ゲームのキャラはSFC時代に加速する
前回、ファミコンのRPGのキャラの移動速度を計ってみるとほぼ均一であり、それは技術的制約に由来していることを明らかにしました。FC時代にはキャラの移動を速くするという発想はあまりなかったものの、SFC時代にはこれが普及してきます。今回はスーパーファミコンのRPGの計測データから、この移動速度の変遷を追ってみましょう。
前回わかったこと
前回はFCのRPGの歩く速さを測定し、
- ほとんどのRPGのキャラクターは秒速3.7ブロックの速さで歩くこと
- それは1フレーム1ドット動かすことの結果であること
- 一部のゲームは、キャラ速度を倍速にしているものがあること
- 1フレーム1ドット、2ドットの速度でないものはプログラムが特殊だと考えられること
といったことがわかった。つまりキャラの歩く速さはゲームデザインよりも技術的制約に由来しているということである。
他方でファミコンのRPGの中にも、倍速移動を導入しているものがあった。倍速にするかどうかはデザイン上の問題である。SFC時代になるとこの倍速移動が普及しだすので、今回はその広がり方を見てみよう。測定内容は前回と同じ、フィールド以外で10マス移動するのにかかる時間である。
測定結果
では早速、その結果を見てもらおう。前回と同じく「10/かかった時間」でブロックあたりの秒速も求めた。以下の数値は、移動速度を変えられたり、ダッシュ移動ができたりする作品の場合は最も速いものを計測した。また今回は各ソフトは発売日順に並べてある。
作品 | かかった時間 | ブロック/秒 |
---|---|---|
ガデュリン | 2.73 | 3.66 |
FF4 | 2.70 | 3.71 |
ロマンシングサ・ガ | 2.72 | 3.68 |
ドラゴンスレイヤー英雄伝説 | 0.68 | 14.67 |
摩訶摩訶 | 3.08 | 3.25 |
ヘラクレスの栄光3 | 2.67 | 3.75 |
甲竜伝説ヴィルガスト | 1.40 | 7.13 |
北斗の拳5 | 2.19 | 4.56 |
DQ5 | 2.69 | 3.71 |
レナス | 2.67 | 3.75 |
FF5 | 1.33 | 7.52 |
メタルマックス2 | 1.37 | 7.29 |
ブレスオブファイア | 2.67 | 3.74 |
エストポリス伝記 | 1.36 | 7.33 |
ロマンシングサ・ガ2 | 1.34 | 7.47 |
DQ1(SFC) | 2.78 | 3.60 |
新桃太郎伝説 | 0.85 | 11.83 |
FF6 | 1.36 | 7.34 |
鬼神降臨伝ONI | 1.37 | 7.33 |
ヘラクレスの栄光4 | 1.30 | 7.69 |
ブレスオブファイア2 | 2.70 | 3.70 |
大貝獣物語 | 2.72 | 3.67 |
エストポリス伝記2 | 1.38 | 7.26 |
真・聖刻 | 1.40 | 7.17 |
ミスティックアーク | 1.81 | 5.54 |
メタルマックスリターンズ | 2.02 | 4.96 |
DQ6 | 1.35 | 7.43 |
テイルズオブファンタジア | 0.69 | 14.56 |
はなまる大幼稚園児 | 1.02 | 9.79 |
ルドラの秘宝 | 1.36 | 7.36 |
大貝獣物語2 | 1.37 | 7.32 |
DQ3(SFC) | 1.34 | 7.46 |
今回は32作品とだいぶ数が多くなった。そのせいでずいぶん縦長になってしまうがグラフも見てみよう。
前回の発見として、このブロックをドットに直すとフレームあたりの速度がわかるのだった。そしてスーファミの1ブロックも、ほとんどがファミコンと同じ16ドットである。次世代機になったのだから解像度が上がっていると思いきや、SFCも横は256ドットだった。グラフィックが劇的に変化しているように思えるのは、ドット絵技術の向上と使える色数の増加のみによるものだったのだ。ゆえに横に16ブロック並んでいれば、1ブロックが16ドットだと計算できる。
ちなみに、SFC時代のゲームではキャラが縦に2ブロックほど使うようになったことも、キャラが大きくなったという印象を受ける理由である。FCでも一部のゲームは縦長キャラだが、SFCではガデュリンが早々にこれを導入している。キャラが16×16から16×32の縦長になったことは、SFC時代に広まったイノベーションといえる。(邪聖剣ネクロマンサーもそうであるように、この変化はSFCより少し前かもしれないが)
1ブロックが16ドットでフレームレートが60、1フレーム1ドットが基本という移動の仕組みを踏まえれば、多くのゲームでブロック/秒が3.7(1フレーム1ドット)と7.4(1フレーム2ドット)前後にまとまっているのがわかるだろう。3.7×16がだいたい60だからである。つまりFF4やドラクエ5と同じ速度のものが1倍移動で、FF5のダッシュ、ドラクエ6の通常移動と同じものが2倍である。
そしてこのグラフからは、2倍では飽き足らない4倍移動のゲームも発見できる。ドラゴンスレイヤー英雄伝説とテイルズオブファンタジアのダッシュがそれである。この他にもごきんじょ冒険隊のダッシュも4倍だし、スターオーシャンはダッシュで4倍、バーニィ使用+ダッシュで8倍ととんでもないスピードになる。
倍速移動の普及過程
さらに今回は各作品を発売日順に並べたが、これは倍速移動がどのように普及していくかを見たかったためである。上記のグラフを見ながら、その普及過程を考察してみよう。
倍速移動自体は、1989年の天地を喰らうですでに導入されていた。しかしSFCでRPGが出だした1991年のガデュリンやFF4、ロマサガ1では未だに1倍移動だった。それに対し、92年のドラゴンスレイヤー英雄伝説(他ハードでどうかは不明)や甲竜伝説ヴィルガストは、一早く倍速移動を採用していた。
トレンドが変わったのが92年末のFF5の発売で、本作ではダッシュで倍速移動ができるようになった。直後のメタルマックス2やエストポリス伝記は早速この倍速を導入し、スクウェア作品もロマサガ2やルドラの秘宝のようにダッシュ移動で倍速は基本となった。他方で93年末発売のドラクエ1・2の速度はそのままだった。
94年でもいくつかのゲームは等倍だが、徐々に倍速にシフトし始め、このデータではエストポリス伝記2以降となる95年からはほぼ倍速は標準となった。普及まで3年といったところである。その後95年末のTOPや翌年のスターオーシャンでは4倍(や8倍)までもが導入された。ドラクエもようやく6でこの流れに追いついた。
速度がイレギュラーな作品
このデータからは、1フレーム1ドットの倍数に収まらないイレギュラーな例もあるのがわかる。魔訶魔訶は若干1倍より遅いが、これは例によってプログラム上の問題のためだろう。同じデベロッパーが作った北斗の拳5では逆に速くなっているが、理由はよくわからない。
新桃太郎伝説もまた微妙な速度で、歩く速さが「おそい」だと標準的な1倍、「ふつう」だと2倍移動になるが、「はやい」にすると4倍より少し遅くなっている。何か動きがカクカクしているところがあるので、プログラムに無理が来ているのだろうか。
メタルマックスリターンズは微妙な速度だが、なぜならばこの作品は、世にも珍しい1ブロックが24ドットのゲームなのである。SFCで他にもあるんじゃないかと思って探したが、キャラの大きいエルファリアや甲竜伝説ヴィルガストも、キャラを領域の外にはみ出させて大きくしているのであり、地面のサイズは依然として16ドットだった。今のところ24ドットのゲームとしてはMMRが唯一無二となっている。そしてこの24に速度をかければほぼ倍速となる。つまり1歩で移動するドット数が多いために時間が多くかかっていたが、速度自体は倍速なのである。逆に言えば本作のように3分の2の速度のゲームがあれば24ドット1ブロックであることがわかるのだが、今回調べた中にはもうないようだった。
他方で、ミスティックアークや魔導物語はなまる大幼稚園児もまたイレギュラーだが、双方とも確かに16ドット1ブロックであり、速度が微妙に違う理由はわからなかった。
まとめ
今回わかったことをまとめてみよう。
- 1秒に3.7ブロックの速度というのは1フレームに1ドットの移動であり、多くのゲームがこれを採用している。
- SFCの時代になると、1フレーム2ドットの倍速移動を導入するゲームが徐々に増えだし、SFC末期にはほぼ普及した。
- SFCもFCと同じく横の解像度は256ドットが基本であり、キャラの大きさも横は変化していない。
- キャラが大きくなったように見えるのは、縦に2ブロック使うようになったためである。
- 歩く速度が60ドットルールから外れているゲームは、やはりプログラムに何かある。
ということになる。これ以降は3D作品が増え明確なブロック区切りがなくなるが、2D作品の移動についてはSFC時代にかなりのパターンが試され、だいたいアイデアは出そろったといえるだろう。