バインディング・オブ・アイザックのストーリー考察

Gayaline

 ローグライクアクションの草分け的作品、バインディング・オブ・アイザックについて、最新バージョンであるリペンタンスの攻略ページを作ってきました。
 ここではさらなる情報として、謎の多い本作のストーリーについて、ゲーム内で明らかにされている情報から考察を加えてみたいと思います。
 その際には、Binding of Isaac Rebirth Wikiの補足情報や開発者の発言を参照しています。


本作の基本的なストーリー

 オープニング映像で示されている通り、バインディング・オブ・アイザックの基本プロットは、キリスト教に傾倒しすぎておかしくなってしまった母親が、「神」の命令で息子であるアイザックの命を捧げようと殺害を迫るので、必死に逃げた末に、地下への落とし戸を発見してそこに飛び込む、というものである。
 とんでもない話と思うかもしれないが、これは聖書の「イサクの奉献」を現代風にアレンジしたものである。本作のキリスト教的要素については別の機会に考察するとして、今回はより具体的な側面について見ていこう。

エンディングで起こること

 地下世界を冒険したアイザックは、うまく行った場合はママやその他の最終ボスを倒して、エンディングを迎える。その際の展開は複数あるので、それぞれのエンディングで描写されていることをまとめてみよう。

エンディング名 内容
エピローグ アイザックはとうとう追いつめられるが、聖書が棚から落下し、ママは気絶する。これで助かったように思えて、それまでの場面はアイザックの描いた絵であり、現実のママが包丁を持って現れる。
エンド1 アイザックが宝箱を開けると、中に入ってしまう。その後さまざまな姿に変化する。
エンド2~9 アイテムを発見するだけなので省略。エンド5ではママの手がアイザックを殴り、箱の中に連れ込む。
エンド10 宝箱を開けると、???が箱の中におり、アイザックに向かって微笑む。
エンド11 宝箱を開けると、イットリブズが背後に現れる。
エンド12 宝箱を開けると光が漏れ、アイザックの姿がケイン、マギー、ユダ、イブ、アザゼルに変化する。アイザックは箱に入り自ら蓋を閉じる。
エンド13 本を読んでいるアイザックが鏡を見ると、自らの姿が真っ黒になっている。アイザックは部屋の隅の宝箱を悲しそうに見つめる。
エンド14 父親と母親が写っている場面や、アイザックがママに追いつめられる場面、父親が去る場面などの写真が順に映り、ENDが表示される。
エンド15 家の外の電柱にアイザックの尋ね人ポスターが貼られている。その近くでママが探している。
エンド16 ガッピーの手の入っている箱の中でアイザックが激しく呼吸している。少しずつ黒い姿に切り替わり、最終的にはアザゼルの姿になる。

 リバースの段階までのエンディングはこのような内容である。エンド15を除き、いずれのエンドでも問題は解決していない。最初に戻るか、宝箱に閉じ込められることになる。基本的な構造はゲーム性を反映して、ループものであることがうかがえる。
 最終ボスを倒すと登場し、アイザックが入っていく宝箱とは何だろうか。宝箱(チェスト)は天使ルートの最終ステージにもなっているが、これは宝箱の中ということなのだろう。そしてエンド10で示されるように、中に入ったアイザックが???に変化してしまうということも起こる。天使ルートのボスが???なのもそのことを指しているのだろう。後述のように???は撃破後に消え去るので、この場合は敵側のアイザックは宝箱から脱出することになる。
 これに続くアフターバース以降で追加されたエンディングを見ていく前に、いろいろなキャラクターやボスについても理解する必要があるので、まずはそれらについて考えてみよう。
 

各キャラクターについて

 本作にはさまざまなプレイヤーキャラクターが登場するが、エンド12でアイザックの姿が別キャラクターに変わること、エンド14の写真でアイザックが母親の服装とかつらをしていること、およびエンド16でアイザックがアザゼルに変化したことを踏まえると、これらはすべてアイザックが姿を変えたものだということが導ける。
 なおマギーは母親の名前で、本名はマグダレーン・モライア(Moriah)というらしい。モライア(モリヤ)は聖書でイサクが生贄にされそうになった地の名前である。父親はエイブラハム(アブラハム)であって、これは聖書の通り。
 ???はアイザックが宝箱に閉じこもって、窒息死した後の姿のようだ。同様に、キーパーはアイザックが干からびた後の状態、フォーガットンは白骨化した状態、ロストは魂だけになって浮かんでいる状態ということである。キーパーについてはエンド18で変身する様子が明かされる。
 「動く石像」的な存在であるアポリオンや、聖書的にはアイザック(イサク)の息子であるヤコブとエサウはアイザックとの関わりが不明瞭だが、基本的には各キャラクターはすべてアイザックの別の姿ということで理解するのがいいようだ。
 アイザックや???がボスとして出てくることも考えると、やはりこのゲームには平行世界のような感じでいろいろなアイザックが存在していることがうかがえる。それぞれのキャラクターはアイザックの可能性であり、世界が分岐した先の自分に出会っているということなのだろう。

ボスについて

 キャラクターと同じく、戦うことになるボスの多くも、アイザック自身との関わりが示唆されている。制作者が明かしたところによると、ボスバージョンのアイザックと???はもとより、ザ・ラムは原典ではイサクの代わりに捧げられた子羊だが、ゲームでは悪魔化したアイザックの姿だと言われている。さらにイットリブズはアイザックの胎児の姿で、「生まれて来なければよかった」という願いを表したもののようだ。
 またハッシュは???が変質した存在であり、アイザックに迫りくる死の運命を表したものらしい。一方でデリリアムというのは精神錯乱のことだが、撃破時の演出に示されているように、死ぬ直前の「走馬灯」のような存在のようだ。
 こうした点を考慮すると、本作のボスの多くはアイザックの中にあるネガティブな感情やトラウマが具現化したものと考えることができるだろう。排泄物系のボスなども、おもらしの嫌な記憶が襲ってきているものと受け取ることができる。
 そうしたボスを倒すということは、ネガティブなものを乗り越えるということになる。その過程を通して、アイザックの成長が描かれているというのが、本作のストーリーの大筋といえる。
 ボスの中で明らかに異質なのが、アイザックと???である。この2体のみ撃破しても弾け飛ぶことはなく、どこかに消え去るのみとなる。どちらも最初は泣いているが、段階が進むと立ち上がるとともに翼を得て、笑顔になる。???戦のBGMが「Ascension」であることも考えると、戦闘を通して天使的な姿へと変化し、昇天したケースのアイザックだと考えられる。
 この他、ファミンやデスなど黙示録の四騎士、サタンやザ・ビーストは聖書由来の存在である。そちらの解説はまたの機会に。

アイザックの家族について

 アイザックの家庭内関係も、本作のストーリーを理解する上で非常に重要な要素である。アイザックは母親と暮らしているが、母親からひどい扱いを受けていたことが、アイテム類に示唆されている。【朝ごはん】【昼ごはん】は腐っており、【晩ごはん】【デザート】は犬の餌である。
 ママについては数々の持ち物からも様子がうかがえるが、アイザックにとっては恐ろしい存在である。エンド21からわかるように、マザーはアイザックの想像上の母親像となっている。
 他方で父親についてはあまり情報がない。エンド14の写真から家を去っており、【離婚届】が出されていることがわかる。また【パパの失くしたコイン】は、脱アルコール依存症の自助団体に所属していることを示すものらしい(日本ではAAメダルと呼ばれている)。
 その父親の実態については、【パパのメモ】を入手することにより始まる逆戻りルートで聞こえる会話で多くが明かされた。流れとしては、父親がお金を使い込んでいることが判明→父親が飲んだくれていることで夫婦喧嘩→父を救うよう神に祈る母親に、おかしくなっていると言う父親→父親が家を出るというものである。
 これを聞くと、正直父親が黒幕だったというか、すべての元凶と思えても過言ではないだろう。母親がキリスト教にのめり込んだのも、父親がお金を使い込んで飲んだくれた末に家を出たためであると示されている。この父親は最終エンドでしれっと登場するのだが、そのことは次に触れよう。

最終エンドまでのエンディングの内容

 これらを踏まえると、ハッシュ以降のエンディングの意味も徐々にわかるようになる。その内容は次の通り。

エンディング名 内容
エンド17 家の外に尋ね人ポスターが貼られている。母親が宝箱に近付くと、中には白骨がある。アイザックは真っ白な世界で目を覚まし、その影は悪魔的な姿に変化する。
エンド18~19 アイザックが洞窟の中にいると、崩落が起きて閉じ込められる。その後その場所にはキーパーがおり、微笑む。エンド19では首が外れて身体からクモが解き放たれる。
エンド20 アイザックは宝箱の中で、「ぼくらはここに住んでいた」という絵、テレビを見る母親、父親の部分が焼け焦げた写真、壁に貼られた大量の絵を想起している。絵には平和な状態の家庭から、喧嘩する両親、包丁を持つ母親、悪魔的なモチーフの絵に「悪」と書かれたものなどがある。宝箱が空くと、そこには白骨がある。部屋の外では尋ね人ポスターが柱からはがれて飛んで行く。最後に、アイザックは真っ白な風景でどこかに歩いてゆく。
エンド21 アイザックがマザーの恐ろしい絵を描いていると、母親に見とがめられ、母親はアイザックが自分をモンスターと思っていたことに怒る。母親はアイザックをクローゼットに閉じ込める。その後母親は「主の祈り」を唱え始める。泣いているアイザックの背後にサタンがうっすらと現れる。
ファイナル ザ・ビーストとの戦闘中に天から光が差し込み、ビーストは退治される。アイザックは過去のことを思い出しながら、昇天していく。思い出は徐々に美しいものになっていく。その後真っ白になるが、そこで父親の声が聞こえ、ストーリーを書き直すように促す。書き直されたストーリーでは、アイザックは両親と暮らしている。

このうち、エンド17はアイザックがフォーガットンに、18~19はキーパーに変化するものである。
 エンド17とエンド20で出てくる真っ白な世界は、アイテムにもある「煉獄(パーガトリー)」ということらしい。煉獄とはカトリックの世界観において天国にも地獄にも行かない人が行くところで、天国に行くために罪を清める場とされる。字面的に地獄よりも恐ろしいものとよく思われているが、そうではない。
 両方のエンドが示しているのは、アイザックは宝箱の中で死亡し、煉獄で罪を清めることになったということだろう。ほとんど両親の犠牲者であるアイザックがそのような目に遭うのは気の毒な展開でもある。
 エンド21は、裏(tainted)キャラクターの誕生過程を描いている。クローゼットに閉じ込められた各キャラクターがある種やさぐれたのが裏キャラクターで、レッドキーによって解放することで使用することができるというわけだ。  そしてファイナルエンディングである。このエンディングはエピローグの前半と同様、アイザックの手描きイラストによって語られる。これはつまり、アイザックの内心の表現だということだろう。そしてその中で、アイザックはこれまでの人生を振り返る。この時、時系列はほぼ逆戻りになっている。つまり家庭内が不和の状態から幸せだった状態に戻り、最後は誕生時に至る。
 これは美しい結末に見えるが、生まれる前に戻っているだけで、結局のところ「生まれて来なければよかった」という反出生主義なのかもしれない。アイザックがそうしたことを考えている時、父親が現れる(実はこれまでのナレーターは父親だった)。そしてアイザックが「真に望んでいるハッピーエンド」を書くように求める。そこで語られる物語は、アイザックは母親とではなく両親と暮らしている。語りの場に父親がいるので、これはすべての元凶である父親が戻ってくるということなのだろう。そうなれば、物語は本当にハッピーエンドを迎えたということができる。

結局この世界はどういうものなのか

 ここまでの考察で見えてくる、結局この世界では何が起きていて、アイザックは何をしていたのかということをまとめてみよう。

  • アイザックが母親から逃れて探検する地下世界は、主に彼の精神世界である。そこで彼はさまざまな可能性を体現する。別人になってしまうこともあれば、天使になること、悪魔になることもある。
  • その過程で出会うモンスターという形で、アイザックは彼が恐れているものと対峙することになる。それは過去のトラウマであり、死の恐怖である。こうしたものを乗り越え、彼は少しずつ成長していく。
  • そうした中での結末は、多くの場合宝箱に閉じこもることになる。その他にもアイザックが行方不明になることや、死亡することもある。死亡した場合は煉獄で罪を清めることになる。
  • しかしさまざまな可能性を追い求める中で、アイザックはついに「父親が戻ってくる」というハッピーエンドを迎えることができた

 という感じになるだろう。ローグライクアクションの常と言うか、この物語は何度も繰り返されることになるわけで、終わりよりも過程の方が大事なようにも思える。さまざまなボスとの戦いを通して、アイザックが過去を乗り越えていくというのが最重要のストーリーではないだろうか。
 そうした点を意識してプレイしてみると、本作をより楽しめるかもしれない。

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