海外のゲーム研究の現状報告
〜学会・研究大会・学術雑誌一覧〜


ここでは、海外の学術的なゲーム研究の現状について、調べてみてわかったことを報告しています。
きっかけは、たまたまゲーム研究の学術雑誌を発見したことで、こんなものもあるんだ・・・と思っていろいろ見てみたら同様のものが次々と出てきて、これはぜひ状況を把握しておいたほうがいい、となったことです。
ざっと見た結果、コンピューターゲームについての学術的なレベルでの研究は、海外でとても活発に行われており、とりわけ近年に盛んになってきていることがわかりました。
日本もただ置いて行かれるわけにはいかないので、できるだけこうした研究状況を把握して、追いかける必要があるかと思います。
そのためには個人の貢献はもちろんのこと、学会や研究所レベルでの研究体制の確立が必要になるわけですが。

以下では、最初に海外での研究状況を大まかに述べた後、ゲーム研究を行っている学会と、ゲーム研究についての論文を掲載している学術雑誌を紹介しています。
この情報は、実際のゲーム研究にも役立つでしょうし、
何より日本の外ではゲーム研究がどれくらい活発に行われているかということもわかるはずです。
国内のゲーム研究の現状報告についてはこちら。
コンテンツ目次
海外のゲーム研究状況の概観
ゲーム研究学会・研究大会の一覧
ゲーム研究についての学術雑誌リスト

海外のゲーム研究状況の概観


まず、海外のゲーム研究の現状を理解するために、雑誌「Gamenvironments」2014年1号のこれまでのゲーム研究について語られている論文を、翻訳しながらピックアップして紹介しよう。
第一に、このような研究分野を何と呼ぶか。欧米では一般的に、「ゲーム研究(Game Studies)」というスタンダードな名称が使われているようだ。つまり研究成果を見つけたければ、まずはこのワードで探せばいいということになる。これに加えて、「ルドロジー(Ludology)」というラテン語由来の用語も考案されているが、あまり普及はしていない模様。
そのようなゲーム研究だが、海外ではまず、「ゲームと暴力」に対する研究が端緒だったようだ。これはつまり、出てくる相手を殺すようなゲームをやっている人は実際に暴力的になるかどうかという研究で、心理学的なものが中心だった。
こうしたゲームの暴力性についての研究は、ある種「ゲームは危険・悪いもの」という批判に答えるという必要性に根差したものだったようだが、その後ゲーム研究の内容は多彩になり、ゲームのジャンル分類やストーリーの研究も出てくるようになった。既存の学問分野からのアプローチも増え、ゲーム研究は認知科学、人工知能研究、歴史学、映画・演劇研究、文化研究、哲学とも結び付くようになった。こうした研究の方法はさまざまだが、どれも「ゲーム体験の真の性質とは何か」というテーマについての研究だという点では共通している。
一方、ルドロジーと呼ばれる研究は、ゲームに没頭するゲーマーの体験に焦点を置いており、ある種の別分野として理解されているようだ。それは同時に、ゲームとナラティブ(語り)との間に共通点を見出すことでもあり、ナラトロジー(物語論)の側面からも研究されている。
加えて、ゲームの暴力性研究の延長で、心理学的な研究も続けられている。これは主に実験的な手法によるもので、被験者にゲームをプレイさせた後で、そのふるまいの変化を測定するといったやり方である。こうした研究はゲームの「効果」を調べようとするもので、ある意味で「ゲームは善か悪か」という問いが未だに検討され続けているのだろう。

以上が『Gamenvironments』掲載論文前半の要約となる。これ以降はより具体的な内容になるために省略するが、ここからわかることは、ゲーム研究の簡単な歴史のほかにもいくつかある。
なにより重要なのが、「ゲームが真面目な学問の研究対象として理解されていること」である。これまで文学ならば小説等が、音楽学ならば音楽作品が、映画論ならば映画が研究対象となってきたわけだが、コンピューターゲームもその一員となったということである。
このことは2つの結果を生む。1つは、既存の学問分野の手法を、ゲーム研究に適用できるようになったということである。たとえば文学ならば物語の読み方、解釈というものを研究してきたわけだが、その蓄積をゲームのストーリーにも応用できるということだ。そしてもう1つのより重要な結果は、ゲームを物語や映画の一種として研究するのではなく、ゲームそのものの研究という独自の分野が確立されつつあるということである。これは先ほどのゲームの性質についての疑問から明らかだが、「ゲームにしかないもの」を求めると、自然と独自分野はできるはずである。このことはゲーム研究にとってはきわめて大事なことだろう。

なお、この論文には当然参考文献があるわけだが、その中でもゲーム研究への影響力が大きいと語られているものを挙げておこう。
1つはM. Wolf, B. Perron編の『The Video Game Theory Reader』 (Routledge, 2003)で、
もう1つはJ. RaessensとJ. Goldstein編『Handbook of Computer Game Studies』 (MIT Press, 2005) である。
タイトルからもわかるように、これはゲーム研究の必須文献のようなので、ゲーム研究を志す人はぜひともこれを参照してもらいたい。
その他に頻繁に触れられているのは、Katie SalenとEric Zimmermanの『Rules of Play』(MIT Press, 2004)だが、これは『ルールズ・オブ・プレイ : ゲームデザインの基礎』(ソフトバンククリエイティブ, 2011)として翻訳されている。

ゲーム研究の学会・研究大会の一覧


対象が何であれ、学術的な研究に必要なものは3つ、研究機関と学会と学術雑誌である。このうち研究機関は既存の大学の一部門を回せるが、学会は研究テーマごとに設けたほうがやりやすい。そして学会は、研究者の情報交換や現状把握のためのコミュニティとして機能する。
ではゲーム研究のための学会はあるのかというと、実際にいくつか存在し、近年徐々に増加しているようだ。以下では発見できた学会について簡単に紹介していこう。
なお学会の状況についての詳細は、学術雑誌『Game Studies』の論文「Regional Game Studies」を参照されたい。

デジタルゲーム学会
(Digital Games Research Association)
2003年設立


この学会、略してDiGRAは、ゲーム研究の祖となったもので、21世紀初頭から現在まで、ゲーム研究者の中心となっているようだ。
活動としては、年次大会や他のイベントの開催、情報発信などがあり、年次大会の模様はデジタルライブラリーに収録されている。
また、2013年からは学術雑誌『Transactions of the Digital Games Research Association(ToDiGRA)』の刊行も開始している。
「プレイヤー体験」「ゲームアクセシビリティ」「ロールプレイング」の3つの分科会があり、 オーストラリア、中国、オランダ、フィンランド、ベルギー、ドイツ語圏、イスラエル、日本、トルコ、イギリスに支部がある。
日本支部は2006年に設立され、「デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)」という名称で活動している。

「変わるためのゲーム」
(Games for Change)
2004年設立


シリアスゲーム(教育・学習など実用目的のゲーム)の開発や研究を目的とした組織。
デジタルとアナログゲームの両方を対象としている。
Games for Change Festivalという大会を2005年から毎年開催している。
「社会に役に立つゲーム」という理念で開発や認知向上活動を行っているようだ。

批判的ゲームプロジェクト
(Critical Gaming Project)
2008年開始


アメリカのワシントン大学が行っている長期プロジェクトで、準学会のようなもの。
ゲームの批評や研究、教育を目的としている。
「Conference on the History of Games」という大会を2013年から開催している。

国際日本ゲーム研究カンファレンス
Replaying Japan

2013年開始


学会ではなく、研究大会のみが開催されているもの。
その名の通り、日本のゲームの研究を国際的に行うことを目的としており、現在(2017年)も継続して開催されている。
雑誌は持っていないが、適宜開催国の関連雑誌に大会内容などが掲載される模様。
日本のゲームの研究発表に関しては、この大会が適切だろう。

カナダゲーム学会
(The Canadian Game Studies Association)
2013年設立?


こちらはいわゆる国際学会ではなく、国別の学会である。
国別学会は言語や大会開催地の問題が少ないので、その国の人にはずっと参加しやすいといえる。
公式サイトに情報が少ないが、2013年ごろから活動していた模様。
また『Loading: A Journal of the Canadian Game Studies Association』という雑誌を刊行している。

中東欧ゲーム研究会
(Central & Eastern European Game Studies)
2014年開始


チェコのブルノを拠点にしたゲーム研究の学会。
2014年から年次大会を行っている。

国際ゲームと宗教学会
(International Academy for the Study of Gaming and Religions)
2015年設立


フィンランドのヘルシンキ大学に拠点を置く、ゲームと宗教の関係を中心に扱う学会。
日本では宗教というのは馴染みが薄いかもしれない。
雑誌『Gamenvironments』を刊行している。

国際ゲーム開発者協会
(The International Game Developers Association)
1994年設立


ゲームの研究よりは、開発のための組織。IGDAと略される。米国で設立されたものが元で、長い歴史を持っている。
活動は開発者同士の交流や、情報交換の促進を行い、より良いゲーム開発に繋げることを目的としている。
日本ではIGDA日本という支部が設立されている。
短期間でのゲーム開発イベントであるグローバルゲームジャム(Global Game Jam)などのイベントを開催しているほか、
E3やGDCなど他の開発者イベントにも組織として参加している。


ゲーム研究の学会や、それに準ずる組織はこの通りである。
あまり数は多くないが、主にDiGRAとその支部が世界のゲーム研究はカバーしており、
さらに細かい関心に注目する場合に、個々の学会が設立されているようだ。

ゲーム研究についての学術雑誌リスト


学会にも増して重要なのが、学術論文を掲載する雑誌である。
学術雑誌というのは、研究者が論文を投稿することによって成り立っているわけだが、
これは信頼のおける知識を集積し、保存するための最良の手段といえる。
ゆえにゲーム研究の雑誌が存在するということは、ゲーム研究発展のための最大のファクターとなるわけである。
実際、海外ではかなり多くのゲーム研究のための雑誌が刊行されているので、それを一覧してみよう。
雑誌名創刊年研究テーマ公開
Game Studies
(ゲーム研究)
2001 ゲーム研究全般
Games and Culture
(ゲームと文化)
2006 ゲームの文化史
Loading: A Journal of the Canadian Game Studies Association
(ロード中:カナダゲーム学会誌)
2007 ゲーム研究全般
International Journal of Computer Games Technology
(コンピューターゲーム技術の国際誌)
2008 ゲーム開発技術
Journal of Gaming and Virtual Worlds
(ゲームとバーチャル世界の研究誌)
2008 ゲーム研究全般
Journal of Virtual Worlds Research
(バーチャル世界研究誌)
2008 オンラインゲーム中心
Digital Culture and Education
(デジタル文化と教育)
2009 ゲームによる教育
Entertainment Computing
(コンピューターの娯楽利用)
2009 ゲーム開発技術
Well Played: a journal on video games, value and meaning
(よくやった:ビデオゲームの価値と意味の研究誌)
2011 ゲームの評価
Game: The Italian Journal of Game Studies
(ゲーム:イタリアゲーム研究誌)
2012 ゲーム研究全般
Computer Game Development and Education: An International Journal
(コンピューターゲーム開発と教育)
2013 ゲーム開発・教育
Transactions of the Digital Games Research Association
(DiGRA紀要)
2013 ゲーム研究全般
Journal of Games Criticism
(ゲーム批評誌)
2014 ゲームの評価
Replay. The Polish Journal of Game Studies
(リプレイ:ポーランドゲーム研究誌)
2014 ゲーム研究全般
International Journal of Serious Games
(シリアスゲームの国際誌)
2014 教育・学習ゲーム
Gamenvironment
(ゲーム‐環境)
2014 ゲームと宗教
このように、かなり多くの学術雑誌があることがわかる。
ほぼすべての雑誌が英語で書かれており、現地の言葉なのはポーランドの『Replay』ぐらい。
研究テーマについては大まかに見てわかった限りで書いている。
「公開」が「有」のものは、インターネット上に論文が公開されていて、すぐに読むことができるもの。
「無」のものは、タイトルと要旨のみが公開されていて、読むには購入が必要になるものである。
やたらとあるが、まずは一番歴史の古い『Game Studies』から見るのがよいように思われる。
この雑誌にはさまざまな側面からのゲーム研究論文が掲載されている。
また大組織のDiGRAが刊行する『ToDiGRA』は近年にできたものだが、こちらも重要だろう。
それぞれの雑誌には論文、研究ノート、ゲーム関連書籍の書評のほかに、ゲーム開発者のインタビューなども掲載されていることがある。

以上、海外のゲーム研究の基礎情報として、学会と学術雑誌を紹介した。
それぞれの研究内容がどのようなものかについては、引き続き調査を行う予定である。

これに続いて、日本国内のゲーム研究について調べたのがこちら。
国内のゲーム研究の現状報告
〜『デジタルゲーム学研究』を読んでみた〜


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