ゲーム音楽好きのための
クラシック入門



 ここでは、ゲーム音楽の愛好家向けに、ゲーム音楽とクラシックの関係について解説するとともに、聴いてみたくなるようなクラシック音楽の魅力について書いています。
 突然クラシックって?と思うかもしれませんが、ゲーム音楽の中には、クラシックをアレンジして用いられているものも多く、調べてみるとかなりの数になることがわかりました。詳しくは以下のリストを参照。

ゲームに使われたクラシック曲リスト

これだけクラシックがゲーム音楽にふんだんに使われているなら、ゲーム音楽からクラシックに入る道もあるに違いない、ということで、
まさにそのような道を辿ってクラシックも聴くようになった筆者が、ゲーム音楽好きをターゲットに入門を書いてみました。

もくじ
クラシック音楽とは
ゲーム音楽の中のクラシック
ゲーム音楽にクラシックが使われる理由
クラシックの魅力とは
クラシックはどうして敷居が高いのか?
クラシックに興味を持ったら

クラシック音楽とは


クラシックの一般的なイメージ

 まずは「クラシック音楽」と聞いて、どのような音楽をイメージするかを考えてみよう。貴族とか金持ちの愛好する高尚な音楽?演奏するのも聴くのも手間のかかる音楽?あるいは学校で習わされる音楽?確かに、このようなイメージもクラシック音楽の一部分をとらえてはいる。「貴族っぽい」というのはバロック・古典期の音楽には当てはまるし、「手間がかかる」というのもクラシックで使われる楽器の性質によるものだ。「学校で習わされる」のは、クラシックの音楽理論が現代のほとんどの音楽のベースになっていることと、その音楽理論の学習方法がよく確立されていることが理由である。
 こうしたイメージは間違ってはいないとはいえ、これらはクラシックに対する「近寄りがたさ」を助長してしまっている原因となっている。そこでこの記事では、ゲーム音楽との接点を手がかりに、このようなクラシックのイメージを払拭して、その豊かな音楽的蓄積の数々を味わえるよう、クラシックの魅力を伝えていきたい。そのためには、先ほど挙げたようなイメージとは別の見方でもって、クラシックを理解するのが一番である。

クラシックはベストアルバムである

 では、クラシックが単に高尚で近寄りがたい音楽でないとすればなんなのか。
 クラシック音楽というのは、何よりも「(主に西洋で)数百年にわたって大事にされてきた、良質な音楽の集合体」である。言い換えれば、数世紀単位でのベストアルバムのようなものだ。これは聞きなれない定義だろうが、実際にクラシックは各時代の名曲選のようなところがある。単なるヒット曲と違うのは、テレマンやサリエリのように、当時は人気があってもその後あまり支持を得なかったので忘れられてしまったケースもあるところだ。なので、どちらかといえば一部のマニアが語り継いできた音楽という方が正しいかもしれない。
 クラシックをこう表現したからといって、クラシックは現代の音楽より優れているとか、現代にはろくな音楽がないとか言いたいわけではない。違いは主に母数の問題であって、ポップスも100年の中から50曲選ぶのであれば、クラシックと同等の精鋭ぞろいになることは疑いないだろう。もう一つの現代音楽との違いはその期間である。特定の曲が1世紀以上もの間愛好されてきたという事実は、それが世代の交代に耐えうる、単なる一時期のブームに留まらない音楽であることを示している。
 先ほどよくあるクラシックのイメージとして挙げた貴族っぽいとか、演奏が大変とかいうものは、このクラシックの古さに起因するものである。昔は録音技術もなく、楽器は技能習得や維持が大変だったために、確かに誰もが楽しめる音楽ではなかった。しかしこの傾向は19世紀ごろから徐々に薄まり、とりわけ現代においては、聴く分に関しては他の音楽ジャンルとの違いはまったくないといっていい。

ゲーム音楽の中のクラシック


 今回はゲーム音楽好きにターゲットを絞った入門なわけであるが、そういったものを作ったのは、ゲーム音楽とクラシックとの間に密接な関係があるからである。
 その関係とは、ゲーム音楽の中にクラシックが使われているケースがかなり多い、ということである。こちらのリストを見てもらえればわかるが、クラシックが使用されたゲーム音楽というのは、ざっと調べただけでも400曲以上あり、それもファミコンから3DSまでの幅広い時期にわたって使用されている。この中に何曲は知っているものがあるだろうから、そうなると元のクラシック曲についてもすでに聴いていることになる。
 加えて特定のジャンルに目を向けると、太鼓の達人やポップンなどの音ゲーの曲目の中には、たいてい何曲かの「クラシック枠」があることは気付いているだろう。それらは原曲がそのまま使用されているものもあるが、現代風のアレンジが施されているものも多い。さらに、「ザ・マエストロムジーク」や「ブラボーミュージック」といった、音ゲーの中でもクラシックの演奏に特化したゲームも存在する。
 では、どのようなゲームにクラシックが使用されているのだろうか。かなり初期のアーケード作品からクラシックBGMは見られるが、全体としては大作RPGのような有名なゲームがまるごとクラシック、ということは今までにないようだ。その中でも、コナミのパロディウスシリーズは一貫してクラシックのアレンジがBGMに用いられている。またFCの「テトラスター」や「美味しんぼ」、SFCの「アースライト」、DSの「爽解!まちがいミュージアム」はほぼクラシックのみで音楽が作られており、PSの「ときめきメモリアル2」は現状でもっとも多くのクラシック曲を使用したゲームとなっている。

ゲーム音楽にクラシックが使われる理由


 なぜ、このようにゲーム音楽にクラシックが使用されることが多いのだろうか、クリエイター目線になって考えてみると、その理由は3つほど挙げられる。

ゲーム音楽の作曲家がクラシックを学んでいるから

 第一に、作曲者がクラシックに詳しいこと。前述のリストを見てみると、バッハやショパン、ドビュッシーなどのピアノ(またはチェンバロ)曲からの引用が結構あることがわかる。クラシック全体としてはピアノ曲というのは一部にすぎないわけだが、これほど使われている理由は、ゲーム音楽の作曲家がこれらのピアノ曲に慣れ親しんでいるからだろう。というのもゲーム音楽の作曲家は音楽系の学校の作曲コースで学んだ人が多いと考えられるが、そうした作曲コースではピアノの習得はほぼ必須だからである。つまり、ゲーム音楽もクラシックに詳しい人が作曲しており、それゆえ両者には共通の要素が十分にあるといえる。逆に、ゲーム音楽を作曲したいと思っている人は、クラシックについても知っておいた方がいいと言えそうだ。

クラシックはフリー音楽として実に有用だから

 第二の理由は、クラシック音楽というのはある種「良質な著作権フリー音楽」だから、というものがある。よっぽど近代の作曲家を除けば、クラシック音楽の著作権は音楽自体に関してはすでに切れており、誰でも利用することができる。そこで、ネタに困っている作曲家がそれに目をつけてゲーム音楽に使用する、というわけである。これだとまるでクラシックの使用は作曲家の怠慢だと言っているかのようだが、必ずしもそうではない。もう少し積極的な理由を次に挙げてみよう。

クラシックが適する場面があるから

 ゲーム音楽にクラシックが取り入れられる積極的な理由、それはその作品の雰囲気にクラシックが合うからである。そのようなケースの一例として、スペースオペラ的な宇宙戦争ものがある。その先駆けである銀河英雄伝説を参考にしたと思われるアースライト(SFC)ではまさに、クラシックによって壮大な宇宙空間での戦いを盛り上げている。また、カイトの冒険(GB)のような世界中を旅する冒険というテーマに対してもクラシックと相性がいいようであるし、餓狼伝説2(AC)のヴォルフガング・クラウザー戦のような、圧倒的スケールのラスボス的な雰囲気を出したい場合にも、大規模なオーケストラ曲やバッハのオルガン曲が一役買っているようだ。
 このように、さまざまな理由でクラシックはゲーム音楽に使用されている。むしろ、現代で一番クラシックと親和性があるのがゲーム音楽だと言えるほどである。なので、ゲーム音楽の愛好家であればすでにクラシックの世界に十分近づいているというわけだ。

クラシックの魅力とは


 ここまでで、ゲーム音楽とクラシックが密接な関係にあることはわかったと思うが、それでも「ゲーム音楽があれば十分だから・・・」と考えている人も多いだろう。
 そこで、次にクラシックの音楽的な良さや魅力について簡単に解説してみたい。ここで挙げている要素はゲーム音楽とも共通するものも多く、ゲーム音楽のこういう側面が好きなのであれば、きっとクラシックについても同様に魅力的なものだと感じられるだろう。

BGMとして聴ける

 ゲーム音楽の特徴といえば、何よりもゲームに使われている音楽であること、つまりBGMとして作曲されているという点が挙げられる。そのBGMにふさわしいものとは、過度に存在を主張しすぎないこと、具体的に言えば歌や歌詞がないものである(もちろん、ボーカルの入ったゲーム音楽もたくさんあるにせよ)。
 これは顕著な特性といえる。なぜなら昨今の音楽シーンでは、音楽といえば歌、というのが主流であり、歌なしのBGMを単独で聴くようなものは少数派だからだ。そうやって軽視されているBGMを大いに評価しているのが、ゲーム音楽だといえる。
 そのように考えると、BGMだという点でゲーム音楽とクラシックは同類である。もちろん、クラシックにも歌曲や合唱曲などのジャンルがあり、そこにも素晴らしい曲は山ほどあるわけだが、その一方で歌なしの音楽の数も非常に多い。歌がないということは歌詞がないということであり、このことは、音楽の側から訴えるものが具体的ではなく、聴く側がより自由に受け取ることができるということである。そのため、「作業用BGM」といったものも作られるわけであるし、ヒーリングなどに良いとされているのも、こうした積極的主張のない音楽である。こういった音楽が好きなのであれば、クラシックから得るものは大いにあるだろう。

曲調のバリエーションが多い

 一般的なポップスというのは、万人の好みに合わせているためか、聴くことのできる曲の雰囲気というものは限られてくる。恋愛の歌、応援ソング、人生を歌った歌などはあるが、「悪の皇帝が進撃している時の曲」というものはまずない。
 しかし、ゲーム音楽とクラシックにはあるのである。悪の皇帝が進撃している時の曲が。ゲーム音楽の方は言うまでもないが、クラシックにおいてもそういうシーンのオペラ曲や、「はげ山の一夜」などそれっぽい曲は多い。ここからわかるのは、両者はその性質上、作られる曲のバリエーションが非常に幅広いということである。悪の皇帝の曲に魅力はあまりないかもしれないが、その他にもクラシックは不気味な曲、静謐な曲、コミカルな曲、壮大な曲といった実に幅広い音楽を内包している。ありがちな曲調に飽きている人であれば、クラシックの豊かな音楽のバリエーションにきっと満足できることだろう。

一曲の中に起伏がある

 上ではいくつかの曲の間の曲調の違いを挙げたが、それに加えてクラシックは、一曲の中でも変化があるものが豊富である。現代のポップスの場合、一曲一曲個別に作っていき、曲の長さもそこまで長くできないため、よっぽど凝ったものでない限り曲中での雰囲気の変化というのは出しづらい。それに対しクラシックは長さも自由で、一曲の間で展開が用意されているものを多数有している。わかりやすいのが長調と短調の切り替えで、これは頻繁に見られるほか、ソナタ形式というものはまさにその展開を突き詰めたものである。
 加えて、曲間の繋がりに工夫をこらすこともクラシックの得意分野である。例えば交響曲は、基本的に動→静→動という形で楽章が作られており、連続して聴くことで起伏を感じられるものになっている。他にもゲーム音楽では、登場人物やその作品全体のテーマ曲を作って、それをアレンジしていろんな場面の曲に仕立て上げていくという、ルドラの秘宝やサガフロ2に見られる手法があるが、このようなテーマやモチーフの展開や変奏というものもクラシックに特徴的なものである。

クラシックの魅力としてこのような要素が挙げられるが、総じてクラシックはその中に含んでいる音楽の幅が広いということである。この点もゲーム音楽と共通していると言いたいが、ポピュラーミュージックでは飽き足らない、さまざまな音楽表現を追い求めている人にはおすすめである。

クラシックはどうして敷居が高いのか?


 続けて、クラシックが現代社会で今一つマイナーな理由というか、多くの人にとって近付きづらいものになっている原因について解説してみよう。その理由は、以下の3つが考えられる。

第一の壁:クラシックの近寄りづらさ

 第一の理由は、クラシックが与えている「高級・高尚」「貴族っぽい」というイメージというか、先入観である。これが偏った見方であることはすでに述べたが、このイメージに乗っかって、何か上流階級のようなものの仲間入りをしたくてクラシックを始める人も実際にいるだろう。逆にそういう風に見られたくないために避けたり、年寄りの趣味だと思っている人もいるはずである。
 しかしこの点に関しては、ゲーム音楽好きであればこうした見方から脱することができる。なぜならクラシックはゲーム音楽の一部でもあり、そのゲーム音楽は高尚だとか、年寄りのものだとかは考えられないからである。そのためこれを読んでいる人には、この第一の壁はすでにクリアできていると言っていいだろう。

第二の壁:クラシックの膨大さ

 第二の壁は、これは新しいジャンルに手を出すときは何でもそうだが、そのジャンルにどこから入っていいのかわからない、ということである。何せクラシックの場合曲数も膨大で、CDショップにも無数に並んでいるために、適当に手に取ってみてもそれが自分に合う保証はない。おまけに曲名も交響曲第何番とか、ピアノ協奏曲なんとか長調とかややこしいものばかりなので、目的の曲を見つけるのすら大変である。
 この点についても、ゲーム音楽に親しんでいれば十分足がかりは作れているといえる。すでにゲーム音楽として知っているクラシック曲があるため、「この曲の元ネタはなんだろう?」という風に探していけばいいのだ。その元ネタについてはこちらのリストでできる限り調査しているので、これを見て知っている曲を探してみてほしい。

第三の壁:クラシックの現代の音楽との違い

 第三の、そしてもっとも本質的な障壁は、クラシックというものの音楽の形式が、普段慣れ親しんでいる現代のそれと大きく違っていることである。まず曲名のつけ方も異なっており、曲ジャンルの分類もまったく違う。そのうえ、リスナーに要求される聴き方というものにも、若干の違いがある。何しろ、現代の音楽は多くが電気的な楽器で演奏され、再生も電子機器なので、ボリュームについてはいくらでも上げられるわけだが、ちょっと昔はそうではなかったので、その時代の音楽というのは静かな空間で聴くことを前提に作られているものがほとんどなのだ。これはつまり、音楽プレイヤーに入れて街中で聴くのにクラシックは向いていないということである。
 この問題については、続くガイドでできるだけ解消を図っていきたい。まず、形式的な違いに対しては、最初は違和感が多いと思われるので、半分クラシック、半分ポップスのような音楽から入ることをおすすめする。どのような音楽がそれに当たるかは、次のページで解説している。また、聴く際の違いについても、絶対そうでなければ駄目とは言わないが、できるだけ静かな環境で聴いた方が聞き逃す音が少なくなるということは念頭に置いておいてほしい。

クラシックに興味を持ったら


元ネタ調べのススメ

 これまでの内容を読んで、少しでもクラシックに対する興味がわいてきただろうか。
 試してみようかな・・・と思った人は、ぜひとも知っているゲーム音楽の元ネタを聴いてみることをおすすめする。ゲームに使われたクラシック曲リストを参考に、原曲のタイトル名を検索すれば、何かしらの演奏が出てくるはずなので、どんなアレンジがされているのかを聴き比べてみるといいだろう。

未知の曲への挑戦のススメ

 一曲一曲聴いていくのではなくて、いい曲をまとめて味わいたい、という人には、次の実践編でクラシック入門用におすすめの曲を紹介しよう。どれも耳に残りやすい、楽しげで軽快な音楽ばかりなので、きっと気に入るものがあるはずである。

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