オウガバトルシリーズの元ネタ本

Gayaline

 今回は、タクティクスオウガをはじめとするオウガバトルサーガを作るにあたって制作スタッフがまず確実に参照したであろう資料を紹介します。数多くのキャラクター名がある一冊の本から取られているわけです。


 久々に更新した「ファンタジー博物館」の新コンテンツ、「悪魔族」はもうご覧いただけただろうか。これはユダヤ・キリスト教の悪魔についての伝承を簡単にまとめたものだが、多くのアニメやゲームはこうした伝承を元ネタないしインスピレーション元として利用している。

 あのリストを見れば知っている名前が多いだろうし、これはここから取ったんだなというのも知れるだろうが、それ以上に、作者はこの本を読んでいた、ということがかなりの見込みで推定できるケースもある。

 その一例がFF3の元ネタを調べていた時で、どうも『幻想世界の住人たち』を見たらしいということがわかった。本まで絞れるのは、他には載っていない誤った表記が用いられているためである。詳しくはこちらを見てほしい。

 そのような元ネタ本が推定できる例がもう一つある。こちらは99%確かだといえる話だ。それは、タクティクスオウガをはじめとするオウガバトルサーガのスタッフが、コラン・ド・プランシー著、床鍋剛彦訳『地獄の辞典』(講談社)を読んでいたということである。それは何より、本書に記載されている悪魔の一覧を見れば明らかだ。以下に索引を載せる。

 タクティクスオウガ以降の作品を知っていれば、見覚えのある名前ばかりだろう。アロセールがいる、アンドラスがいる、アリオーシュがいる、オーソンヌもいる。ベイレヴラやビスク・ラ・ヴァレもいる。オウガバトルの敵味方が勢ぞろいである。本書に載っていてオウガバトルに出てくるキャラクターを以下に一覧にまとめてみよう。ついでにいつもの二つ名もつけてみた。()は本と表記が異なっているものだ。

タクティクスオウガ
アロセール・ダーニャ 暗黒騎士アンドラス 戦慄のアナベルグ 暗黒神アスモデ 暗黒騎士バールゼフォン 魔術師バイアン バルバトス枢機卿 魔女ベルゼビュート 東雲のカークリノーラス(カークリノラース) 災いのダゴン デボルド・オブデロード 海賊船長エルリグ 毒使いのファルファデ 騎士フォルカス 剣聖ハボリム 竜使いハルファス 竜騎兵ジュヌーン(ジェヌーン) 騎士レオナール 魔導士ラドラム 暗黒騎士バルバス(マルバス) 暗黒騎士マルティム 屍術師ニバス 聖王オベロン 僧侶オリアス 竜使いオクシオーヌ 暗黒騎士オズ 騎士ラウアール ロデリック王 ロンウェー公爵 拘泥のスタノスカ 暗黒騎士ランスロット・タルタロス タムズ 白魔導士ヴェパール 嘆きのヴェルドレ 暗黒騎士ヴォラック ヴォルテール 騎士ザエボス 傭兵ザパン
オウガバトル64
冥煌騎士アマゼロト 流連騎士アリオーシュ 開明獣ビスク 明星のフレデリック 御竜氏フリアエ 南部将軍ゴデスラス 中央官吏ケリコフ 鳴弦士リーデル 殉教者ルーガルー 邪眼大公ミュルミュール 冥煌騎士プルフラス 竜心王リチャード 冥煌騎士タムズ 冥煌騎士ヴァプラ 中央騎士エウリノーム・レイド
タクティクスオウガ外伝
聖炎騎士オーソンヌ 人魚ベイレヴラ セルヴァン・メンダークス 教皇の手シビュラ 祭祀ユフィール 召喚士エルリック(エルリク) 海賊スタノスカ 白牙騎士ミューリン(ミュリン) 白牙騎士シトリ 白牙騎士ニッカール 悪鬼リモン 死の誘い人ミュカレー(ミュカレ) 聖なる悪魔ラウアール

 タクティクスオウガは大物もモブも敵将大集合という感じだが、雷神アロセールやハボリム先生にオリアス、オクシオーヌなども混じっている。メインキャラ以外はここから取ったということなのだろう。ザパンとかニバスは他では見たことがないので、なおのことこの本を参照した証拠といえる。また味方のはずのレオナールとロンウェーがいるのも示唆的だ。あとバルバス(マルバス)とマルティムは隣同士の項目で、ここでも仲がいいようだ。

 オウガバトル64は冥煌騎士が勢ぞろいしていて非常に美しい。ローディス人だけではなくゴデスラスやケリコフなどパラティヌスの悪いやつらも混じっている。フレデリックもいるが。タクティクスオウガ外伝も敵側に多い。まあ主人公も最終的には載ってるんだけど。マイナー作品であるオウガバトル外伝ゼノビアの皇子にはここからの引用は見当たらなかった。


 これだけ一致していればこの本がネタ元であるのは間違いないと言えそうだが、さらに証拠がある。それは本書特有の表記である。この本は元がフランス語である関係上、いくつかフランス語のカタカナ表記になっている。代表的なのがアロセールAlocerで、これは普通はアロケスと呼ばれているソロモン72柱の一体である。同様にムルムルがミュルミュールとか、ベルゼブブがベルゼビュートとか、フランス語にしかない表記がオウガバトルには使われている。他にフランス語の悪魔辞典がない限り、この本を参照したのは明らかだろう。何より著者のコラン・ド・プランシーも、デニムの父プランシー神父として登場しているのだ。本書の発売も1990年で、タクティクスオウガには間に合う。初代伝説のオウガバトルには参照した形跡がないが、この段階ではスタッフが未入手だったと思われる。

 ちなみに後の2作品、オウガバトル64とタクティクスオウガ外伝は松野泰己氏が関わっていないオウガバトルだが、それでもこの本からの引用が続いているということは、この本は松野氏と一緒に移籍しなかったということだろう。ある種オウガバトルサーガの魂でもあるので、ファンの方はぜひ入手することをおすすめする。


 今回のネタ元の発見から言えるのは、ちゃんとした世界観を作れる人は情報収集を欠かさないということだろう。同じような例では、初代ガンダムのア・バオア・クーはおそらくボルヘスの『幻獣辞典』を参照した結果だとかいろいろある。こうした幻想生物に関する資料は現在ではさらに豊富に存在するので、創作を志す人はできるだけこのようなアンテナを広げていってほしい。

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