ゲームのファンタジー世界観とはどんなものか

Gayaline

 今回は、「ゲームの中の神話分析リスト」の内容を用いて、ゲーム的世界観と世界の神話の関係について調べてみたいと思います。

 このリストは、ファンタジーRPG100作品に登場する神話要素を調べ上げ、いくつかの側面から記録したものとなっています。それなりの数があるので、全体の傾向といったものがわかると思いますが、果たしてどんな傾向が見られるでしょうか。


 ゲームと神話の関係、またはゲーム的世界観に対する世界の神話の影響について聞かれた場合、影響は確実にあるとは言えるが、どんな影響かと言われると簡単に答えるのは難しい。どれかの神話のストーリーがまるごと取り入れられているケースはまれだし、1つのゲームを取り上げて、すべての代表のような扱いをするわけにはいかないからだ。

 とはいえ、誰もがぼんやりとイメージしているようなゲーム的世界観というのは必ず存在する。それはゲーム外で再現された時に顕著で、とりわけ近年に隆盛の異世界転生ものに登場する世界は、そのゲーム的世界観を大いに反映している。

 そこで今回は、ゲーム的世界観の正体を掴むために、多数のファンタジーRPGに登場する神話の要素を調べることによって、全体の傾向を明らかにすることを試みた。

 その結果が「ゲームの中の神話分析リスト」である。このリストは、各作品に対して、世界の神話のどの要素が用いられているのかを逐一リストアップしてある。リストの見方は上記ページの解説を読んでほしいが、Mはモンスター、Cはキャラクター、Iはアイテム、Lは地名・世界観が用いられていることを表している。

全体的な傾向の分析

 このリストは、集計を行うことによって真価を発揮する。では早速、神話ごとの各要素の登場回数をカウントしてみよう。半数を超えているものは太字にしてある。

モンスター 登場人物 アイテム 地名・世界観
妖精 84 45 58 23
ギリシャ 82 24 41 8
聖書・天使 23 24 28 7
悪魔 59 27 11 2
北欧 37 24 55 11
ケルト 11 6 20 2
中東 47 15 6 4
エジプト 13 4 8 7
インド 40 7 14 3
中国 14 7 24 5
日本 26 14 56 39
仏教 7 10 9 5
中南米 12 1 1 0
クトゥルフ 6 2 2 3

ここからいろいろなことがわかる。どの要素でも出現頻度が高いのが妖精(幅広いヨーロッパ伝承)とギリシャ神話であり、これにユダヤ・キリスト教的な悪魔を加えたものがファンタジー世界の基本セットといえる。

 それは何よりモンスターに顕著で、ゴブリン、エルフ、ドワーフといった存在は8割以上のゲームに登場している。ギリシャ神話からもメデューサ、キマイラ、ハーピーといった怪物の出現は定番である。続いて悪魔も半数以上を占めており、天使は登場しないのに悪魔だけ出てくるケースが多いことから、悪魔はユダヤ・キリスト教的世界観の外に出て、より普遍的な存在として用いられていることがわかる。意外だったのが中東の多さで、これはバビロニアなどのオリエント神話とアラビア伝承を包括していて範囲が広いのは確かだが、ティアマットやジン、ルフ(ロック鳥)などがかなりの頻度で登場していることがわかった。インドすなわちヒンドゥー神話の人気も相当なもので、神々の他にナーガやヴリトラといったモンスターを輩出している点が汎用性の高さに繋がるのだろう。北欧神話も同様で、神々よりはフェンリルやミドガルズオルムなどの怪物の登場が多い。その他の地域で言えば、日本は忍者や正宗など和風要素は多いが、神話や妖怪などの登場頻度はそこまでではない。

 「登場人物」の項はよりストーリーに関わる存在を示しており、世界観に対して大きな寄与をしているといえるが、やはり妖精やギリシャ神話が多い。また、モンスターと登場人物の比率は、怪物の登場が多いか神などの知的存在の登場が多いかということを示しているが、その点を見ると聖書・天使と北欧、仏教がキャラクターに偏っている。逆にギリシャ、インド、エジプト、中南米はモンスターの方に大きく傾いており、モンスターのみの登場がほとんどだということがわかる。

 「アイテム」はこちらで解説しているような、神話的武器・道具の登場を示している。妖精はエクスカリバーの高い登場頻度に加え、「ドワーフの鎧」といったアイテムが多いために高い登場率となっている。ギリシャ神話も神々の武器やイージスの盾に加え、「アトラスの斧」といった神々の名を冠したアイテムが多くみられる。北欧神話もアイテムの供給元としては大人気だが、実際にグングニル、ミョルニルなど魔法の道具が神話に多数登場することを反映しての結果だろう。ケルト神話はさらにその傾向が顕著で、持ち主のクーフーリンやルーを差し置いて、ゲイボルグやブリューナクだけが登場することが非常に多い。日本の多さは神話的アイテムに限らず正宗などもカウントしているからだが、こちらも世界観に関係なく刀だけ出てくるというケースがかなりある。

 「地名・世界観」は主に各地域の雰囲気を模した町やダンジョンが登場するかを指しており、その世界全体というよりは一部を構成する傾向にある。日本が非常に多いが、これはウィザードリィのように西洋風世界観にもかかわらず侍や忍者が出てくるケースが人気だからで、FFもこれを踏襲している。次いでドワーフの村などが含まれる妖精がやはり多いが、エジプトもピラミッドなどが時折登場する。

ゲームの世界観の3類型

 次に、リストを見ながら複数の神話要素の組み合わせに注目しよう。先ほどの集計でもわかるように、典型的に見られるのは妖精、ギリシャ、悪魔であるが、妖精とギリシャからモンスターが登場するのは78作品、これに悪魔も加わっているものは56作品となる。悪魔のM総数は59なので、悪魔が出ていればほぼ妖精やギリシャ神話のモンスターも出ているということだ。キャラクターにも注目すると、エルフやドワーフが登場することを示す妖精のMCは42作品。これにギリシャのMと悪魔のMを加えても26作品と、4分の1が該当する。この辺りがゲームの典型的世界観といえるだろう。

 つまりゲームの典型的世界観とは、妖精伝承のモンスターと種族、ギリシャ神話のモンスターと悪魔が登場するような世界観である。これにはドラクエとFFナンバリングの約半数やウィザードリィ、オウガバトルやシャイニングシリーズ、エストポリス伝記が該当する。この基本からいくつかのバリエーションが考えられ、悪魔をマイナスするとより妖精物語っぽい世界観となる。ドラクエの半数、聖剣伝説、テイルズオブシリーズの一部がそれにあたる。典型的世界観からエルフなど妖精種族を除くとほぼモンスターのみが登場する、「最小限ファンタジー」とでも言えるものになる。FFの半数やサガシリーズ、FFUSA、ブレスオブファイア、ウルティマなどがそれにあたり、オリジナルの種族が登場するイヴァリースやFFCC世界観もそうである。以上の内容を図で表してみよう。

 この3類型が、ゲームのファンタジー世界観の大半をカバーしているといっていいだろう。もちろん例外もあり、今回の100作品の中では31作品がこれ以外のパターンである。その中には、桃太郎伝説やカオスシード、ヘラクレスの栄光のように特定の神話的世界観が強いもの、クロノトリガーやレナス、ブラッドオブバハムートのようにオリジナル要素が強いものがある。またこのパターンに合致するものの中でも、女神転生系列はさらに多数の神々が登場する独特なものとなっている。

 この3類型のバランスはわりと取れている。それぞれにシリーズ作品が含まれているし、FFやドラクエもナンバリングによっては3つの間を行ったり来たりしている。また、ゲームのファンタジー世界観が指輪物語などのトールキンの世界観そのままでないこともわかる。トールキン的な世界観は「妖精物語的世界観」にかなり近いが、ゲームのそれはギリシャ神話のモンスターのモンスターを取り入れている点で違いがあり、それに加えて悪魔が出てくるものも全体としては多い。一方D&Dなどの初期ファンタジーTRPGの世界観とゲームは近いはずだが、その点はもう少し詳しく見る必要があるだろう。

まとめ

今回わかったことをまとめてみよう。

  • ヨーロッパ妖精伝承とギリシャ神話のモンスターは、ほとんどのファンタジーゲームに登場している
  • 同時に妖精の種族やその村といったものも、多くのゲームに登場している
  • 各神話では、モンスターだけゲームに用いられるケースもあれば、神々が登場人物として用いられるケースもある。神々はモンスターに比べれば登場する割合は多くない
  • 同様に、それぞれの神話の不思議な武器や道具のみがゲームに用いられることも多い。北欧神話の道具が人気だが、ギリシャ神話や日本の刀なども頻度が多い
  • 和風要素は、たとえ西洋風ファンタジーでもかなりの頻度でピンポイントに登場する
  • ゲームのファンタジー世界観を類型化するならば、妖精伝承の妖精伝承のモンスターと種族、ギリシャ神話のモンスター、ユダヤ・キリスト教の悪魔を含んだ「典型的世界観」、そこから悪魔を除いた「妖精物語的世界観」、前者から妖精種族を除いた「最小限ファンタジー」に大別できる。それぞれの割合は同じくらいで、例外として独特な世界観をもつものが3割強存在する

というところだろうか。このリストからわかることはこれだけではないので、引き続き神話単位の分析や、ゲーム単位の分析も行ってみたい。

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