以前いろいろと聴きながら作った、クラシック作曲家フランツ・シューベルトの各曲の解説です。
シューベルトの管弦楽曲や器楽曲、歌曲のいくつかについて、わりと主観的な感想を交えながら紹介しております。
シューベルト音楽についてさらに詳しく知りたい方は、
国際フランツ・シューベルト協会のページへどうぞ。
以下の紹介の見方ですが、ジャンルごとに分けて、マークで特徴を紹介しております。そのマークの意味はというと・・・
[楽]・・・シューベルトらしい楽しさにあふれた曲。癒し系な感じもこれ。
[怖]・・・天国から地獄へ急転直下するような恐ろしい曲。代表は「未完成」。
[音]・・・初心者でもとっつきやすい印象的なメロディーの曲。
[奇]・・・シューベルトの曲には珍しい要素が見られる曲。
[熱]・・・裏の顔である激しい情熱が爆発するような曲。
[愁]・・・どこかひなびた感じというか、民謡っぽいというか、そんな曲。
でまあ、ジャンジャカ紹介して行きますよ。ジャンル順に。
管弦楽・室内楽曲ピアノ曲歌曲
交響曲
交響曲第五番 D.485 第一楽章[楽][音]
シューベルトの一面を最もよく表しており、まず始めに聞くべき曲。メロディーが楽しいったらありゃしない。
交響曲第七番 D.759 『未完成』 第一楽章[音][怖]
これを聴くのは時と場所をよく選んでから。夜中静かなところで聴きましょう。
あと最初の音が聴こえないうちは聴いちゃいけません。
とにかく怖い。よくぞあの小規模な編成でここまで!という曲。
特に展開部のぶっ壊れっぷりはすごい。あそこは「恐怖の船の発進」と呼んでおります。
交響曲第七番 D.759 『未完成』 第二楽章[楽][怖][愁]
途中までなら何ら問題はない、ほわーんとした静かな曲。
しかしこちらにも地獄への落とし穴が!予告が何もない分、第一楽章より怖いです。
第二主題は「愁」な感じのメロディー。
交響曲第八番 D.944 『ザ・グレート』 第一楽章[音][奇]
とにかく勇ましく雄大な第一楽章。そのメロディーははまったら止められなくなるでしょう。
ストレス解消にもってこいな、長くすげえ曲。
交響曲第八番 D.944 『ザ・グレート』 第二楽章[楽][音][愁]
この行進曲みたいな曲調で、誰がアンダンテと思うでしょうか。
第一主題は親しみやすく、なんともいえない雰囲気、第二主題はまさに天国、地獄なしバージョンと美味しいとこどりな曲。
前作とは明らかに趣を異にする、「未完成」の向こうの真実、とでも言えましょうか。
独奏ピアノ曲
即興曲 Op.90-1[熱][愁]
四つの即興曲の中で、最も注目されることのない、葬送行進曲。
噛めば噛むほど味が出るといいましょうか、とても渋く、実はとても激しい曲。
即興曲 Op.90-2[熱]
四つの即興曲の中で人気No.2、「2・4のエチュード」の一つ。
即興的としか形容しようのないA部と、激しさの極みのB部、トドメのコーダが持ち味です。
即興曲 Op.90-3[熱][音]
四つの即興曲の中は地味だけど最高のメロディーを持つ三番。
無言歌的、とよく書かれているけど、内からゴゴゴと上がってくる熱のような物を感じる曲。癒し系にもいいです。
即興曲 Op.90-4[熱][愁]
四つの即興曲の中で人気ナンバーワン、「エチュード扱い」の四番です。
といってもノリで押し切るような軽薄な物ではなく、深さも相当な物です。
トリオでは愁+熱が四曲をまとめるかのように爆発しやがります。
楽興の時 第一番[楽]
即興曲に比べると小規模な感じの六曲。[楽]がメインです。
何か手のひらでころころ転がっているような、なんともいえない楽しさがあります。
楽興の時 第二番[楽][怖][愁]
祈っているように静かなA部、ちょっと暗いかなという感じの愁のB部がありますが、
それだけでは終わりません。曲が終わったかな、と思ったところでまたもや急転直下!すぐ元に戻るんですが、びっくりする仕掛けを作ったもんです。
楽興の時 第三番[楽][音][愁]
軽快で奇妙かつ親しみやすいメロディー、それがこの最も有名な三番です。
惜しいくらい短いんですが、本当にはまる旋律です。
楽興の時 第四番[愁]
これまた軽快な四番。こちらのほうがロシアっぽい感じはしますが。
トリオ部は、シンコペーションのメロディーで前半とのテンポ感がぴったりです。
なんとかっていう髭剃りのCMに使われていて感激。
楽興の時 第五番[熱]
小さな爆弾といった感じの五番。
フォルテからピアノ、その逆の移り変わりが非常に激しく、短い中何度も上がったり下がったりを楽しめるジェットコースターのような曲です。
楽興の時 第六番[愁]
まさに祈りを捧げているような静かな曲。
終始、強くなったり弱くなったりしながらも落ち着いており、何か吸い込まれるような物を秘めています。
即興曲 Op.142-1[熱][愁]
即興+ソナタといった感じの四曲です。
でもこれをソナタととらえる考え方には反対。しかも三番を除くんじゃないよ、シューマンにバカヤローです。
ほとんど目立たない第一主題、最高のメロディーな第二主題、やたらと長い中間部があります。
即興曲 Op.142-2[音]
ひたすらに癒されまくるような曲。心が静まりまくることでしょう。
心が落ち着くというか、ここまで来ると感動的です。
即興曲 Op.142-3[楽][音]
もしかしたらシューベルトのピアノ曲中最もすばらしい曲かもしれない、「ロザムンデ」変奏曲。
確かに未完成のような明暗はないけど、「鳩の便り」的な人生の総まとめのような物を感じる曲です。
とにかく一度聴くべし。
即興曲 Op.142-4[熱][愁]
即興的ソナタというかソナタ的即興曲というか、とにかく「ものすごい」即興曲です。
高速スケール+トリルとか、静かに上がったり下がったりとか、もういろんな物が出てきて楽しませてくれます。
最後に激烈コーダのおまけつき。
ピアノ・ソナタ第9番 ロ長調 Op.147 D.575[楽]
シューベルトのソナタはOpが入れ替わっていたりとおぼえづらいので、何かそれぞれ通称をつけたほうがいいと思います。
そうするとこれは「標準」。あ、いや、他に比べるとあまりに普通なので。しかし第二楽章という大きな目玉があります。
第一楽章は元気のいい第一主題、シューベルト的な楽しい第二主題があり、いたって普通です。
第二楽章がすごい。16分音符+アルペジオの中間部がとってもいいです。さらにA'になるとトリル的16分音符が加わってさらに楽し。
第三楽章は、まあ標準だなあ。という三拍子。第四楽章は楽しくて短い楽章です。
なんだか普通普通って言いまくっているけど、決して馬鹿にしているんではなく、徳のこのソナタは楽章間のコンビネーションが非常に良くできていると思います。次にバトンタッチ!な感じで。
ピアノソナタ第13番 イ長調 Op.120 D.664[楽][音]
シューベルトのソナタはそれぞれ特徴がはっきりしていてわかりやすいですね。
これはなんとなく14番と対をなす天国と地獄のソナタの、「天使」のソナタです。
第一楽章、ゆっくり目でうっつくしいメロディです。第二主題も、ああ天国、な感じ。
第二楽章は、静寂の彼方。第三楽章も非常に楽しげで、一度聴いておかないと損です。
ピアノソナタ第14番 イ短調 Op.143 D.784[怖][熱]
一つ前とは180度違う「悪魔」のソナタ。同じ三楽章だし、13番と対をなしている感じです。
第一楽章から既に恐ろしい力に支配されています。静寂と爆発の繰り返し、そして展開部ではすさまじく激しいエネルギーが暴走します。
第二楽章は緩徐楽章のはずだけど、所々に怪しいモチーフが出現して安心できません。
そして第三楽章。幽霊が踊っているような怪しげな出だしに、またもや爆発。ほんとこの二つのソナタの間に何があったのかという感じです。
ピアノソナタ第17番 ニ長調 Op.53 D.850[楽][奇][熱]
「豪華絢爛」ソナタ。とくに第三楽章の充実っぷりがすごいです。スケルツォなのに全然そんな感じがしない。
第一楽章。分厚い和音の連打で始まるテンションの高い曲。第一主題は主に連打で、
第二主題は際限なく発展していってまた連打が帰ってきて最初へ・・・という構成。
展開部では三連符がひたすら使用されまくってやばい。
再現部のあと、展開部が加速かつパワーアップしたコーダがついており、即興曲90-2のような構成です。
ちょっと元気のいい第二楽章。なんだか妙なB部を通ったあと、A'がはじまるのですが、これがまた楽しいったら。
そして問題のスケルツォ。豪華で熱くて長いです。
さらに第四楽章がまた楽しいメロディーで、雨の中を散歩しているような気分です。
A-B-A'-C-A''という形式で、A部はだんだん分散和音化されてきます。B、Cもいいんだなこれが。
ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D.953[奇][熱][愁]
最後のソナタトリオの一番手、「悲愴?」ソナタ。ってこんな名前でいいんですか。
だってどの本を見ても「ベートーヴェン的」って書いてあって、なんか「悲愴のパクりじゃないの?」的オーラがでまくってて。
ぐぬう許せん。確かに最初の一音でギクッとくるし、第二楽章の三連符になるとことか怪しいけど、そして確かにシューベルトっぽくないけど、こんな晩年にいまさらそんな作品を書くわけないじゃん。なんか考えがあったんでしょう。
第一楽章。なんだか決意に満ちています。はかなくも力強い感じ。
でも、展開部はもう主題なんかどこへいったの?的なものすごい音符の滝。「未完成」レベルです。
第二楽章。あまりに静かです。それもそのはず、珍しくアダージョです。やっぱり強くなったり弱くなったり静かに攻めていきます。
そして謎の第三楽章。メヌエットなのか?全篇において謎です。トリオはどっかの国のメロディ?のような感じになります。
第四楽章は「死と乙女」のフィナーレのように、8分の6で速いテンポ。なんでも「シューベルト的タランテラ」というらしいです。
長調をへたりしてB部に入り、さらにどんどん発展していくんですが、ここが長い。あっ最初に戻るかなーと思わせておいて、まだ。
しばらくじらしたあとにやっと帰ってきます。そしてまたBへ、最後にもう一度帰ってきて終わり。
だんだんA部が目に見えて短くなっていって追い詰められているような感じです。やだなあ。
歌曲
さ、最も奥深い歌曲の世界へ。
詩の内容があるので今までのアイコン説明はあんまり意味ないです。
かわりに
[原詩の大意]っていうのでアバウトに紹介します。
ではまず単発歌曲から。
羊飼いの嘆きの歌 D.121[原詩の大意]羊飼いは、好きな娘との楽しい思い出を回想する。
ああ!しかしあの娘は行ってしまった!何て悲しいんだい。
「糸を紡ぐグレートヒェン」と対になってそうな歌。男バージョン。こいつはちょっと愚痴っぽいやつです。
花畑、嵐など情景が細かく描写されています。そして夢から現実に引き戻されてまた最初のメロディーに戻るところが涙を誘う。
憩いなき恋 D.138[原詩の大意]雨や風に逆らって進め!休むことなく!もはや逃げることもできない。
愛は人生のすべて。憩いのなき幸福だ!
いきなりすごい詩です。ゲーテめ。本当に嵐の中を突き進んでいるような曲。
すべての言葉があっという間に流れていきます。最後の文句の連呼も印象的。
野ばら D.257[原詩の大意]子供がバラを見つけた。バラは折ったら刺すと言った。子供はバラを折り、バラは刺したが、痛みが残るばかりであった。というのが詩の上での意味なんですが、なんか裏にあるんでしょうかね。
確かに良くみると三番なんか特に・・・まあそんなこと考えないでいいでしょう。
魔王 D.328[原詩の大意]親子が馬で走っている。とそこへ魔王が。子供は怯えながら父親に訴え、魔王は子供を誘惑し、父親は子をなだめる。
そしてとうとう子供は死んでしまった。みんな大好き、魔王。今でも衰えない緊張と多彩な表現のある曲です。この最初のダラララララッがかっこよくて聴きたがる人も結構います。
ところで、よく効いているとこの魔王は
母親、妻、娘がいて三世代で住んでいることがわかってびっくり。
万霊節の連祷 D.343[原詩の大意]万霊節、ハロウィーンの日に死者の霊に祈りを捧げる歌。
各節では様々な原因で死んだ人が出てきて、すべての霊よ、安らかに眠れ!もう一つの子守歌。こちらの対象は明らかに死んだ人です。
かなり息継ぎが大変そうな曲で、本当に落ち着けます。
至福 D.433[原詩の大意]天国ってどんなところ?きっと素晴らしいところなんだろう。一度行ってみたいな。
でも僕にはラウラがいて幸せだから地上のほうがいいや。一番、二番は天国への憧れ・・・に見せかけて結局はノロケかい!
きっとシューベルトもはらわた煮えくり返ってたに違いない。とりあえず天国の部分は完璧に再現しておられます。
さすらい人 D.489[原詩の大意]私は山からやってきた。海は荒れ、太陽は冷たくなっている。私はどこでもよそ者だ。
私の国はどこにある?私の花が咲き、死んだ人は甦り、私の言葉が話される国は!
私はとぼとぼと歩きながらいつも「どこだ?」と尋ねる。
―霊気の風に乗って言葉が返ってくる―『幸福、それはおまえのいない場所にあるのだ!』暗い、暗すぎる曲です。2番目の部分がのちに幻想曲に使われています。
そして途中で妄想に入るわけですが、ここの盛り上がりぶりが以上です。そして頂点に到達して、また崩れ落ちる。
ます D.551[原詩の大意]ますが一匹、綺麗な川に泳いでいた。
漁師がやってきて、冷たい目でますを見ていた。私は水が綺麗ならば釣ることはできないだろうと思った。
しかし待ちかねた漁師が竿で水をかき回し、ますを釣り上げてしまった。私はくやしそうにだまされたますを眺めていた。グローバルスタンダード。超基本の曲。歌詞もこんな感じです。
明るいですね。ひたすら楽しい。そして後半の変化にも注目。
挨拶を送ろう D.741[原詩の大意]私の手から離れていった人よ、涙とともに、挨拶を送ろう。そして口づけを送ろう。
たとえ君との間にどんな障害が立ちはだかろうとも、挨拶を送ろう。そして口づけを送ろう。
愛が場所も時間もなくしてしまい、僕は君のそばにいて、君は僕のそばにいる。
私はこの腕で君を抱きしめて、挨拶を送ろう。そして口づけを送ろう。個人的に超好きな曲です。だってこの内容だよ?
このじわじわと盛りあがっていく心、そんでもって最後がもうめちゃくちゃでいいですね。
美しき水車小屋の娘 D.795
あらすじがだいたいわかります。重要な一節も解説しています。
- さすらい
[原詩の大意]
さすらいは水車職人の楽しみだ。さすらいは!
水、水車、石臼にもさすらいを学ぼう!さすらいは僕の楽しみだ。
始まりを予期させる飛び跳ねるような明るい歌です。はい次。
- どこへ?
[原詩の大意]
僕は川の流れについて谷を降りていった。さすらいの杖を手に。小川よ、僕をどこへ導くのか?
川の流れを見事に描写した伴奏で、素朴なメロディーです。短調と長調が軽く入り混じる。
「Es singen wohl die Nixen」(ただのせせらぎではない、妖精が歌っているんだ)がいいですね。
- 止まれ!
[原詩の大意]
水車の回る音が聞こえる。おい待っていたぞ!と水車の歌が聞こえる。
太陽は明るく、空に輝いている。愛しい小川よ、こういうつもりだったんだね?
この辺はまだオープニングです。そして出会い。
どう見ても水車の音形が何度も出てきます。最後の部分の繰り返しが元気が良くていいです。
- 小川への感謝
[原詩の大意]
こういうつもりだったんだね?水車小屋の娘のところへ、と。
彼女がおまえをよこしたのか、小川が僕をだましているのかはわからないけど、
望んだ物が手に入って僕は満足だ。
曲調が変わって先の続き。
穏やかなリズムです。疑問のところで短調になるけど、まだのん気な話です。
- 仕事を終えた宵の集いで
[原詩の大意]
*僕は千の腕で働きたい。風のように森の中を吹き抜けたい。あの水車小屋の娘が、僕の誠実な心に気づくように!
ああ!僕の腕はこんなにも弱い。どんなに頑張ってもどの弟子も同じようにできるのだ。
そして仕事を終えた大きな輪の中で、親方はよくやったといい、あの愛しい娘は、みんなに、おやすみなさいを言う。
(*くりかえし)
ここから本編スタート。見事に水車のガタゴト回る音、そして心臓の脈打つ音が描写されています。
とにかくこの歌は「Daß die schöne Müllerin.Merkte meine treuen Sinn.(かわいい水車小屋の娘が僕の誠実な心に気づくように!)」に限ります。二回目は緊張感も増して。
- 知りたがる男
[原詩の大意]
僕は花には尋ねない。星にも尋ねない。愛しい小川よ、君だけにたった一つの言葉を尋ねたいんだ。
その言葉の一つは、「はい」。もう一方の言葉は、「いいえ」。この二つが僕の世界のすべてをなしている。
小川よ、これ以上は聞かないから教えておくれ。彼女は僕を愛しているか?
もうどうしようもない歌です。この最後の一言を言いたいがために引っ張って引っ張って・・・
しかも散々いろいろやった挙句最後はさらりと言ってしまいます。何てシャイな奴。
- いらだち
[原詩の大意]
僕はすべての木に刻みたい。すべての白い紙に書きたい。「僕の心は君のもの!永遠にそうであれ!」と。
僕は鳥を言葉を話せるまで育てて、あの娘の窓の下で歌わせたい。「僕の心は君のもの!永遠にそうであれ!」と。
(以下略)
いらだち、というか興奮しています。ひたすら連打が続き、本当に焦りを表しています。
四節目の「僕の眼、吐く息にそれは表れているだろう。しかし彼女はちっとも気がつかない。(以下略)」がすごくいいです。
- 朝の挨拶
[原詩の大意]
おはよう。かわいい水車小屋の娘さん。どうしてそんなに僕から眼をそむけるの?そんなに僕の挨拶が嫌なの?
それならば僕は去らなくてはならない。
この辺ちょっと中だるみかも。ゆっくり系が多くて。だるかったら14まで飛びましょう。
内容は一節目以外はは「きけ、きけ、ひばり」のような感じ。
- 水車職人の花
[原詩の大意]
川のほとりに青い花が咲いている。あの娘の瞳の色も青色だ。だからこの花は僕の花なのだ。
この花を、あの娘の窓の下に植え付けよう。そして花よ、あの子が眠っている時に、『僕を忘れないで!』とささやいてくれ。
一番平和で穏やかな曲。単調な流れです。
ただ、三節目の「Vergiß, Vergiß mein nicht!(忘れないで、僕を忘れないで!)」に熱い物を感じます。
- 涙の雨
[原詩の大意]
僕は彼女と並んで、川のほとりに座っていた。
月が昇り、星も出てきたが、僕は彼女の、彼女の瞳だけを見ていた。
その時僕の目から涙があふれ、水面に波が立った。彼女は言った。「雨が降ってきたわ。さよなら。わたし家に帰るわ。」
最後だけ短調に変わる美しい曲。穏やかでいいです。
最後の意味がいまいちどうなったかわかりません。
- 僕のもの!
[原詩の大意]
*小川よ、そのせせらぎを止めてくれ!鳥よ、大きいのも小さいのもそのさえずりを終わらせてくれ!
そして一つの言葉だけを鳴り響かせてくれ!
愛しい水車小屋の娘は僕のもの、僕のものだ!
春よ、おまえの花はこれですべてか?太陽よ、これ以上明るく輝けないのか?
ああ!僕はこの「僕のもの!」という幸せな言葉のせいで、この世界で一人ぼっちだ!
*くりかえし
思い込み男大暴走!な感じです。とにかくやたらウキウキしていますこいつ。
でも、これが最後のうかれになろうとは・・・
- 休息
[原詩の大意]
僕はリュートを壁にかけて、緑のリボンで結んだ。僕の幸せの重荷は大きすぎて、もう歌うことができない。
風がリュートを吹き抜けて、小さな音を鳴らすと、僕の心は震える。それは愛の苦しみの余韻か、新しい歌の前触れなのか?
落ち着いたリズムの細かい曲。よく聴いているとなかなか劇的な展開を見せます。
- 緑色のリュートのリボンで
[原詩の大意]
「この緑色のリボンはこのまま色あせてしまうのはもったいないわね。私はこんなに緑色が好きなのに!」
僕の愛しい人はそう言いました。だから僕はリボンを解いて君に贈ります。この緑色を好きになってください!
僕も緑色が好きです。僕らの希望は緑に輝いているから!
このリボンを君の巻き毛に結んでください。そうすれば、どこに希望があるのか、愛が歩き回るのかがわかります!それで初めて、僕は緑を好きになるのです!
最後の平和の歌。この上もなく平和です。地獄と隣り合わせなのに、何でこんなに楽しいんでしょうかね。
- 狩人
[原詩の大意]
狩人が小川で何を探すというのか?ここにはおまえの狩る獲物はいない。ただ俺に慣れた小鹿がいるだけだ。
その銃を森に置いて来い。吼える犬を家において来い。そうしないと庭の小鹿が怖がるからだ。
しかしもっといいことは、おまえがこの水車と水車職人をそっとしておくことだ。
魚が森に入って何をしようというのか?リスが池に入って何をするのか?
もし俺の恋人に好かれたいのなら、毎晩やってきて畑を踏み荒らす猪を退治してくれ、狩人の英雄よ。
対にライバル登場。佳境になって訳に気合が入ります。死ぬほど早口の歌です。
水車職人はこいつに敵対心を抱きまくってます。ある訳ではここで突然一人称が「俺」になっていてしびれるー。
- 嫉妬と誇り
[原詩の大意]
愛しい小川よ、そんなに急いでどこへ向かう?あの狩人を追いに行くのか?
帰って来い、帰って来い。そして水車小屋の娘の浮気心を叱ってくれ。
昨晩彼女が大通りのほうを眺めているのを見たか?
しつけのよい子なら、狩人が楽しそうに帰ってくるときに窓から顔を出したりはしないものだ。
小川よ、行って彼女に伝えてくれ。しかし僕の悲しげな表情のことは言わないでくれ。
彼女に言ってくれ。僕は葦で笛を作って子供に美しい歌を教えてやっている、と。
もう彼女の心は狩人に傾いています。ピンチ!でもライバルを責めないで彼女にどうこう言うところがこいつの情けないところですね。
最後のところが泣ける泣ける。なんていいやつなんだ・・・
- 好きな色
[原詩の大意]
緑の服を着よう。緑の草原を探そう。僕の彼女は緑がとっても好きだから。
楽しい狩に出かけよう。僕の狩る獲物、それは死だ。荒野には愛の苦しみと名づけよう。僕の彼女は狩りがとっても好きだから。
草原に僕の墓を掘って、緑で覆ってくれ。十字架も花束もいらない。ただ緑に、すべて緑にしてくれ!僕の彼女は緑がとっても好きだから。
死のレクイエムその1。内容からわかる通り、こいつはもうダメです。こんな暗い曲調で楽しい狩りとか言われてもね・・・
そしてついに死について触れるところが出てきます。死の階段への一歩目・・・
- 嫌いな色
[原詩の大意]
僕は広い世界へ出て行きたい。この草原、森が緑色でないならば!
僕はすべての緑の葉を木から摘み取りたい。すべての草原を死んだように青ざめさせたい!
ああ、緑よ!邪悪な色よ!どうしてそんな目でいつも僕を見るんだ?誇らしげに、意地悪に、この哀れな真っ白な男を!
僕は彼女の家の扉に横たわり、夜も昼も、一つの言葉を歌いつづけたい。さようなら、と。
森から狩の角笛が聞こえてくると、彼女が窓から顔を出す。
彼女は僕のことを見もしないけど、僕は彼女を覗いてみる。
ああ!君の額から、その緑のリボンを外してくれ!
さようなら、さようなら!その手を差し伸べて、別れの握手をしてくれ!
この曲集で最も好きな歌。先の「好きな色」は短調で、これは大体長調です。このパラドックス。
ヤケクソになって放心状態になっていた主人公が、やっと正気を取り戻したところ。この歌にすべての怒り、悲しみが凝縮されています。
- しぼめる花
[原詩の大意]
彼女に貰った花たちみんな、僕の墓に入れてもらおう。
どうしてそんなに悲しそうなの?まるでこれから僕に起こることを知っているかのように?
花たちみんな、何としおれて、何と色あせているんだ?
ああ、涙では、五月の緑を蘇らせはしない。死んだ愛を、再び花咲かせはしない。
でも春が来て、冬が去り、草原には花が咲くだろう。
僕の墓にも花が咲くだろう。彼女に貰った花たちみんなが。
*そして彼女が丘を散歩し、あの人は私を想ってくれた、と考えたら!
そうしたら花たちみんなよ、ひらけ、ひらけ、春が来たのだ、冬が去ったのだ!
*くりかえし
最も悲しいレクイエム。前半では花に語りかけ、後半ではない望みが花開きます。
はっきり言って、幻想が敗れた時ほど悲しいものはない。
リストの編曲したやつだと後半になると異常に高い音が使われてまるで麻薬でもやっているかのようです。
- 水車職人と小川
[原詩の大意]
(水車職人):誠実な心が愛に死ぬと、花壇の百合の花はみなしおれる。
満月は人にその涙を見せまいとして、雲の中に隠れるに違いない。
天使たちは眼を閉じて、すすり泣きながら魂に安息を与える。
(小川):愛が苦しみから解放されると、新しい星が、空に輝きます。
そして半分赤く、半分白い3つのバラが、茨の中から咲き、もう二度と枯れません。
天使たちはその翼を切り落として、毎朝地上に降りてきます。
(水車職人):ああ、愛しい小川よ、そんなに僕のことを想ってくれるんだね?
でも、小川よ、知っているかい?愛の行く末を?
ああ、その川底に、冷たい安らぎを、そして小川よ、ただ僕に歌っておくれ。
水車職人と小川の対話を描いた曲。ネガティブなことを言う水車職人を小川が慰めます。
でも、これってよく見ると言っていることはあんまり変わらないですよね。少なくとも自殺を止めようとしているのではない。
多分、これも水車職人の一人芝居なんですよね。また新しい考えを適当に思いついてしまった。
再び水車職人の叫びへ戻るところの短調への以降、そして最後の天に昇っていくかのような後奏が印象的で忘れられません。
- 小川の子守歌
[原詩の大意]
眠りなさい、眼を閉じて。さすらい人よ、ここがあなたの帰るべき所です。
海が小川を飲み干すまで、私のもとで休みなさい。
冷たく青い小部屋であなたを寝かせましょう。この子を揺らして眠らせて。
狩の角笛が緑の森から聞こえたら、あなたの周りでざわめきましょう。
覗き込まないで!青い花よ。あなたたちは眠るこの夢をつらくする。
離れなさい、水車小屋の橋から!悪い娘よ、この子をおまえの影が起こすから。
私にそのハンカチを投げなさい。このこの眼をしっかりと縛ってやるから!
すべてが目覚める時まで、眠りなさい!喜びと悲しみの中で!
満月が昇り、霧が晴れると、その上の空の、何と広々としたことか!
そして涙なしでは聞けない本当の子守歌。よく聞いていると、今までのキーワードが幾度となく出てきます。
「さすらい」「青い花」「狩の角笛」「緑の森」「悪い娘」「満月」
これらはすべて今までに出てきた言葉で、主人公の心の痛みを呼び起こさせる物でもあります。
要するに古傷をグサグサやっているわけです。救いなんかあったもんじゃない。
冬の旅 D.911
こちらはストーリー性はあまりないので、どこから聴いてもいいです。
最初は1.お休み、5.菩提樹、11.春の夢、15.カラス、20.道しるべ
辺りがいいんじゃないでしょうか。逆に4.凍結、10.休息、14.白髪の頭などはちょっとやめておいたほうがいいかも。
- お休み
[原詩の大意]
私は独りで旅に出る。春には沢山の花が咲き、あの娘とは愛を語り合った。
今はあたりはこんなに暗く、道は雪で覆われている。
これ以上長くはとどまらない。愛は人から人へ、移ろいを好むものだ。愛しい人よ、さようなら。
僕は君の眠りを邪魔するつもりはない。そっとドアを閉めて、扉にお休みと書いて立ち去ろう。
君のことを想っていたことがわかるように。
突如の失恋。そして旅立ち。ここが前作とちがうところです。
まだこの主人公は元気があり、余裕があり、未練があります。このリズムは足音を表しており、それがだんだん変化していきます。
その点で冬の旅はわりと描写的といえるでしょう。鬼火とか郵便馬車とかも。
- 風見の旗
[原詩の大意]
風は風見の旗をはためかせるように、人の心をもてあそぶ。大きな音は立てないけれども。
僕の苦しみの何を尋ねるというんだ?あの子は金持ちの花嫁さ。
見事に風が吹き荒れ、旗がびゅうびゅうゆれる様子を描写していますね。
「Was fragen sie nach meinen Schmerzen?(僕の苦しみの何を尋ねる?)」というところの悲痛な叫びがたまりません。
- 凍った涙
[原詩の大意]
凍った涙が、頬から落ちた。泣いていたことに僕は気づかなかったのか。
涙よ、どうして凍るの?この胸より熱く溢れ出て冬中の氷を溶かしてしまえ!
なんともいえない間がたまらない曲です。この辺りは似たようなのが多くて紛らわしいです。
やっぱり最後のガーンという盛り上がりがよい。
- 凍結
[原詩の大意]
僕は雪の中を彼女と一緒に歩いた足跡を探し回っている。どこに花があるんだ?草も花も枯れ果ててしまった。
何の思い出も持っていってはいけないのか?この胸の苦しみが治まってしまったら、だれが彼女のことを思い出させてくれるんだ?
僕の心の彼女の姿は凍り付いてしまった。いつか、この氷が溶ける日がくるなら、彼女も流れ出すだろう。
菩提樹と好対照を成し、その伴奏の激しいこと魔王のような大曲。
よく聴くと、そんなに絶望的な状況じゃないです。ただ未練が残っているという。ひたすら短調ですが、最後の部分は希望さえ感じられます。
- 菩提樹
[原詩の大意]
泉のほとりに菩提樹の木が立っている。僕はいつものその木の周りで甘い夢を見た。
暗い真夜中にその木のそばを通らなければいけなかった。真っ暗なのに眼を閉じると、木々の「こちらへ来なさい。ここには安らぎがありますよ。」というささやきが聞こえた。
冷たい風が吹き付けて、帽子を飛ばしたが私は振り返らなかった。
今はあの木から随分離れている。しかし、いつもあの木のささやきが聞こえる。「ここには安らぎがあるよ。」と。
前奏がとんでもなくいいですね。そしてこれ、よく聴いてみるとどこか不気味です。
真夜中にこちらへおいでよと誘う、などその実体は「魔王」とあまり変わらないのかもしれません。
- あふれる涙
[原詩の大意]
沢山の涙がこぼれて、雪へ染み込んでいく。涙よ、僕の思いを知っているね?
川となって町へ流れていくんだ!涙の川が熱く燃えたら、そこにあの娘の家があるのだ。
演奏法でもめる曲。詩にそんなにパワーはないです。
ただ、ラストで異常にクレッシェンドするのが不気味なところ。
- 流れの上で
[原詩の大意]
あんなに陽気にざわめいていた川よ、いまでは厚い氷に覆われて別れの挨拶も言ってくれない。
その氷に尖った石で文字を刻み込んだ。
あの娘の名前、初めてあの娘に会った日、そして別れの日を。
僕の心よ、この川の下に自分の姿を見出すのか?
この覆いの下では、熱く煮えたぎっているというのか?
だいぶテンポがゆっくり目になってきました。「刻み付けてやろう」以下の長調が楽しいです。
そして最後、じわじわと盛り上がりながら二回繰り返しますが、このゴゴゴゴと上がって来るパワーはまさに詩の内容そのものです。
以後ひたすら作成中。