国内のゲーム研究の現状報告
〜『デジタルゲーム学研究』を読んでみた〜


当サイトでは、独自にゲーム研究ということを打ち立てているのですが、
いい加減他のゲーム研究についても把握する必要があるだろうということになったので、
まずは海外のゲーム研究の現状を調査し、国外ではゲーム研究が非常に活発に行われていることがわかりました。
ただ、なにぶん数が膨大なので現状を追いかけるのも大変なので、ひとまず国内の研究から把握していこうと考えました。
そこで、今回はゲーム研究の成果の集積場として、日本デジタルゲーム学会が刊行している『デジタルゲーム学研究』を参照し、
国内ではこれまでどのようなゲーム研究が行われてきたか、ということを調べてみました。
この雑誌、置いてある図書館等がやたら少ないのですが、どうにかして第1巻から2016年の最新号まで読むことができたので、
その内容をお伝えします。以下では、『デジタルゲーム学研究』掲載の論文をテーマごとに分類して紹介しました。
これによって、この分野ではどのような研究が行われているかということの大筋がつかめるはずです。
また、それ以外の項目の内容についても解説を設けました。

この他に、国内のゲーム研究については「ゲーム学会(GAS)」というものもあるようですが、
こちらは学術雑誌の入手方法がなおのこと不明なので、今回は『デジタルゲーム学研究』のみといたします。

コンテンツ目次
日本デジタルゲーム学会について
ゲーム研究の論文の傾向
その他の掲載内容について
まとめ

日本デジタルゲーム学会について


最初に、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)について簡単に説明しよう。
この学会は、国際学会であるデジタルゲーム学会(DiGRA)の日本支部として2006年に設立されたもので、学術的にゲームを研究することを第一の目的としている。
活動としては一般的な学会と同様、年次大会の開催、学術雑誌やニューズレターの刊行を行っており、
活動の拠点は立命館大学情報学部や東京工芸大学芸術学部、東京大学大学院の情報学環となっているようだ。
また、ゲーム研究の特性上、ゲーム開発者もこの学会に関与しており、ゼビウスやドルアーガの塔の生みの親として有名な遠藤雅伸氏なども役員に名を連ねている。
そうした繋がりからか、ナムコ(バンダイナムコゲームス)のゲームを用いた研究がちらほら見られる。

学術雑誌『デジタルゲーム学研究』は2007年から刊行されており、
イベントについては年次大会に加え、「ゲームメディア」「ゲーム教育」「ゲームデザイン」「オンラインゲーム」「オーラルヒストリー」の部会が研究会を開催している。また2012年からは「夏季研究発表大会」という、年次大会に準ずるものも行っている。
年次大会等での発表内容については今回は調査できなかったが、プログラムを見る限り、大会で行われた発表の一部が論文やショートペーパーとして学会誌に収録されているようだ。

ゲーム研究の論文の傾向


次に、『デジタルゲーム学研究』に掲載されている論文等の内容を紹介していきたい。
各号の目次については、公式ウェブサイトから見ることができる。
まずは、どういった研究が多いのかという、全体の傾向を調べてみよう。
2016年の8号までを見ると、そこには多様なアプローチからの研究が存在している。
分野としては、心理学、社会学、教育学、経済学、美学、工学などで、
これに加えてゲーム自体の評価論や、ゲーム開発の手法研究、ゲーム史などの独立したゲーム研究とみなせるようなものもある。
このような分野名だけでは内容がわかりづらいので、これらを扱っているテーマごとに分類してみよう。

テーマごとの研究内容の分類

『デジタルゲーム学研究』掲載の論文・研究ノート・ショートペーパーの内容をいくつかのテーマに分けると、以下の通りとなる。
シリアスゲーム研究・開発
ゲームの効能・悪影響
ゲーム制作論
ゲームプレイの測定
ゲーム史
ゲーム業界・産業の研究
ゲーム技術論
ゲーム分析の理論
ゲーム研究の状況分析
これらは、大まかに確認できた数が多い順に並んでいる。つまり「シリアスゲーム研究・開発」のテーマが一番多くて、下に行くに従って珍しくなっていくわけだ。

それぞれのテーマについて、どのような研究なのかを解説しよう。
これらのテーマはさらに、ゲーム開発に関する実践的な研究と、ゲーム史やゲーム業界、個々のゲームについての非実践的な研究に分けることができる。大まかにいって、それぞれ開発者目線とユーザー目線ということである。
そうすると、「ゲームを用いた教育」「ゲーム開発論」「ゲーム技術論」が前者に、残りが後者に分類されることになる。数としては後者のほうが多いが、近年になるほどゲームによる教育や開発論が増えてくる傾向がある。

ゲーム研究の傾向と現状

このように各論文やショートペーパーをテーマごとに分けると、『デジタルゲーム学研究』におけるゲーム研究の傾向、ひいては日本のゲーム研究の現状が見えてくるだろう。
数として最も多いのが、心理学的な手法を用いたゲームプレイヤーの感情研究である。ここには、ゲームはプレイヤーに良い影響を及ぼすのかそれとも悪い影響を及ぼすのかという問いに答えるものと、単純にゲームをプレイしている際にプレイヤーの感情はどう変化して、それがゲームの結果にどのような影響を与えるのかという研究が存在している。
次に盛んなのが、明確に良い影響を及ぼすゲーム、学習や教育用ゲームの開発についての研究である。これに加えて、ゲーム開発者をサポートするような研究も多く、ここではカウントに入れていない「産官学連携」のコーナーも含めれば、両者の数はさらに増すことになる。
それと平行して、ゲームの歴史的・社会的な研究も一定数存在している。これはゲームの開発や受容についての変遷を追ったものである。
一方であまり見られないのが、ゲーム分析の理論や、ジャンル分類、ゲーム評価についての研究で、いくつかのアプローチがあるものの、特に近年では活発とはいえない。
同様に、海外のゲーム研究状況の報告といった先行研究の調査やゲーム研究の現状整理については、ほとんど行われていない。
加えて、一切見当たらなかったのが、個々のゲームの内容に関する研究である。ストーリーを追ったものや文化史的研究など、他ではある程度見受けられるが、この雑誌では採録されていない。そうしたものに限らずとも、ゲームそのものを資料とした研究というのが欠けているように感じられた。ゲーム雑誌や攻略本を用いた研究についても同様である。
さらに、ゲームの保存や資料収集を目的とした研究も、第6巻1号の国立国会図書館に関するものを除いて見られなかったが、ウェブサイト上には掲載されていない特別号である『2010年大会予稿集』の中には立命館大学が行っているゲームアーカイブプロジェクトに関する発表が収録されている。
総じて、理系的な研究が多いというのが全体に目を通しての印象である。美学・文学的な側面からの研究やゲーム論、ゲーム評価論というのはともすれば単なるゲームレビューや抽象論になりがちだろうから、この傾向はむしろ堅実な道を歩んでいるといえるが、そうだとしてもこのような偏りは現実としてある。
ただし、今回詳しい調査が及ばなかった年次大会での発表プログラムを見ると、研究発表においては多様性はさらに増し、ゲームサウンドについての研究なども見いだせる。それらは研究論文として載せるには規模が小さすぎるということなのかもしれない。

その他の掲載内容について


『デジタルゲーム学研究』には論文だけではなく、各種さまざまな内容が掲載されている。
以下ではそれを項目ごとに紹介していこう。

「産官学連携」「産業界からの声」

この2つの項目の下では、ゲーム開発者の側からの寄稿や、開発者とゲーム研究者の協力、ゲーム教育やゲーム開発者教育などについての記事が掲載されている。
総じて、ゲーム開発やゲーム業界の現状について知るために有用だろう。
第6巻2号の稲船敬二氏の文章のような、著名なゲーム開発者へのインタビューに分類できるものも存在する。

「ゲーム史探訪」「ゲームを語る」

これらのコーナーでは、ゲーム開発者や研究者によるゲーム開発・ゲーム体験についての証言が掲載されている。
エッセイ的なものもあるが、多くがゲーム史に関する研究に寄与するものとなっている。

「参加記」

ここでは、国内外のゲーム関連のイベントに参加した際の様子や、そこでの研究発表の報告などが記されている。
本家DiGRAをはじめ、CEDECやGDC、IGDAの大会のほか、Global Game Jamのようなゲーム開発イベントについての情報もある。
とりわけ「日本のゲームはクソだ」という発言の飛び出した2012年のGDCの報告は真に迫るものがあった。

「書評」

学術雑誌ではおなじみの書評欄が『デジタルゲーム学研究』にも存在する。
書評というのはもちろん本の内容紹介だが、これは学界の状況を手早く知るための最善の手段である。
特に読むのが手間な外国語書籍の書評は貴重で、『Handbook of Computer Game Studies』などの重要な文献の内容を知ることができるのはありがたい。
もう一つの重要図書である『Rules of Play』の書評も、和訳版だが第7巻に収録されている。
また、第3巻の『デジタルコンテンツ白書2008』の書評では、他のゲーム統計資料との比較も行われていて、どの資料を参照すればいいのかがわかって非常に有用であった。

以上が、『デジタルゲーム学研究』に掲載されている論文や研究ノート以外の内容のほとんどである。
簡潔にまとめるならば、ゲーム業界の現状報告と開発者インタビューとイベント記録と文献紹介が載っているということで、どれもゲーム研究にとっては貴重な資料となるだろう。

まとめ


最後に、これまで見てきた内容をまとめてみよう。
ゲーム研究のための学術雑誌『デジタルゲーム学研究』は、論文があり書評があり、イベントの記録があり、開発者の寄稿ありと、ゲームを研究する際に必要な情報は十分にそろっていると思われる。
ただし、全体の傾向としてゲーム開発の側との結びつきが強く、他方でユーザーの目線での研究はあまり見られない。
この点で本誌はゲーム開発者・企業の比重が大きくなっている、あるいはデジタルゲーム学会自体が研究者と開発者が一体となったものだと言えるだろう。
また、研究内容から見ると、少なくとも論文レベルでは心理学や工学によるものが多く、人文系のものは数が限られている。とりわけ美学や文学といった、ゲームを芸術としてとらえるような研究はかなり少ない。
加えて、年を追うごとに全体の論文数が減っており、この点には一抹の不安を覚えるところである。
とはいえ、本誌はゲーム開発者のインタビューや現状報告においては非常に豊富な資料を含んでおり、
ひいてはゲーム開発業界の状況を知るための無二の資料となるだろう。
そのため、ゲーム研究を志す人は、ぜひ『デジタルゲーム学研究』を参照してほしい。
ただ、本誌の入手しづらさに関してはいかんともしがたいところで、ウェブ上での論文公開はおろか、
所蔵している図書館もほとんどないという現状となっている。
この点については、どうにかして克服する必要がある。
一方で、デジタルゲーム学会の年次大会については、発表内容をほぼすべて収録した予稿集をPDFとして掲載するなど、かなりの情報量を発信している。
なのでこの学会の活動についてはむしろ、この年次大会や研究大会での発表を中心に見るべきかもしれないということが、調べていてわかったことである。
そのため、引き続き日本のゲーム研究の現状を探るために、これらの研究発表についても見ていきたい。

というわけでデジタルゲーム学会の研究大会での発表を調べました。
続・国内のゲーム研究の現状報告
〜日本デジタルゲーム学会の研究発表の分析〜



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