世界の神話とゲームの関係 総解説(1)

Gayaline

 前回に続き、「ゲームの中の神話分析リスト」の内容から、わかることを明らかにしていきたいと思います。今回解説するのは、世界の神話の要素はいろいろなゲームにどのように取り入れられてきたかということ。このことについて、個々の神話の側から見ていくことにしましょう。今回扱うのは妖精伝承、ギリシャ神話、聖書・天使、悪魔の4つです。


 前回の「ゲームのファンタジー世界観とはどんなものか」では、「ゲームの中の神話分析リスト」の集計結果をもとに、ゲームのファンタジー世界観がどうなっているかについて調べてみた。その結果「典型的世界観」「妖精物語的世界観」「最小限ファンタジー」の3つが代表的なものとして抽出されたが、このリストの使い道はまだまだある。今度は神話単位で見ていくことにしよう。つまり、リストを縦に見ていけばいいということだ。以下では、それぞれの神話からどの要素がゲームに登場するかと、どんなゲームが特定の神話の要素をたくさん用いているのかの2点について明らかにしてみよう。

妖精伝承

 最も出現頻度の高い「妖精」のカテゴリーは、ヨーロッパの妖精伝承を包括的に含めたものとなっている。妖精は何よりもゲームのファンタジー世界観の基礎となっているが、そこに至るまでには妖精伝承をまとめあげ、独自の世界観を作り上げたJ・R・R・トールキンの功績と、それをゲームに落とし込んだ初期のTRPGの影響が存在する。

 これらの世界観が何より画期的だったのは、エルフ、ドワーフといった人間以外の「種族」が共存する世界を作り上げた点である。この要素はTRPGや、CRPGの元祖たるウィザードリィに受け継がれ、ドラクエやFFにもある程度取り入れられた。人間以外の種族は他にもノーム、フェアリー、ゴブリン、トロール、オーガ、オーク、ホビットなどがよく出てくるが、このうちオークとホビットはほぼトールキンのオリジナルである。ウィザードリィは当然のようにホビットを採用しているが、ソード・ワールドのようにホビットを避けて代替種族(グラスランナー)を導入している場合もある。

 そして、こうした多様な種族から無数のモンスターのバリエーションも生まれる。単独で敵として出すこともできるし、オークソルジャーとかゴブリンシャーマンのように職業や身分を付加することでザコから大物まで、ヒエラルキーや軍団を作らせることもできる。

 それに加えて、個々の妖精の種類も盛りだくさんだ。「ファンタジー博物館 妖精族」にいろいろ載せたが、ボーグルとかバグベアとかレッドキャップとかいろんな変種がいるし、人型以外でもケットシーやケルピー、ニクシーなど多彩である。妖精伝承というのは日本の妖怪に似ているところがあって、ありとあらゆる化け物、不思議な生き物の話が集積されているので、いくつかの文献に限られている通常の神話と比べて厚みがあるのも当然といえる。モンスター以外にも、ブラウニーなど良い妖精というのもたくさんおり、ゼルダの伝説ふしぎのぼうしのピッコルなどに反映されている。

 妖精のポテンシャルはこれだけではない。これもトールキンのおかげで、妖精に関するアイテムも豊富に生み出された。『指輪物語』のミスリルのくさりかたびらがその代表で、エルフやドワーフは道具の加工が得意とされていることから、「エルフの~」「ドワーフの~」という装備が通常より優れたものとして登場するようになった。スターオーシャンに至ってはエルフもドワーフも出てこないくせに「エルヴンキャップ」や「ドワーヴンメイル」が出てくる。

ゲームの中の妖精

 こちらの項は、「ゲームの中の神話分析リスト」を参照しながら各神話の要素がいかにゲームに登場するかを論じてみたい。上述の通り、妖精の要素はあらゆるファンタジーRPGに登場するが、大きく分けて妖精はその世界に「敵側のみ存在している」か、「敵に加え一般人として幅広く存在する」かの2つがある。前者が「最小限ファンタジー」のケースで、ゴブリンなどが敵だけで出てくるFF2、ドラクエ2、ロマサガ1-3、サガフロなどが該当し、後者がエルフ族やドワーフ族が登場するパターンである。ドラクエに出てくる妖精族は毎回同じではなく、ホビットは3-7に、ドワーフは5、7に、エルフは3-5、8に登場している。FF5のポワンやベラのいるところは「妖精の村」だが、本人がエルフと名乗ることもあるなど、今一つ区別されていない。FFでは「ラリホー!」があいさつのドワーフが初代から登場し、4で一大王国を築くが、徐々にオリジナル種族のモーグリに押されてフェードアウトする(9にはいる)。エルフは1で王国をもち、4で強敵として登場するが、それを最後にほぼ出ていない。聖剣伝説やテイルズオブの何作品かも同様のドワーフとエルフのいる世界観だが、同じくファンタジー世界のオウガバトル系列はフェアリーやマーメイドはいるものの、人間に近いタイプの別種族は出てこない。

 妖精的世界観を拡張したオリジナル種族についても見てみよう。ウィザードリィは6で種族がこれまでの5種類(人間、エルフ、ドワーフ、ノーム、ホビット)から増量され、フェアリー、リザードマン、ドラコン、フェルパー、ラウルフ、ムークが追加。国産の外伝シリーズもこれを踏襲している。さらにFF12やFFTAのイヴァリースではモーグリ、ヴィエラ、ン・モウ、バンガ、シーク、グリアが、FFクリスタルクロニクル系列ではクラヴァット、ユーク、リルティ、セルキーが登場している。オンラインゲームではこうした種族分けはポピュラーで、FF11、FF14、ドラクエ10にはそれぞれいくつかの種族が用意されている。

 妖精のモンスターについてもバリエーションは豊かだが、特に多かったのはFF3である。ここで調べたが、どうも元ネタ本があるらしく、ファージャルグとかタンギーとかマニアックな妖精も出てくる。

ギリシャ神話

 ヨーロッパ伝承と並んでメジャーな由来となっているのがギリシャ神話である。ギリシャ神話として知られているものは、古代ギリシャ地域で幅広く伝わっていた物語群をヘシオドスやホメロスがまとめたものだが、文献が限られているにもかかわらず、その劇的なストーリーと英雄や怪物を含む個性的な登場人物はヨーロッパの人々を長い間虜にしてきた。

 ゲームでの使われ方を見てもわかるが、ギリシャ人は何よりも、奇抜なモンスターを考案することにかけては人類史上最高の発想力を誇っていたと言いたい。複合生物を指す一般語になったキメラをはじめとして、ヒュドラやテュポーン、ケルベロスやペガサスなど、ギリシャ神話には個性的なデザインの怪物が次から次へと登場し、素晴らしいオリジナリティを見せている。どれもゲームに登場させたくなるようなものばかりである。

 他方で、モンスターだけがギリシャ神話のすべてではない。それ以外にも、神々の物語あり、英雄の物語ありと、多数のエピソードを内包しているのがギリシャ神話である。そうした印象深いエピソードを取り入れるなど、まだまだギリシャ神話のポテンシャルは大きいので、モンスターでしか知らない人はぜひいろいろな物語を読んでみてほしい。

ゲームの中のギリシャ神話

 上述の通り、ギリシャ神話からはモンスターの登場が何より多い。キメラやサイクロプス、メデューサやハーピーなどは元々の文脈を外れて(メデューサなどは個人名のはずだがしばしば複数出てくる)、汎用的なモンスターとして使われている。またニュクスやアトラス、オケアノスなど元は立派な神あるいは巨人だったものがモンスターとして出てくることもしばしばだ。

 一方で前回のキャラクターの集計結果からも明らかなように、ギリシャの神々が出てくることはあまりない。今回調べた中では、ドラクエ6の海底に唐突にいるポセイドン、サ・ガ2のアポロンとビーナスくらいのもので、神々が大集合する女神転生シリーズでもギリシャの神々の存在感は薄い。もちろん例外はあり、ヘラクレスの栄光シリーズは何と言ってもギリシャ神話の世界観を(少なくとも3や4は)潤沢に表現した作品である。単作では、ACのフェリオスはアポロンが恋人アルテミスを(本来は兄妹なんだけど)助けに行く物語で、ギリシャ成分が濃厚。またゴッド・オブ・ウォーシリーズは古代ギリシャが舞台で、神々の力を得て戦うストーリーとなっている。

 ただし、ギリシャ神話の神々がゲームに対して影響を与えていないかというと、決してそうではない。これはある程度仮説だが、ギリシャ神話というのはおそらく、多くの創作の多神教的神構成のモデルとなっている。パンテオンという言葉が示す通り、ギリシャの神々は天空に多数存在し、それぞれが異なった役割を担っている。仲たがいすることもあるし、ティタノマキアのように神々で争うこともある。同様の多神教世界は北欧、インド、エジプト、日本などにもあるが、神々の関係まで入念に描写する点においてギリシャを上回るものはない。

 では、実際にどのような取り入れ方があるだろうか。ロマンシングサ・ガのマルディアスの神々などはこのタイプのパンテオンの例であろう。創造神、大地の神、海の神、死の神がいるし、神の代理として戦い、神の座に据えられた英雄ミルザなども存在する。他の例では、TRPGだがソード・ワールド(旧バージョンも2.0以降も)は、同様のパンテオンを有している。どちらのシリーズでも神々を信仰する人間が描かれており、サルーイン教徒は生贄をさらって事件を起こすなど、ストーリーが動くきっかけともなっている。こうしたギリシャ型神設定もまた、ゲーム世界の構築に大いに応用しうるだろう。

聖書・天使

 「ファンタジー博物館 天使族」である程度扱ったが、よく知られているように聖書というのはユダヤ教の旧約聖書(タナハ)とキリスト教の新約聖書(キリスト教徒は旧約も用いる)を合わせたものである。ただしそれらの聖書にすべての天使が出てくるかというと、決してそうではない。聖書に記されているものもいるが、後世になって言及されるようになった天使も多い。たとえばゲームでもよく見る天使の9階級、セラフィム、ケルビム、スローンズといったものは、5世紀ごろの偽ディオニシウスが確立したものである。とはいえそのようにユダヤ・キリスト教的には必ずしも必須とは言えない文献からの天使も、ゲームでは積極的に用いられている。どんなものかよくわかっていないにもかかわらず、「最強の天使」の扱いがされているメタトロンがいい例だろう。

 天使について思考が重ねられたのは、むしろ周辺に位置する神秘主義やユダヤ教のカバラーにおいてであった。上記ページに載っているが、ほとんどのキリスト教では偽典つまり正典とみなしえないものとされているエチオピア語エノク書には、さまざまな事象を司る天使が記されている。また、民間信仰に近い守護天使の観念などでも、多様な天使が言及されている。

 もう一つのソースであるカバラーはなおもってややこしいので簡単にだけ言うと、ユダヤ教の哲学・宇宙論・魔術・占星術などが混ざり合った複雑な知識体系である。その中には召使いとしてのゴーレムの作成法なども含まれている。そのような複雑なものなので十分に取り入れるというのは難しいが、有名な生命の樹とその構成要素である各セフィラ、ケテルやホフマー、ティフェレトなどは名前が使われることもある。

 これらの伝統とゲームの関係について触れておくべきことは、一大ブームとなった新世紀エヴァンゲリオンが天使やカバラーの知識を盛り込みまくったせいで、その影響を受けたとおぼしきゲームが多数誕生し、天使もよりポピュラーになったのではないかということである。ゼノギアスなどはまさにそれだろうし、FF7のセフィロスも明らかに由来はセフィロートからだ。

ゲームの中の聖書・天使

 リストを見ればわかるように、悪魔の人気に比べれば、天使の登場頻度はそこまでではない。それは、悪魔はわりとユダヤ・キリスト教的文脈から切り離して用いることができるが天使は難しいというのと、そもそも天使を敵に回さないという理由が考えられる。もちろん例外はあり、ゼノギアスやスターオーシャン2ndなどは少なくとも天使の名をもつ存在が敵になる。ルドラの秘宝ではソドムとゴモラがキャラクターとして登場し、世紀末感を増している。またオウガバトルシリーズは天使と悪魔の登場するファンタジーである。

 その中でもとりわけ天使が関わってくるRPGといえば女神転生シリーズであり、その中でも真・女神転生の1と2だろう。1では天使と悪魔は他文化の神も交えながら対立して争っており、天使の側が日本に大破壊を巻き起こす。そして続編の2では天使と神の支配する世界での物語だが、そこにはさまざまな歪みがあることが明らかになってくる。どちらも、天使と神は世界を秩序付けたいという意志は確かだが、そのためには手段を選ばない独善的な存在として描かれているし、FC版2と真2のラスボスはアレである。神を明確な悪として描いたとんでもない作品だといえるだろう。

 カバラーについて1つ付け加えておくと、真・女神転生2の魔界は生命の樹の形を再現した地形となっており、地名も各セフィラからとられている。エヴァ以前にカバラーを取り入れた貴重な作品といえるだろう。

悪魔

 「ファンタジー博物館 悪魔族」で解説したように、悪魔というのは天使や神の敵としてイメージされるが、元来のユダヤ・キリスト教では神の力は絶対であり、天使vs悪魔のような構図は存在しえない。しかしルシファーを中心として神の意に背いた天使(堕天使)というのは存在し、その考察が進むことによって、悪魔の軍団のようなものが次第に形成されるようになった。また中世になると見方が変わり、人間に悪行をさせる原因として悪魔がイメージされ始めた。この時点では悪魔は嫌悪と恐怖の対象だったが、それでも関心は失われず、ダンテは『神曲』で地獄の様子を入念に描写したし、ミルトンは『失楽園』でサタンとその仲間を若干同情的に扱った。そうして悪魔のコレクションであるパンデモニウムの作成も進んだし、近代には魔術を使おうと考えた人々が、積極的に悪魔を利用しようとした。悪魔召喚である。

 結果的にヨーロッパ世界では天使以上に豊かなイメージが形成されてしまった悪魔だが、やはりゲームの敵役としてはぴったりであり、今日では至る所で悪魔の名前が見られる。悪魔の由来にはいろいろあり、聖書に記されているもの、聖書成立時の周辺地域の人々が信じていた神が悪魔とみなされたもの、中世に広まったもの、その後に創作されたものなどが存在する。とりわけ、ソロモン王の72柱の悪魔は悪魔の一覧として、何度も取り上げられてきた。

ゲームの中の悪魔

 ゲームにおいて悪魔は、天使より扱いやすい存在だといえる。単純に味方が多くてもあまり意味はないが、敵は多ければ多いほど倒しがいがあるという理由からだ。悪魔は組織されている場合とされていない場合があるが、後者のゲームの方が多い。ドラクエでは魔王というのはしょっちゅう出てくるが、必ずしも悪魔のみの王ではなく、その他の魔物のボスも兼ねている。FFも同様である。したがって下っ端としての悪魔は多いが、トップとしての悪魔はそれほどいない。このことは元の世界観ともそこまで矛盾しない。たとえば悪い魔法使いがいて、手下として悪魔を呼び出しているケースなどもありうるからだ。例外的なのは主な敵がほぼ悪魔な光の4戦士や、伝説のオウガバトルである。後者は悪魔の中でも相当な大物を呼び出している。

 そのようにあまり重要な役職がもらえない悪魔たちだが、例によって女神転生ではそうでもない。ルシファーやサタンはさまざまな役割を担っており、敵になることも味方になることもある。デビルメイクライシリーズは悪魔の力を得て、悪魔を狩っていくプロットだが、悪魔は典型的なものに加えギリシャ神話由来だったり北欧神話由来だったりし、オリジナルも多くなっている。

 いずれにせよ、ゲームにおいて悪魔は、その由来にもとづいた重要な役割を担っている。それは「異世界におり、呼び出されると出現する強力な存在」としての役割である。これはギリシャ神話や妖精にはない側面であり、悪魔のアイデンティティをなしているといえる。ストーリーに対しても、悪の魔法使いが呼び出そうとするのを阻止するとか、誰かが呼び出して強大な力を得るが代償も大きいとか、さまざまな形での関わりがありうる。こうした点で悪魔は、ファンタジー世界にとって欠かせない存在なのだ。

だいぶ長くなったので今回はここまで。以降の神話の解説については次回をお楽しみに。

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