ゲームの用語事典:「セーブポイント」

Gayaline

 新たに始まったこのコーナー。ここでは、さまざまなゲームに共通する要素に着目し、多くのゲームの例を見ながらその要素のゲームにおける役割や働きを明かそうという、ゲームデザイン論のようなものが展開できればいいなと思っています。

 記念すべき第一回の主題は「セーブポイント」。ゲームには欠かせない要素であるセーブポイントは、実は単にシステム上の必要から存在しているわけではなく、その背景には開発者の意図があり、ゲーム内容とも深く関わっています。果たしてセーブポイントとゲーム性との関係は何なのか、それは以下を読んでのお楽しみということで、それでははじまりはじまりー。


コンシューマゲームではFCのディスクシステムで導入されて以来ゲーム、特にRPGでは欠かせないセーブ機能。しかし疑問に思ったことはないだろうか。なぜドラクエは教会でセーブし、FFはフィールドならどこでもセーブでき、ロマサガはフィールドに限らず移動中はあらゆるタイミングでセーブできるのか。この違いはたまたまなのか、それとも意図があってのものなのか。筆者の意見はもちろん後者である。ゲームの要素にゲーム性に関係ないものはないからだ。以下ではそうしたセーブ方式の違いとゲーム性との関係について論じてみよう。

セーブ方式の類型

セーブ方式が違うと、ゲーム性にどんな影響が出るのか。そのことを考える前に、まずは現在見られるセーブ方式を分類してみよう。

拠点型

ドラクエ式と言えば手っ取り早いが、もっともメジャーなセーブ方式の一つがこれだろう。つまり街などの安全な場所の、特定のポイントでのみセーブできるという形態がこれだ。教会=セーブというよくわからない刷り込みを植え付けた原因でもある(そもそもドラクエ2で教会はお告げという形でパスワードを教える役割だったのが、その後セーブの導入に伴い教会がそのまま役割を引き継いでしまったのが原因なのだが)。

この方式のポイントは「拠点」というところで、街に限らず決められた場所ならどこでもセーブができる形式とはまた違う。具体的には聖剣伝説2と3の違いである。拠点のどこでセーブできるかは、やはり教会では不自然だし、世界観に合わないケースもあるからか、宿屋というパターンもかなり多いように思われる。エストポリス伝記などは教会セーブの伝統を忠実に守っているが。

フィールド型

これは見ての通り、フィールドならどこでもセーブできるというタイプだ。3までのFFなどが該当するが、実はそれほど該当するゲームは多くはない。というのも以下のセーブポイントの誕生により、フィールドだけでセーブできるという方式はだいぶ減っているからだ。また、アクションRPGのようにフィールドとダンジョンの区別がないものはどうするのかなどの疑問もあるし、拠点でもボス前でもないという中途半端さがゲーム性的にもメリットが少ない。この点は後述する。いずれにせよ、過渡期のセーブシステムといえる。

セーブポイント型

この分類には、拠点に限らず特定のポイントでセーブ可能なゲームが含まれている。フィールド+セーブポイントというFFの基本形式もこちら。そしてここに来て、ついに「セーブポイント」が誕生することになる。FFなら4からだ。このことはゲームに大きな変化をもたらすことになる。下で詳しく述べよう。

セーブポイントの形態もいろいろあるが、FFによくある「特別そうな場所」と聖剣3やルドラの「特別そうなオブジェ」が2強であるように思われる。いずれにせよ、何でセーブできるのかという説得力は、宿屋で日記帳に書くパターンよりは弱いが。

どこでも型

読んで字のごとく、どこでもセーブできるタイプである。サガシリーズやポケモンなどが代表だろう。これも採用例はかなり多いが、この形式がゲームとして最善であるかというとそうでもない。むしろサガとポケモンがそうであるように、ゲーム機の性質から求められている節がある。つまり携帯機であるゲームボーイでは、どこでも遊べる代わりにどこでも中断できないといけないということである。逆に言えば、携帯機にもかかわらず、中断セーブなどを設けてどこでもセーブを導入していないものは、そうしない理由があるということである。

オートセーブ型

このタイプは、個々の行動や戦闘終了ごとにセーブされるというものだ。導入はウィザードリィがかなり早いのではないかと思われるが、印象的なのは不思議のダンジョンシリーズだろう。また現在のゲーム、特にスマホゲームはほぼこれだが、そこには理由がある。

この形式のポイントは、オートセーブというのはセーブ機能の一部の恩恵を受けられないという意味で実質ノーセーブだということである。ファイアーエムブレムを考えてみればわかるが、もし1手ごとにデータが上書きされるのであれば、それはノーリセットプレイと呼ばれるものになる。つまりやり直しを許さないのであり、このことがゲーム性に大きく影響を及ぼす。

セーブポイントの機能:「やり直し」を可能にする

さて、こうしてセーブ方式を分類するだけでも、結構セーブポイントの機能というものが見えてきたのではないだろうか。セーブポイントの機能とは、「やり直しを推奨する」ことである。ボス戦前にセーブポイントを置くことで、たとえボスに負けてもやり直しが可能となる。その結果どうなるかというと、ボスを強くできるのである。つまり、トリッキーな行動で弱点を見破らないと倒せないとか、特定の対策を取らないとあっという間に全滅するとかそういうボスを出せるのだ。もしセーブポイントがなく、ダンジョンの奥にそんなボスがいたとすると、運が悪いとあっさりやられてしまって最初からとなる。プレイヤーからは、そんな「初見殺し」を置くなんてずるいという非難の声が上がるだろう。

ボスを強くしたいけど負けて街に戻るのはだるすぎる、そんなジレンマを解消するために発明されたのがセーブポイントであったと推測できる。その証拠に、セーブポイント初導入のFF4では、上述のようなトリッキーなボスが非常に多くなっている。つまりセーブポイントがゲーム性を変えたのである。そしてこの点こそが、FFがドラクエとの差別化に成功した一要素であるように思われる。その結果、セーブポイント=その先にボスというまた別の刷り込みが生まれてしまうことにも繋がるのだが。

そしてこのやり直しの機能は、どこでもセーブのゲームではさらに顕著になる。セーブを頻繁にできればできるほど、不慮の事故からのリカバリーがきくので、戦闘が多少理不尽になっても問題ないのだ。ここで思い当たるのはロマサガやサガフロだろう。つまり雑魚戦でもいつ全滅するかわからないゲームでは、どこでもセーブは最良ということになる。オールドキャッスルをセーブなしで踏破するなんて嫌だよそりゃ。

セーブポイントのデメリット:やり直しの弊害

そういうことであれば、何が何でもセーブポイントがあったほうがいいのだろうか。あるいはその後もボス前セーブを導入しないドラクエは時代遅れのシステムに固執していたのだろうか。決してそんなことはない。セーブができたらできたで、そのことによるデメリットも発生する。それは同じく「やり直し」の機能に由来するもので、つまりは簡単にやり直せてしまうということだ。簡単にやり直せるということは、緊張感がないということに繋がる。そうなると、ダンジョンの奥でそろそろやばくなってきたけど引き返したほうがいいのかなとか、果たしてこのボスに勝てるだろうかとかの判断をする必要もなく、ダンジョン探検のドキドキ感もないわけだ。おそらくドラクエはこのことを嫌って、セーブポイントを導入しなかった。これにいくつかの要素(MP回復アイテムがほとんどないなど)が加わり、ドラクエのダンジョン探検は残りリソースとの戦いになっており、ボス戦もいかに万全の状態でたどり着くか、こちらが力尽きる前に勝てるかという総力戦の様相を呈している。

この点でも、より突き詰めたセーブ方式が存在する。まるっきり自発的にセーブできないオートセーブのゲームがそれだ。不思議のダンジョンがそうだが、まさにリソース勝負であり、自由にセーブできていたら倒れてアイテムを失うということの緊張感もまったくなくなる。すなわち、オートセーブのゲームに関しては自由なやり直しができない反面、緊張感やうまくいった時の達成感については飛び抜けているということである。

セーブポイントと確率要素

このように、セーブポイントのあり様はゲーム性と密接に関わっており、多くのゲームではそのデザインに合わせて適切なセーブ方式を選択していることがわかっただろうか。この他にも、セーブと関係するゲーム内要素は存在する。それは確率に関わるものだ。特にその確率が非常に低い場合に、影響は顕著となる。

考えてみよう。普通のRPGの中に低確率で有用なアイテムが手に入る「ガチャ」のようなものがあったとして、それを引く直前にセーブできたらどうなるか。誰だっていいものが当たるまでリセットするだろう。たとえばヘラクレスの栄光IVで錆びたアイテムを磨くと最強武器が出てくるシステムがまさにそうなっている。その作業は悪いものではないが、無駄な手間を強いているという点で褒められたものでもない。そういった理由で、ガチャのあるゲームは頻繁にセーブできるようにすべきではないし、逆に頻繁にセーブできるゲームにそういった要素を入れるべきではない。他者との競争の要素があるネットゲームやソーシャルゲームはなおさらで、オートセーブ導入によってこれを防ぐことになる。

おそらくドラクエにカジノがあり、FFにはあまりない理由もそれである。セーブポイントが遠いから、リセットして何度もやり直したくなる気持ちが抑えられているということだ。いずれにせよ低確率のボーナス要素とセーブポイントは相性が悪いといえるだろう。

とはいえいくらセーブ頻度を減らしても、プレイヤーのほうはレアなものに対しては手に入ったらラッキーではなく、何度も挑戦したくなるものであるが。メタルマックスなんかがそれだ。

セーブ頻度とゲーム性の関係

ここまで見ていくと、結局ゲーム性と関わるのは、どこでセーブできるかというより、セーブポイントがどのくらい遠いか、どのくらいの頻度でセーブ可能かという「セーブ頻度」がもっとも重要な要素であることがわかるだろう。先ほどの類型で言うと、

オートセーブ→拠点型→フィールド型→セーブポイント型→どこでも型

の順でセーブ頻度が上がり、それに伴いゲーム内の他の要素も影響を受けるということになる。ゲームを作る側としては、実装したい要素に合わせて、どのセーブ方式を取るかを選択することになるだろう。ただし携帯機では頻繁なセーブが必要とか、セーブ先が外部記録メディアの場合はオートセーブが難しいなどのハードの性質によってセーブ方式の選択肢が限られる場合もある。それはつまり、ハードが何かということも、意外とゲーム内容に影響しているということである。

まとめ

以上、今回はセーブポイントとゲームデザインの関係についていろいろと考えてみたが、ここまでの内容をまとめてみよう。

  1. ゲーム内のセーブの方式はいくつかの類型に分けることができる。
  2. それらは主に、どのくらい頻繁にセーブできるかの違いである。
  3. セーブの機能は、それ以後に起こることをやり直せるということにある。
  4. やり直しが頻繁に可能なRPGでは、ボスを強くできる代わりに、リソース温存の要素や突破した時の達成感は劣る。
  5. やり直しがあまりできないRPGでは、奇抜なボスが出せない代わりに、リソース温存の要素や緊張感が生まれる。
  6. 頻繁なセーブと低確率で手に入るボーナス要素は相性が悪い。
  7. セーブ方式はゲーム内容に合わせて最適なものを選択すべきだが、ハードによる制約もある。
  8. なのでハードがゲーム内容に影響する側面もある。
  9. つまるところ、セーブポイントの存在はゲーム性を大きく左右している。

という感じである。普段何気なく利用するセーブポイントの裏に制作者の意図があり、セーブ方式がゲームデザインに影響するということがおわかりいただけただろうか。このようなゲーム制作上の工夫を読み取ることで、作る側にも遊ぶ側にも新発見があるかもしれないので、このような「テーマ論」もどんどん進めていきたい。

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