Racing Lagoonとは?

ここでは、スクウェア最大の怪作Racing Lagoon、略してレーラグについて簡単に紹介してみます。
レーラグといえばセリフとキャラが変なバカゲー、というあまりに安易な評判が流布していますが、
それだけじゃないということを各要素の解説でもって伝えていきたいと思ってます。
これを読んで少しでも興味を持ったら、ぜひ自分の目でレーラグがどんなゲームなのか確かめてみてください。


システム
……RPG的なレースゲーム

レーラグの根本にあるのはレースゲームだが、単にレースを繰り返すのではなく、間にストーリーやザコ戦を挟むことによってその枠を大きく脱している。
注目すべきなのは自由度の高さであって、メインストーリーを進めるかどうかは基本的に任意で、その間ザコと戦ったり、サブイベントをこなしたりして車を強化する事ができる。
ストリートマップではエンカウント方式でバトルに入る。このためその都度読み込み時間はかかるものの、敵車は常に見えている上に、戦闘に入るのはほぼ任意と、無駄なバトルでイライラしないようになっている。
そしてこのストリートマップ、非常に精巧に横浜の街(+箱根、湾岸高速)を再現しているので、実際の街を好きに走り回る楽しみもあるし、逆に横浜を訪れてレーラグ名所観光もできる。

レースゲームとしての出来は経験が少ないためにうまく判断できないが、車の挙動はあまり現実的ではないらしい。
しかし最初は操作感覚に戸惑うものの、理解すれば自在に車を動かせるし、車のカスタマイズ要素によって「操作が苦手な人でも、車を速くすれば勝てる」「逆に車がヘボくても、テクニック次第でどうにでもなる」という独特のゲーム性が生まれている。
車のカスタマイズ性に関しては、レースゲームとしても十分に多彩なようだ。なにしろ実車ベースの車がスペック違いを含めれば百種類以上登場するし、カラーリングやエアロで見た目もいじることができる。外見と性能はほぼ独立しているので、300キロで爆走するバスやトラックより重い軽ワゴンなどの不可解なセッティングも自由自在だ。
パーツの経験値が貯まるのが遅い点が若干不満なものの、このようにシステム面は非常に細かく丁寧な内容に仕上がっている。

ストーリー
……やたらと重厚

ストーリーに関しては、当時のスクウェアのファンタジー作品に匹敵すると思っていい。
ライバルとの対決やグランプリへの出場というレースものの定番要素もあるが、そこからさらに数ひねり加えたストーリーが展開される。むしろレースゲームでどうしてここまで話がでかくなるのか不思議なくらいだ。
特にラスト間際の怒涛の展開は忘れがたいもので、主人公の秘密が明かされ、黒幕が登場するという劇的な要素をうまくレースゲームに組み込んでいる。
ストーリー全体に数々の謎がちりばめられているのも特徴で、いくつかのミスリードもあり、真実が明かされたときにはきっと新鮮な驚きがもたらされるはず。まさか最初のネームエントリー画面にすら秘密があるとは思いもよらないだろう。

キャラクターについても、後述の独特な見た目と口調の壁を乗り越えれば、十分魅力的といえる。
バハラグがそうであったように、やたらと個性的なキャラがひしめいているし、それぞれが信念を持って生きている。
彼らのストーリーに注目することも、レーラグの楽しみの一つといえるだろう。

グラフィック
……斬新すぎて理解されなかった

レーラグといえば度々引き合いに出されるのがこのグラフィック、というよりキャラクター造形だ。
使用されているのが当時のレベルのCGなのはともかく、とにかく動きが変。3Dなので連続的なアニメーションができるはずなのに、CGキャラを写真に撮って、それをコマ送りで流しているかのような映像なのだ。
それに追い討ちをかけるかのように、画面の使い方も激しく前衛的。キャラクターが妙に斜めになっているわ、残像を残してブレるわ、くるくる回転するわ……これを見て笑いを誘われない人はいないくらいだ。
だが、ここで笑い飛ばして終りではなく、独自性の面から考えてみてほしい。会話画面がキャラの立ち絵とメッセージウィンドウから構成されているゲームがほとんどの中で、この自由すぎる画面配置は異彩を放っている。新しい表現方法の一種と考えることもできるのだ。

さらに、ムービーの使い方にも注目したい。当時のPS作品がムービー偏重、3枚組み4枚組み当たり前だった時代に、レーラグはムービーの使用を最小限にし、その使い方も断片的で、ムービーで全てを語らない方式になっている。記憶がフラッシュバックするシーンはそれが顕著だ。
これによって、よく見られる演出面の問題点である「説明の過剰」が避けられており、キャラクターの芝居を見るだけという状況とは一線を画すことが可能となっている。

総じて、レーラグのグラフィックは明らかに変だけど没個性ではないと言うことができるだろう。

セリフ
……Racing Poem Game

レーラグで最も目に付きやすい点の二つ目は、その特徴的な台詞回しだ。
頻繁に差し挟まれる主人公のモノローグ(ポエム)があまりにも特徴的なので、ここでの言葉づかいは「レーラグ語」と呼ばれている。
これのせいでプレイヤーは初っ端から強烈なインパクトを受けることになるが、落ち着いて見てみれば、レーラグ語は一つではなく、特徴づけとしてキャラごとに違った口調が使用されていることがわかる。単なるカオスではないのだ。
この喋り方のせいで、レーラグはいい意味でも悪い意味でも個性が出ている。これを面白いととるか、理解不能ととるかは人それぞれだろうが、独特の世界観の構築に一役買っていることは見落とさないでほしい。
特に印象深いのがロード画面に表示される「寝静まった街…この道は何処まで続いているのか 終わり無き道、最速の彼方へ…」といったポエムで、種類もやたらと多彩なので見ていて飽きないことだろう。

もう一つ、レーラグのグラフィックとセリフが受け入れがたい、と思っている人に言いたいことがある。それは人間の持つ素晴らしい能力「慣れ」を計算に入れてないんじゃないか、ということだ。
実際、さんざん面白がっていた人が、いつのまにか大いにハマっていたという例もある。「慣れ」のパワーは恐ろしいものだ。
というわけで、見た目で敬遠せずに一度チャレンジ、ということを薦めたい。

音楽
……松枝さんの本領発揮

レーラグで意外と見過ごされているのが音楽の面。作曲はフロントミッションやバハムートラグーンの松枝さんだ。
本作のBGMは、明確な方向性を持って作曲されている。「ストリート系」というか、トランス、ハウス、ジャズ、ドラムンベースなど、いかにもオシャレな感じのサウンドが満載だ。雰囲気としては渋谷が舞台の「すばらしきこのせかい」に近いかもしれない。
レーラグ曲の洗練度合いは、音楽だけ聴くならば、その画面上でCGキャラがクネクネしているとは想像もつかないほどだ。
スクウェア作曲陣随一の緻密さを誇る松枝さんによる音楽、これを聴くだけでも十分プレイする価値はあるだろう。

総合
……目立つ部分ばかりが強調されている現状

以上の説明で理解できるはずだが、レーラグは良い作品に必要な要素をいくつも兼ね備えている。
とにかくグラフィックとセリフが変すぎるために、そこばかり注目されてしまっているのだ。
こういう現象はある作品を最も目立つ要素で表現するという、シネクドキ(提喩)の悪い例になっていて、
他の作品でもこういったことは見られる。(魔界塔士をチェーンソーのみで、バハラグを「はやーい」のみで、ライブを「あの世でわび続けろ」のみで語るとか)
これは作品を一言で表現する際には便利だが、ゲーム全体の魅力とはなんの関係もない。ただ目に付きやすい部分を拡大しているだけだ。
レーラグも、こうした習慣の犠牲になっている作品の一つといえる。加えて、作品自体が希少なこと、他のスクウェア作品とファン層が異なること(フロントミッション系列やアインハンダーも同じようなことが言える)も本作がマイナーな原因だろう。
だが、本当にどんなゲームかはプレイしてみないとわからないものである。何せこの筆者も、実際に遊んでみるまではレーラグがここまですごいとは思ってもいなかったくらいだ。

チャレンジャー精神を持っていると自負する人は、レーラグの世界を覗いてみることを強くおすすめする。


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