ゲームのファンタジー世界観と神話の関係 まとめ
これまで、さまざまな側面からゲームと神話の関わりを探究してきましたが、その挑戦もついに大詰め。最後の仕上げとして、一連の調査でわかったことをまとめ、ゲームのファンタジー世界観と神話の関係について総合的な視点から解説を行いたいと思います。
今回は総括として、これまでにわかった内容を概観し、そこからゲームのファンタジー世界観と神話の関係一般について明らかにしていきたいと思う。以下では、まず神話について簡単に解説し、ゲームと神話の関わりの全体的傾向、特定の神話の影響が濃厚なゲーム、ゲームと神話の関わり方の類型を記述し、最後にそれらをまとめていく。
神話とは
まずは神話について簡単に解説すると、
- 神々や超自然的存在が登場する
- 真実だと信じられている
- 事実ではない
- 世界や事物の起源を語る
という要素のうち、いくつかを十分に備えたものを神話として扱うのが適当であると思われる。詳しくは「神話とは何なのか」を参照してほしい。
今回の調査では、そのような神話として妖精伝承、ギリシャ神話、ユダヤ・キリスト教(聖書と天使・悪魔学)、北欧神話、ケルト神話、エジプト神話、中東神話、インド神話、中国神話、日本神話、仏教、中南米神話、クトゥルー神話を対象に含めた。それぞれの神話の概要については、以下の節で紹介している「世界の神話とゲームの関係 総解説」を参照してほしい。
ゲームと神話:全体的傾向
各神話のうちどれが人気なのか、よく登場するかを知るために、代表的なRPG100本のそれぞれに、各神話の要素がどれくらい用いられているのかを調べたのが、「ゲームの中の神話分析リスト」である。
ここに見られる傾向は「ゲームのファンタジー世界観とはどんなものか」で分析したが、大まかにまとめると下図のようになる。
ここで取り上げた類型は、妖精伝承のモンスターと種族、ギリシャ神話のモンスター、ユダヤ・キリスト教の悪魔を取り入れた「典型例世界観」、そこから悪魔を除いた「妖精物語的世界観」、典型例世界観から妖精種族を除いた「最小限ファンタジー」の3つであり、もちろん例外もあるがこの3つをベースにしているゲームが多数派を占めているといえる。
個々の神話の影響が濃厚なゲーム
続いて、いずれかの神話の影響が濃いゲームも取り上げてみたいと思い、ツイッターで情報を募ったところ、多数の意見が得られた。
この情報をもとにリストアップしたのが、以下の表である。
神話のどの要素がゲームに取り入れられているのか
さらに、今度は神話の側から、世界の神話のどの要素がゲームに取り入れられているのか、それぞれ以下のページで解説を試みた。
世界の神話とゲームの関係 総解説
妖精伝承・ギリシャ神話・ユダヤ・キリスト教(聖書および天使・悪魔学)
神話・宗教とゲームの関わり方の類型
また、こうした内容を検討しているうちに、神話がゲームに取り入れられる場合でも、その関わり方は決して1つではないこともわかってきた。「神話・宗教とゲームの関わり方の5類型」では、そのような類型として次の5つを挙げた。
- その神話・宗教の世界観が中心になっているもの
- 重要な概念・キャラクターをモチーフとして取り入れているもの
- その宗教・神話が存在する時代を舞台にしたもの
- その神話・宗教を模倣したものが登場する作品
- 批判的に価値観を逆転させているもの
これらは関わり方の深さも表しており、1が最も関わりが深く、2から4はそれよりも薄く、5はその神話をネガティブに表現している点で、批判的に関わっているといえる。
まとめ ゲームのファンタジー世界観と神話
以上のまとめとして、ゲームの背景となる世界観と神話の関わりを考えてみたい。
まず、ほぼすべてのファンタジー世界観のゲームは、何らかの神話や伝承の影響を受けている。主なものは妖精伝承のモンスターと種族、ギリシャ神話のモンスター、ユダヤ・キリスト教の悪魔だが、それ以外にも、武器などが取り入れられることも、五行思想などの概念が属性などに利用されることもある。全体としては特定の神話のみに依拠するよりも、北欧やケルトからは武器を、シュメール神話からはモンスターをといった散発的かつ混淆的な使用が多い。こうして、世界の神話から少しづつ要素が集められ、「ゲームのファンタジー世界観」を形成しているといえる。
他方で、特定の神話をモチーフにした作品というのは皆無ではないが、散発的である。その取り入れ方もさまざまで、何らかの神話の世界観をそのまま再現するようなゲームはさらに少なく、それ以外にも現代にその要素を持ち込むものや、特定の神話をモチーフにしながらオリジナル世界を構築するものもある。
ここでは、独自要素と神話に由来する要素がせめぎあっているといえる。どこまで既存の世界観に依拠するかということは作品によって実にさまざまであり、なおかつオリジナルと原典重視のどちらがいいゲームになるとも言い切れない。一つ言えるのは、FFやドラクエ、Wizやテイルズオブシリーズなど有名なものはそれなりにオリジナル要素が多いということである。ゴッド・オブ・ウォーなど特定神話の影響が強くても人気を博すシリーズがないとはいえないが、上述のリストに挙がっている作品はあまりメジャーでないものが主であり、かつシリーズ化したケースは限られている。
見方を変えれば、独自世界観と神話重視世界観の違いは、自由な世界観と固定されたそれとの違いだともいえる。特定の神話に依拠した場合、その世界はより排他的になり、そぐわないものを追加することは難しくなる。その場合、そこで展開できるストーリーや存在できるキャラクターは限られてしまうだろう。しかし、その反対が正解とは限らない。固定世界観の真逆は、まとまりのない世界観である。次々とコンテンツを追加していく必要があるスマートフォンゲームがしばしばこうならざるを得なくなっているが、何でもかんでも取り込んだ結果、どこにでもある日常世界のようになり、これはこれで独自性が失われる。他との区別がつかなくなるのだ。結局のところ、神話的な要素は適度に取り入れて、適度にオリジナル要素を盛り込むのが安定しているといえる。
神話の知識と創作
最後におまけとして、神話や宗教の知識を得ることがゲームなどの創作にいかに役に立つか、ということにも触れたい。
これまで見てきた結果、どのようにしたらオリジナリティがあり魅力的なゲーム世界が構築できるのかということは、一概にはいえなそうだ。ただ言えることは、オリジナリティがある方がよいからといって、神話などを参照することが無意味にはならないということだ。
まず前提として、いかなる創作も無から作ることはできない。どんな人も、頭の中にあるものをさまざまな形で組み合わせることになる。そのような状況では、「オリジナルなものを作る」ということは、今までなかった形で既存のものを組み合わせるということになる。
なので新たな創作をしようとする人も必然的に頭の中にあるものを組み合わせざるを得ないのであり、その際に「何も参照しない」つもりでいると、それは結局のところ身近なゲームやアニメなどを参照することになる。しかしそういったものは誰もが知っているので、そこからはありがちなものしか生まれないことになる。
そのため頭の中にある素材の幅広さが重要となってくるのであり、そうした素材の提供元として神話は唯一無二の価値を有していると言いたい。ギリシャ神話の怪物の例を見ればわかるように、神話は過去の人々の奇抜な発想の貯蔵庫なのであり、またそれは世界各地の独特の文化が生み出したものなので、同じような文化を共有している現代には見られないものである。
ゆえに、神話の知識を得ることはさまざまな創作において大いに役に立つだろう。これは持論だが、人々に深い印象を与えるものは、既存のものをうまく組み合わせ、絶妙なアレンジを加えることによって生まれるのだ。