このページは、任天堂がSFC〜64時代に行っていた「サテラビュー」による衛星放送についての情報をまとめています。
サテラビューは音声・データ放送が主体ということもあり、現在では何が行われていたのかを知ることは困難となっていますが、任天堂の一大チャレンジであるスーパーファミコン放送が忘れ去られるのは実に惜しいことです。
筆者はいわゆる「サテラー」、つまり当時サテラビューを利用していた人ではありませんが、できる限りこの時期のゲーム雑誌を参照し、復元を試みました。
サテラビューとは?
サテラビューとは、1995年から2000年にかけて、任天堂が衛星放送局セント・ギガと協力して実施していたスーパーファミコン専用放送を受信するための周辺機器の名称。放送自体は「スーパーファミコン放送」と呼ばれている。
セント・ギガはBS5チャンネルで受信できる衛星放送のことで、それまでは音声放送(PCM音声放送)のみを行っていたが、1995年4月からスーパーファミコン放送を開始し、SFCでの番組の受信が可能となった。
放送は、音声放送とデータ放送からなる。音声放送は毎日16〜19時(後に変更)に設けられた「スーパーファミコンアワー」の時間帯に行われ、ゲームに関する番組が放送されるだけではなく、ゲームの内容とリンクする放送もある。データ放送は12〜16時と19〜26時の時間帯に行われ、この期間にはデータの受信が可能となる。また、12〜26時の時間帯を通して、番組紹介などのデータを受信することができる。
つまりサテラビューの放送とは、16〜19時は「ゲームやマガジンを伴ったラジオ番組」で、残りの時間は「SFC用データ配信サービス」だったといえる。
放送を受信するためには、スーパーファミコンおよびいくつかの周辺機器が必要となるが、受信は専用ソフト「BS-X」をSFC上から起動することによって行う。またBS-Xによってダウンロードしたデータを見たり、ゲームで遊んだりすることもできる。
遊ぶことのできたゲームは、近日発売ソフトの体験版や過去のソフトの配信に加え、「サウンドリンクゲーム」、「オリジナルゲーム」がある。
スーパーファミコン放送は無料のノンスクランブル放送であるため、周辺機器を用意すれば以後の受信に費用はかからない(追加のメモリパックの費用は除く)。この点は後の64DDのランドネットと異なっている。また、サテラビューがなくても独立音声放送のみはBSで受信できた。
周辺機器について
スーパーファミコン放送受信のために必要な機器は、「SFC本体」「サテラビュー」「専用AVセレクタ」「専用ACアダプタ」「専用電源中継ボックス」「専用カセット(BS-X)」「8Mメモリパック」および「BSチューナー」「BSアンテナ」の9つ。このうちSFC本体とBSチューナー・アンテナ以外は、サテラビューに同梱されている。つまり、BSを受信できる環境があれば、あとはSFCとサテラビューを購入するだけで受信は可能となる。
各機器の接続については以下の図の通り。

(ファミマガ1995年9-10号付録「スーパーファミコン放送完全ガイド」7頁)
サテラビューセットは、当初はハガキの申し込みによる通信販売のみで販売されていた。税込18,000円。95年11月1日からは、店頭での販売も開始された。
サテラビュー関連ソフトについて
サテラビューを介して遊ぶことのできるソフトは、BS-Xを除けば「サウンドリンクゲーム」「オリジナルゲーム」「新作の体験版」「過去作の配信版」および、SFCソフト用の追加データ配信がある。以下にそれぞれについて解説する。
BS-X
番組の受信や、メモリパック内のゲームを遊ぶ際に必要なソフト。上部にメモリパックを挿して使用する。正式名称は「BS-X それは名前を盗まれた街の物語」で、プレイヤーはキャラクターを作成し、マザー2的な雰囲気の街の各施設を訪れ、番組の受信を行う。これ自体にゲーム要素もあり、住人との会話や買い物ができる。
サウンドリンクゲーム
スーパーファミコン放送の目玉で、ゲームのプレイと音声放送が連動するというもの。プレイヤーは決まった時間帯にゲームを受信してプレイする。ゲーム内容に沿った音声が流れる他、特定のタイミングにはプレイヤー全体に情報が伝えられる。遊べる時間が決められており、時間内にスコアを稼いでそれを競うといった目的のものが多い。メモリパックへの保存は不可能。第一弾は「BSゼルダの伝説」。
放送されたサウンドリンクゲームの一覧はこちら。
オリジナルゲーム
データ放送で受信できるゲームのうち、ソフトとしての発売がないもの。メモリパックに保存してプレイするため、現在でもプレイすることが可能。初期から配信されていた「ワリオの森 イベントバージョン」などもオリジナルのゲームといえるが、既存ソフトの流用でない完全オリジナル作品の最初は「ピコピコパイレーツ」。
放送されたオリジナルゲームの一覧はこちら。
新作の体験版
発売直前のソフトの一部をプレイできるようにしたもの。番組「ゲーム虎の大穴」内でゲーム紹介とともに放送されたものは「秘伝ソフト(秘伝ゲーム)」と呼ばれている。その他、データ放送として受信することができた。
過去作の配信版
1996年8月から「ゲームベストセレクション」として配信された、すでに発売されているソフトをフルで収録したもの。メモリパックの容量に収まるソフト限定で、プレイ回数の制限がある、セーブができないなどの制約もあった模様。
放送された体験版・配信版ゲームの一覧はこちら。
SFCソフトの追加データ
データ拡張に対応したソフト用に、追加データを受信し、メモリパックを挿し替えてゲームを拡張できるようにしたもの。対応ソフトはBS-Xと同じ形状になっている。最初の対応ソフトは「常勝麻雀・天牌」。
一日の放送の流れ
実際にどのような放送が行われていたかを把握するため、ここではサンプルとして、放送開始直後の95年5月木曜日の番組表を掲載する。
95年5月 木曜日の番組表 |
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12:00 〜 16:00 | 00 ピクロス 20 ワリオの森
40 ジグソー |
16:00 | 00 木曜ワイド「超メジャー」 17:30 素敵に片思い「変身」 |
17:00 |
18:00 | 00 ヒット・ギャング 30 ゲーム虎の大穴 40 木曜ワイド |
19:00 〜 26:00 | 00 ピクロス 20 ワリオの森
40 ジグソー |
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このうち、16〜19時までの時間帯が音声放送となっており、残りの時間帯はゲームを受信できるデータ放送となっている。
つまりユーザーは、データ放送の時間帯にはそれぞれのゲームを受信でき、音声放送の時間帯には受信データを表示しつつ、放送を聴けるということである。
ゲームはそれぞれ、「
タモリのピクロス」「
ワリオの森 イベントバージョン」「
有紀のジグソーキッズ」を受信できた。
音声放送の番組については、「木曜ワイド」のパーソナリティは爆笑問題、「素敵に片思い」は細川ふみえ、「ヒット・ギャング」はAK-LIVEだった。「ゲーム虎の大穴」は各メーカーが持ち回りで新作情報を伝えるというもの。
サテラビュー関連の出来事年表
以下に、スーパーファミコン放送開始から終了までの間に起きた出来事を掲載した。
作成にあたっては、ゲーム雑誌のほか、経営関連については「日経テレコン」の各新聞のデータベースを参照した。
任天堂の衛星放送事業については日経産業新聞98年8月24日付の記事「任天堂、「次代」へ詰め甘く」に簡潔にまとめられている。
サテラビュー関連の出来事 |
90年 | 12/2 | 衛星デジタル音楽放送(通称セント・ギガ)、放送衛星「BS3a」を使ったサービス開始
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93年 | 1/18 | 任天堂、経営難に陥っていたセント・ギガの再建に乗り出すと発表。7億8200万円を出資し、筆頭株主に
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| 6/24 | 任天堂、デジタルデータ放送事業への進出を発表
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94年 | 6/16 | 任天堂、衛星放送事業本部を設立
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| 12/19 | 郵政省、セント・ギガに放送衛星を利用したデータ放送の免許を交付。データ放送の事業化は世界初
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95年 | 4/23 | スーパーファミコン放送開始
以後『ファミマガ』『ファミ通』『毎日新聞』に番組表掲載
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| 5/29 | この日の『日経産業新聞』によると、サテラビューの売れ行きはこれまでで約1万3千台(初年度目標200万台)
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| 5/24 | 『サテラビュー通信』創刊
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| 6/5 | データ放送の時間枠の区切り変更
20分×3から、50分ゲーム+10分マガジンに
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| 7/17 | データ放送の時間枠の区切り変更
50+10分から20+10分の30分単位に
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| 8/6 | 初のサウンドリンクゲーム「BSゼルダの伝説」放送
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| 9/3 | 音声放送の番組改編
サウンドリンクゲームが日曜のみからほぼ毎日放送に
データ放送の配信内容が時間帯ごとにジャンル分けされるように |
| 9/29 | 初のサテラビュー対応ソフト「常勝麻雀・天牌」発売 |
| 10/12 | サテラビューの売れ行きはこれまでで2〜3万台 |
| 11/1 | サテラビュー店頭販売開始 |
96年 | 3/31 | 番組改編で音声連動の時間帯が17-19、25-26時に うち18-19時以外の時間帯は再放送に パーソナリティによる番組は月曜17-18時、土曜18-19時・25-26時のみとなり、多くの番組が3月30日で終了 |
| 4月頃 | 『サテラビュー通信』96年5月号をもって休刊 |
| 6/26 | 任天堂、マイクロソフトおよび野村総合研究所と提携し、衛星データ放送とインターネットを組み合わせた事業会社の設立を発表するも、97年12月に白紙撤回 |
| 11/30 | この日を最後に、『毎日新聞』誌上の番組表掲載が終了 |
97年 | 3/30 | 3つのパーソナリティ番組が3月29日ですべて終了、音声放送はすべて音声連動ゲームとなる 音声連動の時間帯が18-20時のみに |
| 10/20 | この日の番組表を最後に、『ファミマガ64』の番組表掲載が終了 |
98年 | 1/28 | 任天堂と京セラ、放送衛星「BS-4」後発機を利用したデジタル衛星放送の立ち上げを発表する |
| 3/29 | 音声連動の時間帯が18-19時のみに 「BS Parlor! パーラー!」を最後にサウンドリンクゲームの供給がほぼ停止、新作は「サテラQ」のみに |
| 4月頃 | 『ファミマガ64』のサテラビューページが終了 |
| 6/6 | この日の番組表を最後に、『ファミ通』の「スーパーファミコンアワー番組ガイド」が終了 以後の番組表が掲載されている雑誌はおそらくなし |
| 8/21 | 年初に発表した衛星放送参入の前提となる減資に株主が反対し、白紙撤回。これにより任天堂はセント・ギガへの出向者を引き上げるとともに、コンテンツ供給の中止を決定 |
2000年 | 6/30 | データ放送終了 |
2001年 | 7/25 | セント・ギガ、民事再生手続きを申請 |
「BS-X〜それは名前を盗まれた街の物語〜」について
BS-Xは前述の通り、サテラビューセットに付属している番組の受信を行うためのSFCソフトのことである。
元ニッポン放送社員で作家の赤松裕介氏(ファミマガ95年No.16付録42頁)がデザイナーで、『サテラビュー通信』には氏による「衛星放送劇場 外伝 2010」が掲載されたほか、毎週水曜日に氏の自伝的小説「DAYS」が放送されていた。
BS-Xを起動して「住民登録(キャラクター作成)」を行うと、以下のような街マップを歩き回ることができる。

(「スーパーファミコン放送完全ガイド」5頁)
街にはたくさんの施設があり、全体像はこのイラストのようになっている。

(「スーパーファミコン放送完全ガイド」6頁)
主人公の自宅では、4つのコマンドが行える。「保存情報の実行」はメモリパック内に保存されているゲームをプレイできる。「保存情報の消去」はメモリパックのデータを消去する。「受信の予約」は今後のデータ受信を予約できる。「個人情報の消去」は、カセットに保存したプレイヤーデータを消去する。

(「スーパーファミコン放送完全ガイド」8頁)
データの受信は、該当する施設に入るか、自宅での予約により行える。受信画面は以下の通り。

(「スーパーファミコン放送完全ガイド」10頁)
街にある自宅以外の施設とその役割は、このようになっている。

(ファミコン通信、1995年6月27日、137頁)
街の中にある各施設 |
1.ゲーム工場 | タモリのピクロス講座を放送している | 13.そろばんビル | 中でどんなことが行われているのか、まだ不明 |
2.バグポタミア神殿 | かなり謎めいた建物。中のようすは不明 | 14.ゲーム博物館 | ゲームについてのあらゆる事柄が分かるらしいぞ |
3.イベント広場 | 定期的に何らかのイベントが行われる予定 | 15.ロボットビル | サンデー・バカボンの放送をやっています |
4.民家 | フツーの家です。誰かが住んでいるみたいですが | 16.かべ新聞社 | 街のちょっとした情報が手に入ったりする |
5.アイドルの家 | その名前どおり、アイドルが住んでいるらしい | 17.バーガーショップ | ハンバーガーショップ。ここも一種のアイテム屋 |
6.ぼくの家 | | 18.オニオン噴水 | |
7.競技場 | スポーツゲームなどの大会が開かれたりする | 19.交番 | 危ない目にあったときには助けを求めよう。巡回が多い |
8.早乙女学園 | | 20.デパート | ちょっと値段が高めのアイテムを売っている |
9.電話ボックス | | 21.コンビニビル | 豊富なアイテムの数がウリ。価格もお手頃 |
10.とうふビル | まだ建設途中のビル。真っ白なのでこの名前が付いた | 22.せわや木 | |
11.放送局 | 言わずと知れた「セント・ギガ」です | 23.駅 | どこか他の街へ行けるようになるのかな? |
12.電卓ビル | そろばんビルとは、似ていながらもまったく別物 | 24.海の家 | |
(解説は「スーパーファミコン放送完全ガイド」9頁から複写)
これ以外に、開催しているイベントに応じて随時施設が追加されることもある。またサウンドリンクゲーム「サテラウォーカー」ではこの街が舞台になっている。
BS-Xには街の噂をすべて集め、街の名前を盗んだ犯人を見つけるというストーリーがあり、徐々に情報が伝えられたが、最後までは語られることがなかったようだ。
現在BS-Xを起動すると、住人が誰もいなくなり、ビルにも入れなくなった状態の街へと行ける。メモリパックに保存してあったゲームはプレイ可能。
参照した資料
当ページおよびソフト紹介のページの作成にあたっては、以下の雑誌およびウェブサイトを参照した。
とりわけ「カメボンのきまぐれ雑記帳」内の「サテラビュー歴史館」はかべ新聞ニュースや番組の内容など、現在では失われた貴重な情報が多数保管されている素晴らしいサイトなので、サテラビューの情報を収集するためにはぜひ参照すべき。