ゲームのテンポを数値化してみた(2)

Gayaline

 前回の「ゲームのテンポを数値化してみた(1)」では、FFとドラクエシリーズの戦闘開始や終了にかかる時間を計測してみました。この新しいチャレンジは作品ごとの違いがわかったりとなかなか有益だと思いますが、戦闘に費やされる時間はそれだけではないでしょう。そこで、今回はより包括的に戦闘時間を計測する方法を考案してみました。

今回の目的 

 前回は、なんとなく感じるけど普段は見えない「ゲームのテンポ」を具体的な数字でわかるようにしたいと考え、RPGのいろいろな演出にかかる時間を計測してみた。

 指標として何を計るのがよいかは悩みどころだが、まずは戦闘の開始・終了にかかる時間や、歩く速度を調べてみた。この辺は調査が簡単だが、全体の一部に過ぎないのでこれだけでは満足できない。FF8がFF3の3倍エンカウントに時間がかかるからといって、戦闘時間も3倍になるわけではないだろう。

 そこで今回は、1戦闘の時間をなるべく正確に算出したいと思い、いろいろな要素の計測値を組み合わせて標準戦闘時間を算出するということをやってみた。

戦闘のモデル化 

 戦闘にかかる時間を計算するには、戦闘中に何が起こるかを考えればよい。どんな作品にも確実に存在するのは、敵味方の通常攻撃である。魔法や特技の演出はさまざまなものの、多くの戦闘は通常攻撃で終始するはずなので、ひとまずそれのみを考えることとする。

 では敵味方の攻撃は何回行われるのだろうか。これはもちろん、味方の攻撃力や素早さによって大きく変化するが、とりあえずすべての味方が敵よりも早く行動でき、かつどんな雑魚も2回の攻撃で倒せると仮定する。すると、味方の攻撃、モンスターの反撃、味方の再攻撃・撃破が1回ずつあることになる。

単体の通常攻撃だけで敵を倒す限り、この過程が敵の数だけ存在することになる。あとはエンカウントと戦闘終了演出を足せば、1戦闘の時間が算出できる。

 しかし、このモデルはずいぶん単純化を行っていることに気づくだろう。こちらの攻撃回数はいいとしても、敵の攻撃回数は味方の人数に影響を受ける。つまり敵が3体、味方が1体の場合、1ターン目に3、2ターン目に2、3ターン目に2、4ターン目に1、5ターン目に1の計9回も攻撃を受けてしまう。なのでその部分の数字は大きくずれることになるが、出現数が多い敵の場合は一撃で倒せる可能性が高いと考えられるし、そこを考慮するとあまりに複雑になるので、誤差が生じるのは覚悟の上でこのモデルを使用することとする。

 また、ここにはコマンド入力の時間が考慮されていない。この点は特に、コマンド入力中に戦闘が停止しないFF4以降のATB導入作品とそれ以外の普通のRPGとで差が出ることになるが、その点も計測が難しいため今回はカットした。

各数値の詳細 

 計測するには、どこからどこまでを計るかをきっちり決めなくてはならない。以下が各パラメータの計測範囲である。

数値 計測範囲
エンカウント演出 マップ上で操作不能になってから、戦闘画面で操作可能になるまで
味方打撃 攻撃の動作が開始してから(メッセージが表示されてから)、次の行動の動作が開始する(メッセージが表示される)まで
打撃・撃破 敵を倒せる攻撃の動作が開始してから、次の行動の動作が開始するまで
敵打撃 敵の攻撃の動作が開始してから、次の行動の動作が開始するまで
勝利演出 勝利のBGMやSEが流れ始めてから、マップ上で操作可能になるまで(文字送りは最速で行う)

数値はすべて3回の平均をとり、小数第2位以下は四捨五入した。ここで計測した数値に先ほどのモデルを当てはめ、「エンカウント演出+(味方打撃+打撃・撃破+敵打撃)×敵出現数+勝利演出」が標準戦闘時間となる。

 ここで問題になるのが敵出現数である。これは作品ごとに大きく違うし、正確な値を知ることは難しい。かといって推定でやると誤差が大きくなりそうなので、こちらも調べてみることにした。

敵出現数の測定

 1戦闘あたりどれくらい敵が出現するのかというのはおそらく誰も知らないことだろうし、貴重なデータになると思われるので、少々手間はかかったが調査した。ここではプレイ動画からできるだけ幅広い時期の戦闘ごとの敵出現数を20回分調べ、平均をとった。時期を広くとるのは、スタート直後は仲間の人数が少ないため敵の数が抑えられていることがあるし、逆に終盤になると大型敵が増えて出現数が減ることもあるからである。

 前回と同じくFFとドラクエを調査した結果、このようになった。

作品 敵出現数
FF1 3.8
FF1(GBA) 3.6
FF2 3.6
FF2(GBA) 2.7
FF3 3.1
FF3(DS) 2.0
FF4 3.3
FF4(DS) 2.9
FF5 3.0
FF6 2.6
FF7 2.0
FF8 1.7
FF9 1.5
FF10 2.6
DQ1 1.0
DQ2 3.0
DQ3 2.9
DQ4 2.4
DQ5 3.1
DQ6 2.9
DQ7 3.1
DQ8 3.1
DQ9 1.9

グラフで見てみよう。まずはFFから。

最大は1である。画面に敵がギッチリ詰まっている印象のある本作だが、最大で8体ほど出るものの単体出現もあり、平均としてはこのくらいとなった。以降はやはり3D作品になると敵の数は減っている。FF9に至っては終盤は1体がほとんどで、それゆえ召喚魔法の意味がないと言われていたりする。そして10では明らかに敵の数が増えているが、これは味方キャラクターを使い分けて戦闘するというゲームデザインが影響しているのだろう。

次にドラクエはというと。

リザードフライとかが大量に出るイメージのある2や、一度に7体とか出る3も、終盤も踏まえるとそれほど極端ではない。平均からはわからないがばらつきの違いもあって、5は終盤に一貫して3体でのエンカウントが多かったために、結果的にそれらを上回っている。顕著なのはやはりシリーズを通しての安定性であって、どの作品も平均3体前後に調整されているのかもしれない。ただし9は3D化が原因か、他作品よりだいぶ少ない。

標準戦闘時間の算出

 さて、いよいよこれまでの計測値を先ほどの式に当てはめてみよう。各パラメータと、標準戦闘時間の計算結果が以下である。

作品 モンスター出現数 エンカウント演出 味方打撃 打撃・撃破 敵打撃 勝利演出 標準戦闘時間
FF1 3.8 2.3 2.2 2.5 1.5 5.0 30.2
FF1GBA 3.6 2.0 1.5 2.2 1.6 1.1 21.9
FF2 3.6 4.8 2.8 3.5 1.9 4.8 38.6
FF2GBA 2.7 1.2 1.8 2.2 2.2 3.6 21.3
FF3 3.1 2.7 2.1 3.7 2.2 4.6 32.1
FF3DS 2.0 5.7 2.9 3.7 2.8 7.5 32.0
FF4 3.3 2.9 2.3 3.4 2.2 4.2 32.9
FF4DS 2.9 3.8 2.8 3.0 2.7 8.5 36.3
FF5 3.0 3.1 1.8 3.3 2.1 2.7 27.4
FF6 2.6 3.1 1.0 1.8 2.4 4.6 21.2
FF7 2.0 8.6 2.4 2.5 2.1 9.1 31.8
FF8 1.7 9.6 2.5 2.3 2.1 12.1 33.1
FF9 1.5 14.7 2.9 3.2 2.5 12.7 40.3
FF10 2.6 6.8 2.0 2.3 2.3 9.2 33.2
DQ1 1.0 2.4 2.5 2.5 3.1 2.6 13.2
DQ2 3.0 2.9 1.4 2.1 1.5 3.5 21.2
DQ3 2.9 4.3 1.5 1.9 1.5 4.4 22.7
DQ4 2.4 3.1 1.5 1.9 1.6 3.8 18.7
DQ5 3.1 2.1 1.4 1.7 1.0 3.6 18.4
DQ6 2.9 3.5 1.5 1.7 2.0 2.6 21.2
DQ7 3.1 3.3 1.5 1.7 2.0 5.7 24.9
DQ8 3.1 3.3 2.0 2.4 2.9 4.9 31.0
DQ9 1.9 4.2 2.4 3.0 2.5 4.4 23.5

だいぶパラメータが多いが、標準戦闘時間をグラフ化してみよう。

単純なエンカウント時間の比較に比べて、3Dと2Dの差が縮まっていることがわかる。3Dでは敵の数が少ないために、結果的に攻撃回数なども減っているというわけだ。ただしこれは通常攻撃のみで戦闘を行った場合なので、魔法や敵の特技が挟まれると時間はまったく違ってくるだろう。

 やはり、GBAリメイクとSFC2作品の短さが目立つ。コマンド入力時間も考慮すると、FF6が最もテンポのいい作品となるだろう。

次にドラクエを見てみる。

こちらは敵の数が一貫しているために、3D化による影響が顕著に現れている。8でだいぶ長くなっているが、これは本作から味方キャラクターが表示されるようになり、敵味方の攻撃がともに若干時間がかかるようになったためである。DQ5から6の間でモンスターのアニメーションも追加されたが、その影響は1秒程度、戦闘1回あたり3秒ということがわかる。また例によって2から7までは動作にかかる時間がほぼ一定であり、全体としてFFより短い。メッセージのみの処理の利点だろう。

考察

 今回の結果をどのように見たらいいだろうか。標準戦闘時間のモデルは少なくとも基本的な部分の戦闘動作にどのくらいの差があるかはわかるが、それ以上の違いを計るのは難しいだろう。魔法でまとめて撃破することもあるし、1体の敵にかなり手こずる場合もあるからだ。

 しかしこのモデルは、似たようなシステムのゲームの間の微妙な差を計るには有効だろう。細かな動作時間の差異はわりと見つけられるので、FCやSFCのRPGを比較すればさらに面白いことがわかるかもしれない。ただし今回の調査は計測するものが多く、手間がかかりすぎるので、もう少し簡素化する必要も感じられる。

 調査した敵出現数については、もう少し考察の余地がありそうである。元データを見ると、出現数のばらつきなども違うといえそうだからだ。FF7やFF10は3体出現がかなり多かったりする。またFF9の召喚魔法の話のように、敵出現数によって全体攻撃の意味が違ってくると思われるので、その点もゲーム性に関わってきそうだ。

 また、今回いろいろプレイ動画を見ていて思ったのは、初期のゲームはプレイ時間の大半が戦闘だが、PS以降のFFとなると全体のプレイ時間に占める戦闘の割合が少ないのではないかということだ。3D化や演出強化による変化としては、こちらの方が大きいのかもしれない。また、今回計っている部分は基本的には操作できない部分についてなので、操作できない時間と操作できる時間の比率の変化も計ると面白そうだ。

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