった風に、多彩な環境を用意していることがわかる。ダンジョンの種類の引き出しを多数用意しておくことは、面白いゲームを作るためには重要なことだといえる。

ダンジョンの種類

 ダンジョンの環境の話が出たが、実際にどのような環境がダンジョンとなっているのかを調べてみよう。

人工物

 人工物のカテゴリーでは、真っ先に「地下迷宮」が挙げられる。これは初代ウィザードリィはおろか、ギリシャ神話のラビュリントスにまで遡る由緒正しいダンジョンであるが、あまり広くなりすぎると少々説得力に欠けるかもしれない。

その次にメジャーなのが、「城や要塞」である。元々が防衛目的であり攻め込むには最適といえ、奥に大ボスが鎮座していることも多いためにラストダンジョンの候補としてふさわしい。実際、過去に100のRPGのラストダンジョンを調べてみた時には、城が23%で一番多かった。

 しょっちゅう出てくるけれど現実的にはおかしいものが、「塔」である。これについては下で詳しく論じよう。

 城に似た地上の人工施設としては、「神殿や寺院」がある。この場合はボスがいるというよりは、何か不思議なアイテムを入手しに行くことが多いだろう。

 「廃墟や遺跡」もまた、格好の冒険の対象となる。この場合何の遺跡なのかの説明が必要だが、古代文明の超技術的アイテムを配置するのにも適している。定番の形態としてはピラミッドや古墳(墓)、神像がよく使われる。神像というのはダンジョンとしてよくわからないが、牛久大仏とかも中に入れるしそういうものだろうか。

 こちらも指輪物語以来の由緒正しいダンジョンが、「坑道や鉱山」である。半人工・半自然といえるが、何より複雑に入り組んでいて広いことの理由付けがなされているという点で自然洞窟よりも説得力のあるものとなっている。

 SF世界観で定番なのは「基地」である。要するに要塞が近代化したものといえるが、SFの場合なんとかベースみたいな形で多数出てくる。研究所とか兵器工場などもここに入れていいだろう。

 同様に近代以降の世界観のゲームでは、「巨大な乗り物」がダンジョンになることもある。戦艦や宇宙船などである。沈没船もこれだろうか。本来あまり大きくはできないはずだが、かなりの広さになるのが定番である。また巨大なロボットの内部も探索できたりする。

 何とも分類しにくいのが、工場や倉庫、普通のビルなどを探索するタイプである。「非戦闘用建造物」とでも呼ぼうか。だいたいにおいて悪の組織の根城になっていたりするので、アジトと言ったほうがわかりやすいかもしれない。ポケモンなど、城や要塞が出せない現代が舞台のRPGで頻出する。

自然物

 次に自然のダンジョンを見ていこう。やはり定番は「洞窟」である。現実のものとは比べ物にならないくらい広く、整然としており明るいが、ゲームをする側は特に違和感なくそれを受け入れている。

 さらに自然ダンジョンの華といえるのが「山」である。外で景色を楽しんでもよし、入り組んだ内部に入ってもよし、さらに塔や要塞を設けてもよし。山越えであれば一大チャレンジとなるし、火山や雪山などにして環境の変化も楽しめる。変種としては垂直に登っていく「岩壁」というのも存在する。逆に「谷」というのはダンジョンになるというよりは、そこを必ず通らねばならず、何かしらのイベントが起こる地点として設置されることが多い。

 また自然の地形で迷う場所といえば、何より「森」だろう。正解ルートを探さないと進めない迷いの森というのは定番だが、以外にもドラクエでは5からと結構遅い登場だったりする。一番早い迷いの森はどのゲームなのだろうか。

 さらに正反対の環境だが、「砂漠」が迷いの森的なダンジョンになることもある。風景に変化がないので迷ってしまうということだろう。砂嵐で視界が悪いとか、流砂で流されるというギミックもあったりする。

 一方で「川や湖」というのは足場が安定しないため単独ではほとんど登場しないが、ボートやイカダなど移動手段があれば面白い環境となる。ロマサガ2のコムルーン海峡のように、水流によって仕掛けを設けることもできる(あれはどう見てもワープしてるけど)。「沼」はどちらかと言うと森の一部となっていることがほとんどである。

 わりと珍しいものとしては「大樹」があり、ドラクエ4が初出と思わせて、実はヘラクレスの栄光2のほうが早い(差は数ヶ月なので、ドラクエ4の開発情報を見ていち早く取り入れた可能性はあるが)。奇異なタイプに見えるが、北欧神話の世界樹ユグドラシルという由来が存在するので、ダンジョンになるのはそんなに不思議でもないかもしれない。

 さらに凝った例では、巨大な「生物体内」というのがあり、FF2がその先駆けだろう。また生物は大きくなくとも、主人公たちが小さくなるというサガ2やブレスオブファイア2のようなケースもあるが、これは映画『ミクロの決死圏』に影響されてのものと思われる。

 こちらも分類が難しいのが、FFシリーズの最後の最後で出てくるような「異次元・異空間」的な場所である。フィールド上から直接入れるタイプは珍しく、どこかのダンジョンからさらにワープするなどが多いが、FF5のラストダンジョンなどはずっと異次元である。雰囲気が盛り上がるためかスケールの大きいラスボスを出すためか、最後の決戦の場としては非常に人気がある。

精神世界

 人工物にも自然物にも属さないダンジョンとしては、人の夢の中や心の中といった「精神世界」と呼ぶべき場所を冒険することもある。マザー1のマジカント、続編のムーンサイドはその代表で、他にも真・女神転生やFF6、ブレスオブファイアやロマサガ3など探してみると結構あったりする。夢の中には町があったり城があったりして、さらに細かく分かれる場合もある。

塔って何だ?~ゲームデザイン上の優等生~

 ここまで眺めてみて、現実の環境とおよそ乖離していると思われるのが「塔」である。塔はドラクエFFをはじめあらゆるゲームにやたらと出てくるが、現実の塔はピサの斜塔のように古いものも、エッフェル塔や東京タワー、通天閣のように近代のものもダンジョンになりうるほど広いものはない。それに比べてゲームの塔はやたらと広く、高く、建設される必然性がない。ドラクエ2のドラゴンの角の塔はなぜあんなに高いのか、2本もあるのかが謎だし、黄金の太陽の大灯台のサイズといったら化け物レベルである。およそ現実に建てられるとは思えない。

 こういう現実的な必然性がないものは、逆にゲーム上の存在意義があると考えてみていいだろう。考えられる塔のメリットはたくさんあり、第一に洞窟とは逆方向の、上方に伸びる構造のため環境的にメリハリがつけられる。また少々無茶だが、飛び降りられるようにすることで脱出が容易となる。デザイン上脱出手段はあった方がいいのは先に述べた通りであり、ドラクエはこの点を特に重視しているために塔が好まれると考えられる。その他にも、塔は必然的に上に行けば行くほど床面積が狭くなり、洞窟に比べて進んでいる感が出しやすいし、頂上にボスが鎮座しているのも納得がいく。ゲームの塔が無暗に高くなるのも、リソースを消耗させやりごたえを出したいがゆえである。

 これ以外にも、神話的・ファンタジー的な理由もあるだろう。世界の神話では、バベルの塔をはじめとして「天にも届く塔」のモチーフが幾度か登場し、宗教学者のエリアーデはこうした天地をつなぐものを「アクシス・ムンディ(世界軸)」と呼んでいる。先の世界樹や塔、山が複数の世界を貫き、天地をつないでいるという考えはポピュラーなものなのだ。実際にゲームでもそうしたタイプの塔は存在し、ハイドライド3のハーベルの塔や魔界塔士サ・ガの塔など枚挙に暇がない。

 おまけに、塔というのは現代的世界観にもなじむものである。基地よりも巨大な建築物として塔を出せるし、実際に宇宙まで塔を伸ばしてしまおうという軌道エレベーターの計画もあり、ガンハザードなどに登場している。総じて、塔ほどゲーム的・神話的なものはないのである。

世界観によるダンジョンの制限

 世界観ということでは、ゲームの世界観によって出せるダンジョンに制限がかけられることはわかるだろう。これは一般に、中世ファンタジーは広く、現代・SFは狭い。中世的な世界ならだいたい何があってもおかしくはないが、現代となるとお城や神殿はないし、あまり広い洞窟も変だし、迷いの森も出せないだろう。宇宙に出るSFものともなればほぼ人工物に限定され、宇宙船かコロニー内か、特に何もない星の地表かということになってしまう。こういう時にも、唐突に塔が出てきて助けてくれたりもするのだが。

 ともかく、世界観が登場しうるダンジョンを規定し、ダンジョンの多様性が環境の豊かさを指し示しているのである。以前RPGの時代設定を調べた時には、現代・SFのものは計2割しか存在していなかったが、これは決して安易に中世ファンタジーが量産されているわけではなく、少なくともダンジョンの面では、そうした世界観のほうがゲームとして作りやすいという理由もあるのだろう。

まとめ

 今回は、ダンジョンの意味や機能、種類について考えてみた。わかったことを以下にまとめてみよう。

  • ダンジョンの機能とは、空間の拡大させ歩き回らせることでリソース消費の余地を作り、
  • わかりやすい冒険の目的地となり、
  • さまざまな環境を提供しゲームの世界観に華を添えることである。
  • 探索可能な人工物・自然物がダンジョンとなりうるが、その形状はゲームデザイン上の要請により現実のものから大きく乖離している。最たるものが塔である。
  • 中世ファンタジーは登場させられるダンジョンの種類の幅が広く、ゲーム的にやりやすい世界観だといえる。

ダンジョン探検はプレイヤーにとって、理想的な「冒険」を提供してくれるものである。制作者が腕によりをかけたダンジョンに挑み、突破するのはゲームの楽しみの最たるものだといえるだろう。

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