なぜゲームの乗り物は事故るのか:3つの理由

Gayaline

 ゲームでいやに多発する乗り物事故。それほど乗り物が事故る理由はなんなのでしょうか。今回は、RPG乗り物事故調査報告書で集めたデータをもとに、乗り物事故が起こる理由を考えてみました。その結果それっぽい理由が3つ見つかったので、多発する事故の謎の解明に近づけたんじゃないかと思います。

先日の更新では、「RPG乗り物事故調査報告書」として、RPG内で乗り物が事故るケースをできるだけ集めてみた。ここで気付いたのが、事故が多いゲームと少ないゲームが対照的なことである。上記ページを見ていただければ一目瞭然だが、FFは明らかに多い。初期から存在するだけでなく、シリーズが進むと数もどんどん増えていく。定義から外れるので入れなかったが、FF9でも劇場船プリマビスタ撃墜や黒のワルツ3号によるカーゴシップ破壊など、乗り物が壊されるケースは依然として多い。これと対照的なのがドラクエである。戦車が壊されまくるスラもりはともかく、本家シリーズはどう頭をひねっても事例がほとんど出てこなかった。

 であれば当然気になるのは、乗り物が事故りやすいゲームとあまり事故らないゲームの差は何か、ということである。この点に関してはツイッター上でもいろいろな意見を聞いたが、今回調べていてある程度の結論に達したのでそれを解説してみよう。最終的には、なぜゲームで事故が起こるのかという理由も明らかになるはずである。

理由その1:事故りうるものが出るから(世界観の違い)

 最大にして誰も思い当たっていなかった理由がこれだ。つまり、事故れるものを出すから事故るということである。逆にすれば、事故りうるものが出ないから事故りようがないとも言える。

 この視点のヒントとなるのがバイオハザードである。バイオをはじめとするカプコンのアクションゲームで出てくるヘリコプターはやたら墜落するということが昔から言われている。このページでは実際に落ちたカプコンヘリがまとめられている。ここで考えてみたのが、なぜヘリなのか?ということだ。おそらくその答えは、出せる乗り物がヘリくらいしかないからである。バイオハザードやディノクライシスなどのパニックものはだいたい、孤島や人里離れた研究所、あるいは閉鎖された都市が舞台で、通常の乗り物は近づきづらい。かといって飛行機では着陸場所に困る。戦車は可能かもしれないが、何より主な用途である「脱出」に向いていない。他に考えられるのはオフロードタイプの自動車くらいであり、こちらも結構事故っている。また同時に、人間側の悪いやつらと戦う場合でも、ヘリはぴったりである。飛行機では、MGS2のようなハリアーでもない限り一箇所に留まっていられない。結局戦場にせよ町中にせよ、ヘリが一番汎用性が高いためよく出てくるのである。そしてよく出てくるものはよく落ちる。どうせ壊すなら、その場で炎上するだけの地上の乗り物より落下してたいてい爆発するヘリの方が絵になるというのもある。

 この話でわかるのは、なぜ事故るかを考える際には、そもそも事故りうる乗り物が存在しているかに注目すべきということだ。それはどんな乗り物か。ここで当ページのトップに載せた事故統計を見てもらいたい。被害対象は上位から、船舶、航空機、宇宙船、自動車である。そしてドラクエを思い出してみよう。このうち、ほぼ船しか存在しないのだ。空飛ぶ乗り物はあるにはあるが、鳥やドラゴンや馬、気球や城や石など変わり種ばかりである。こういった乗り物は基本一品物なので、墜落して壊れたりしたら元に戻りそうにない。このドラクエの空の乗り物群を見ていくと、FFとの世界観の違いがわかるだろう。FFでSF要素が入ったのは6や7からだと思われがちだが、初代から超文明の飛空船が出てくるし、2からは基本通常技術で飛空艇が作られている。似たような剣と魔法の世界に見えて、ドラクエとは世界観がずいぶん違うのである。空には多数の飛空艇が飛んでおり、飛べば飛ぶだけ、今考えた概念である「可事故性」が高まる。FFとドラクエの差はこういうわけなのだ。もっと言えばおそらく、中世よりも現代のほうが、現代よりもSFのほうがというように、文明が進めば進むほど乗り物やコンピューターが増えて、事故が起こりやすくなる。事故は文明の発達の負の側面なのではないだろうか。

 しかし、ドラクエにも船は存在するし、ドラクエの船は事故らないがFFの船は事故る。どうやら、まだ見落としている要素があるようだ。

理由その2:すぐリカバーできないから(システムの違い)

 ゲーム、とりわけRPGの乗り物事故を比較する際に重要なのは、事故った結果としてどうなるかである。類型化してみると、乗り物を失う未知の場所に飛ばされるパーティーがばらばらになるなどが挙げられる。こうした事態が起こったとして、ドラクエだとどうなるか考えてみよう。どの場合でも、ルーラを使えばどうにかなってしまうのである。未知の場所からは帰ってこれるし、パーティーは基本離脱のないシステムだ。乗り物がなくなっても元の町には戻れるので、結局のところ修理や再入手の手間が増えるだけだ。となると、事故が起きても特に展開が変化しないということである。

 つまり、主にルーラとパーティーシステムのせいで事故への回復力が生まれ、その結果として事故が起こりづらくなっている。この点については、類似のシステムを導入しているゲーム、メタルマックスや桃太郎伝説、エストポリス伝記やブレスオブファイアなどでも同様だろう。これらの事故率をルーラなしのゲームと比較してみれば、顕著な差が出るだろうということは自信を持って言える。今になってわかったが、ルーラの存在は便利な半面、ストーリー展開が相当程度限定されるという危険な側面があるようだ。ゲーム開発の際には導入には慎重な検討が必要だろう。ともあれ、この理由をまとめれば「事故からの回復力」がない時に事故は起こるということである。

理由その3:事故る意味があるから(ストーリーの違い)

 これは理由その2と密接に関係しているが、事故った結果としてストーリーが変動する際にのみ、事故は起こるといえる。乗り物事故は、何らかの展開の変化をもたらしたくて起こすものなのである。サロニアのように行けるところを制限したり、FF4のようにパーティー人数を一旦減らしたり、火力船沈没のように新たな道を見つけたりといったことだ。マザー2のスカイウォーカーも、あれを使ってそのまま次の町に行けたら困るから壊れるのだろう。こうして行動を誘導する方法が、ドラクエではしばしば通用しない。それは主にルーラのせいだが、その影響でストーリーの性質も変わっているといえるだろう。つまり、「事故り甲斐」がある時に、事故は起こるのである。

 逆にストーリー上の事情が事故率を決定づける部分もある。それはストーリーの流れが「旅」かどうかである。多くのRPGは旅するものなので気づきにくいが、たとえばウィザードリィのような拠点とダンジョンを往復するものは横の移動がないせいで乗り物に乗りようがない。エレベーターくらいである。その他にも、拠点でクエストを受けてどこかに向かうようなゲームも、拠点がなくなったら困るのでまず事故らない。理由その1と似ているが、「乗り物に乗らなければ事故らない」のである。

コブラジョジョの謎、解明される

 ここまで理由を考えたことで、先日浮かび上がった謎への解答が得られたように思われた。それはSFCのジョジョの奇妙な冒険のRPG、通称コブラジョジョに関する話である。前提として、ジョジョの特に3部と5部は、やたらと事故が多いという事実がある。まるで乗り物に乗るのを待っているかのように敵が襲ってきて、最終的には飛行機が墜落する。事故が多い以上に、乗り物内での戦闘がとても多いのである。これはおそらく、荒木氏が乗り物内という環境をバトルに適したものとして効果的に使っているからではないかと考えられる。つまり狭い乗り物内で敵が襲ってくれば、大勢いる仲間は分断されるし、行動は制限されるし、乗り物内のギミックも活用できるというわけだ。その結果としてバトルがトリッキーで面白いものになっていることはわかるだろう。それ以外の理由としては、理由その1(現代が舞台だから)や理由その3(旅をするストーリーだから)も挙げられる。

 さて、翻ってSFCの3部ゲーである。話していてわかったが、本作ではあれだけ多かった乗り物事故がほとんどカットされている(ゼロかもしれない)。ストレングスは館がそうであり、グレーフライは飛行機じゃない場所にいて、エンプレスはなんかいない。これはなぜか。クソゲーだからという安易な結論で片付けてはいけない。答えは3・・・ではなく理由その2「漫画とゲームでシステムがまったく違うから」である。まず、先ほど挙げた乗り物内で戦う意味を思い出してみよう。パーティーの分断はありえるが、乗り物内という空間を生かしたバトルや、ギミックの使用は期待できそうにない。逆にゲーム方面から考えると、本作はストーリーの都合上引き返せない旅であり、乗り物を壊して利用を制限する意味もない。結局のところ、これは漫画とゲームの違いが生んだ差なのである。これがもしアクションゲームだったら、個性的な地形は意味を持ったかもしれない。実際にそれが活用されているのはPS2の5部ゲーである。

 これで謎は解けただろうか。おそらく、他の「原作と違う」現象も、こうしたゲームと他メディアの違いから生まれているものもあるのだろう。とはいえ、事故でストーリーを劇的にするという意味は依然として残っており、こればっかりはコブラジョジョのストーリーが悪いとしか言いようがないが。

まとめ:なぜゲームで事故は起こるかの3つの理由

 以上の話をまとめてみよう。ゲーム、特にRPGにおいては、次の3つの要素があればあるほど事故が起こるといえる。

  1. 可事故性 事故を起こしうる乗り物が世界に存在していること
  2. 事故への回復力のなさ 事故をリカバーする手段がシステム上ないこと
  3. 事故り甲斐 事故によって変化が起こるようなストーリー展開であること

ここまでわかれば事故の予防策もバッチリだろう。つまり世界観は航空機のない中世かそれ以前で、ルーラが使えて強制的なストーリー展開のないクエスト受注型などのゲームなら事故は起こらない。これで警察署の交通課もニッコリである。

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