ゲーム音楽好きのための
クラシック入門
実践編



 ここでは、ゲームが好きで、ゲーム音楽経由でクラシックに興味を持った人を対象に、
簡単な予備知識を伝えるとともに、入門におすすめの作曲家の紹介をしています。
 ゲーム音楽とクラシックの間にどういう繋がりがあるかについては、
ゲームに使われたクラシック曲リストと、両者の関係の解説を見てください。

 そこで書いたように、この入門では、クラシックといえば高尚だとか、退屈だとか、年寄りの趣味だというイメージからの脱却を目指しています。そのため、以下で紹介しているおすすめ作曲家は、一般によくあるガイドではまず出てこない意外なチョイスとなっていますが、普段からゲーム音楽に親しんでいる人にとってはこれがベストと考えています。なので今回紹介するものはクラシックの一部ということになりますが、これを読んでクラシックが少しでも身近なものになれば幸いです。

もくじ
クラシックを聴くベストな方法は?
クラシックの音楽形式について
音楽形式の一覧
入門に最適!おすすめ作曲家

クラシックを聴くベストな方法は?


 まずは、クラシックの曲を聴くにはどうすべきかを解説しよう。もちろんここに特別なことは何もなく、生演奏で聴くか録音されたものを聴くかのどちらかである。このうち、生演奏というのは熱烈なファンならば強く推すところであろうが、当然ながら敷居が高いので、最初は録音が入ったCDを探すのがいいだろう。CDで聴く限り、クラシックは他の音楽よりもお高いわけではなくなる。むしろ廉価版も多いので、安いくらいである。レンタルショップで借りる場合にはまったく違いはなくなる。
 この他に現在では動画サイトにもクラシックの演奏が多数アップされており、曲名を入れればすぐお目当てのものが見つかるが、こちらはお試し程度に留めておきたい。というのも、最近は動画サイトや曲配信に押されてきているとはいえ、CDアルバムという形式が持つ利点は捨てがたいものがあるからだ。どういう利点があるかというと、まずCDは明確な意図のもとに構成された曲順で聴くことができること。もう一つはCDに付属されているライナーノーツ(小冊子)で曲の解説や背景を知ることができること。この2点に加え、クラシックの場合は、1枚のCDに同じ演奏家の演奏がまとまっているということも大きい。バラバラに聴いていたのでは、どの演奏家がいいのか、ということが把握しづらくなってしまうのだ。こうした利点が考えられるので、クラシックを聴く際にはCDを入手することをおすすめする。(おまけに心理的な要因として、お金を出して買ったCDの方が、最後まで聴いてみる気になりやすいというものもある)

クラシックの音楽形式について


 さて、初めてクラシックを聴いてみようと思ってCD屋やレンタルショップに行った人は、何がどこにあるの?と大いに戸惑うかもしれない。それというのも、クラシックにおける曲やCDの分類方法というのが、現代の音楽と大いに異なっているためだ。おまけにネットとは違い、曲名を入れて検索ということもできない(検索機が置いてあっても難しい)。なので、お目当ての曲がどこにあるのかを知るためには、クラシックの曲の分類方法というものをある程度知っておく必要がある。
 普段聴いている音楽というのは、だいたいが「アーティスト名→アルバム名→曲名」という分類になっている。ゲーム音楽のサントラであれば、「ゲームタイトル→曲名」という2段階の分類がほとんどだろう。これに対してクラシックは、「作曲家名・音楽形式・演奏家(指揮者・オーケストラ)名・曲名」という4段階の要素によって成り立っている。そのうえ、作曲家と音楽形式では後者が優先されることもあり、またアーティストにあたる特定の演奏家だけが特定の曲を演奏するわけではないので、後の2つも入れ子関係にはなっていない。具体的に言うと、ベートーヴェン作曲、カラヤン指揮、交響曲第9番「合唱」というものがある場合、この指揮者のカラヤンは今でいうアーティスト名とも、アルバム名とも考えることはできない。これは、クラシック音楽において作曲家と演奏家が分かれているためにこうなるわけであるが、差しあたっては演奏家については考慮しなくていい。演奏家や指揮者の違いを意識するのは、同じ曲に対する解釈の違いを味わいたくなってからで十分である。

音楽形式の一覧


 そうすると、曲を探す際に注目すべきは「作曲家名・音楽形式・曲名」ということになるが、この音楽形式というのがややこしい。これは演奏するための楽器の編成と曲ジャンルの複合体で、クラシックは長い歴史の中で多数の形式を生み出している。以下に、主な音楽形式とその曲の一例を編成ごとに列挙してみよう。

ジャンル名代表例
オーケストラ(管弦楽曲)
交響曲交響曲第9番「新世界より」
(ドヴォルザーク)
協奏曲ピアノ協奏曲イ短調
(グリーグ)
ヴァイオリン協奏曲ホ短調
(メンデルスゾーン)
バレエ音楽「くるみ割り人形」
(チャイコフスキー)
弦楽器+α(室内楽曲)
弦楽重奏曲弦楽四重奏曲第1番
(ブラームス)
ソナタ類ヴァイオリンソナタ第5番「春」
(ベートーヴェン)
フルートソナタ第7番
(ヘンデル)
単独楽器(器楽曲)
ピアノ曲ピアノソナタ第8番「悲愴」
(ベートーヴェン)
チェロ独奏曲無伴奏チェロ組曲第1番
(バッハ)

この中でも、管弦楽曲、室内楽曲、器楽曲という分類はもっとも基本的なものなので、真っ先に覚えたほうがいい。他に、歌が入る声楽曲にはこういった種類がある。
ジャンル名代表例
オーケストラ+歌手+合唱
オペラ「セビリアの理髪師」
(ロッシーニ)
宗教音楽ミサ曲ロ短調
(バッハ)
レクイエム
(モーツァルト)
合唱
合唱曲「流浪の民」
(シューマン)
ピアノ+歌手
ピアノ歌曲ピアノ歌曲集「冬の旅」
(シューベルト)
結構あるなと思うかもしれないが、実はこれは編成と形式が一致するもののみであり、いろんな編成をとりうる曲ジャンルというものも多数存在する。たとえばワルツといっても、ヨハン・シュトラウス二世のものはオーケストラ曲だが、ショパンのものはピアノ曲というわけである。
 おまけに、これはもっとも大きな分類であって、曲によってはこのどれに当てはまるか示されていないものもある。ホルストの組曲「惑星」などがそれだ。なので次に、ある程度不正確なのは承知のうえで、その編成で演奏されうる曲ジャンルについてもできるだけ挙げてみよう。

ジャンル名代表例
管弦楽曲
交響詩「魔法使いの弟子」
(デュカス)
管弦楽組曲組曲「動物の謝肉祭」
(サン=サーンス)
序曲「エグモント」
(ベートーヴェン)
行進曲スラヴ行進曲
(チャイコフスキー)
舞曲ハンガリー舞曲
(ブラームス)
ピアノ曲
練習曲(エチュード)練習曲Op.10
(ショパン)
前奏曲(プレリュード)前奏曲Op.28
(ショパン)
夜想曲(ノクターン)夜想曲Op.9-2
(ショパン)
変奏曲きらきら星変奏曲
(モーツァルト)
即興曲即興曲Op.90
(シューベルト)
これだけ挙げてもまだ一部である。何せ舞曲の中にはワルツ、ポルカをはじめとしてメヌエット、マズルカ、ジーグ、ブーレ、ガボット、シャコンヌ、レントラーなど星の数ほどあり、編成もさまざまなのだ。
 とはいえ、よく見られるものはこれでカバーできていると思われる。曲名から編成と、ショップでの置き場所を考えるには、この表を下から上に見ていけばいいわけだ。たとえば先ほどの組曲「惑星」であれば組曲だから管弦楽曲で、ショパンのエチュードであれば器楽曲のピアノ曲という感じで、あとは作曲家名とセットで見ればいい。
 さらに、ジャンル名すらなく曲名だけが存在しているものもある。「子供の領分」とか「展覧会の絵」とかそういうものだ。この場合は、たいてい管弦楽曲かピアノ曲かのどちらかなので、それで考えるようにしよう(展覧会の絵はその両方だけど)。

入門に最適!おすすめ作曲家


 これでクラシック曲の分類についてはある程度理解できたと思うが、いよいよおすすめアーティストもとい作曲家の紹介をしてみよう。これは実体験に基づいた持論だが、聴く側としてクラシックに接するのであれば、いきなりブルックナーの何番とかのヘビーな曲から始めるよりは、半分クラシックで半分ポップスのようなライトな曲から始めるのがいいと思っている。なのでここで紹介するのも、通常のクラシックの範疇からは外れたアレンジ・クロスオーバー中心のラインナップであることをお断りしておく。

パロディウスシリーズ

 のっけからクラシックじゃないじゃねーかと思うかもしれないが、ゲーム音楽が好きな人にとっては、最高のクラシック入門はパロディウスであると主張したい。何を隠そうこれを書いている人も、パロディウス音楽からクラシックに入った経験があるのだ。
 ともかくパロディウスシリーズとは、MSXの「パロディウス」をはじめとして、「パロディウスだ!」「極上パロディウス」「実況おしゃべりパロディウス」「セクシーパロディウス」のことであり、このシリーズの曲はどれも、クラシック音楽を軽妙にアレンジしたBGMをふんだんに用いている。
 そのチョイスも定番の曲がほとんどで、すでに知っている曲を聴くこともできるだろうし、パロディウスから覚える曲もあるはずである。現在では、PSPの「パロディウスポータブル」でまとめてプレイできるので、ぜひともこの爽快なクラシックアレンジの数々を堪能してほしい。

Maksim

 こちらも現代のアーティスト。実際のピアノとシンセやドラムを組み合わせたクラシック曲のアレンジを発表している。グリーグのピアノ協奏曲やショパンの革命エチュードなどよく知られている曲も多く、現代風にアレンジされたそれらの曲はやたらとノリがよく、かっこいい。
 彼のような音楽スタイルはクラシカル・クロスオーバーと呼ばれるが、要するにパロディウスである。同様のジャンルでは他にもジャック・ルーシェの「プレイ・バッハ」などがあり、こういったアレンジが好きな人はいろいろと探してみることをおすすめする。

フックト・オン・クラシックス

 まだまだ純正クラシックには至らないわけだが、次におすすめするのはルイス・クラークという近年の指揮者が編曲した、「フックト・オン・クラシックス」のシリーズである。これは、クラシックの名曲のサビだけを順番につないでいくという、まさにいいとこどりのアレンジ曲で、一応ちゃんとしたオーケストラが演奏している。
 パート1から4まで数十曲あるが、誰でも知っている曲からマイナーなものまで百曲以上をカバーしており、クラシックの定番曲をたった数時間で一気に聴くことができる。
 ずいぶん横着な発想に思えるが、初心者も詳しい人も楽しめることだろう。CDには元ネタも記載されているので、気になった曲は改めてフルで聴いてみるといいだろう。とりあえず良さげな曲を聴きたい、という人に最適。

ルロイ・アンダーソン

 クラシックとポップス、ジャズの狭間にいる作曲家。オーケストラ用の小品を多数作曲しており、現代の感覚でオーケストラに親しめる。おまけに曲ごとに楽しい趣向が凝らしてあって、「ワルツィング・キャット」ではネコの鳴き声を楽器で再現していたり、「サンドペーパー・バレエ」なら紙やすりをこする音を取り入れているなど、豊かなアイデアで飽きさせない。
 代表曲は「トランペット吹きの休日」で、運動会の定番BGMとして馴染みがあるだろう。聴くのならば「アンダーソン曲集」といったものを選べばOK。

ヨハン・シュトラウス二世

 実にポップス的な感覚でクラシックを作曲した人。代表曲はワルツ「美しく青きドナウ」だが、それ以外にも「雷鳴と電光」や「トリッチ・トラッチ・ポルカ」などノリのいいポルカやワルツを多数作曲している。
 一曲一曲が短く、ポルカはハイテンポなものが多く実に手軽に聴ける。ポルカ「狩り」では銃の発砲音が用いられているなど、アンダーソン的なエンターテインメント性にもあふれている。毎年年末にウィーンで開かれるニューイヤーコンサートでの定番作曲家でもある。「ワルツ・ポルカ集」といったタイトルでCDが多く出ている。

オーケストラ小品集・名曲集

 次に、こういったタイトルで販売されているオムニバス形式の曲集を聴いてみるのがおすすめ。単独で完結する楽曲か、組曲やオペラから有名な箇所を抜粋したものが主に収録されている。ブラームスのハンガリー舞曲第5番とか、スッペの「軽騎兵」序曲、オッフェンバックの「天国と地獄」序曲なんかが代表格である。
 他にも、たとえば「バーバ・ヤーガの小屋」「はげ山の一夜」「山の魔王の宮殿にて」なんていう、いかにもボス戦みたいな曲を集めてみるのも面白い。感覚の合う作曲家に出会うためにも、名曲集は大いに役に立つことだろう。

 ここに挙げた曲を一通り聴いた後であれば、クラシックの魅力はすでに存分に理解できていることだろう。これ以降は、自由に新しいものを試して、視野を広げてみてほしい。その際には、今まで聴いてきた曲と作曲家が手がかりになるはずだ。一例を挙げれば、チャイコフスキーの曲に知っているものが多いから今度は交響曲に挑戦してみるとか、オペラ「カルメン」の曲が気になるので、どんな話なのか調べてみる、といった感じだ。
 これまでは、クラシックにつきまとっている固定観念から脱却するために、あえてノリのいいもの、軽いもののみを選んでおり、重厚な音楽や、ゆったりとした緩徐楽章などは避けてきた。もちろんそちらもクラシックのウリではあるので、元気のいい音楽に疲れた頃に手を出してみるといいだろう。そうした曲は、クラシックのジャンル内には山ほど存在しているので、特に探す努力は必要ないはずである。


もどる
ムーンウォークで  あんないするラリラリ!!