ゲームデザインにおける
効果音とボイスの隠れた役割
〜ドラクエ効果音の秘密〜



 ゲームの構成要素や制作のテクニックについて考察してみようというこのコーナー。
 今回焦点を当てるのは、ゲーム内で流れる効果音(SE)とボイス。普段何気なく聞いているゲームの中の効果音やボイスは、映画やアニメにはない独自の機能を持っているという話をしてみたい。

効果音とボイスのゲームにおける役割とは?


 効果音とボイスというのは何のためにゲームに入っていて、どのような役割を果たしているのか、と聞かれたら、どう答えるだろうか。

第一の役割:演出用サウンド

 多くの人の答えは、
「効果音やボイスの目的は、『実際の音の再現』で、その役割は、ゲームに迫力と臨場感を与えることでしょ。たとえば効果音なら火が燃える音や銃の発射音があるし、ボイスについても、ただ文章が表示されるだけよりも、ボイスがついていたほうがキャラクターが生き生きとするから」というものかもしれない。
 この回答は間違いではない。確かに、魔法を使ったらそのエフェクトに合った音がして、キャラがしゃべったらその通りに声が聴こえるというのは臨場感が高まるものだし、その点では映画やアニメと違いはない(映画・アニメでは多くの場合、当然のように効果音や声が入っているわけだが)。
 そして、この点に関しては、その場面の雰囲気を盛り上げるという役割を果たしているBGMとも同じである。
 しかしである。仮にこうした役割の効果音やボイス、BGMを「演出用サウンド」と呼ぶとして、この演出用サウンドの他にも、また別の役割を果たしている音というのがゲームの中には存在し、それはゲームの質にも大きな影響を及ぼしているのである。おまけに、同じサウンドでもこちらの役割はBGMには基本的には担わせることができない、効果音とボイスだけができる仕事なのである。以下ではその内容について、実例を挙げながら解説してみたい。

効果音とボイスのもう一つの役割


機能性サウンドという役割

 さて、その効果音とボイスのみが果たすことのできる役割とは何か。それは、ゲーム内の状況を視覚情報の代わりにプレイヤーに伝えることである。これを「機能性サウンド」と呼びたい。この機能性サウンドはゲームにおいてきわめて重要な役割を果たしているといえるが、いきなり概念だけで話をしてもわかりづらいと思うので、以下にその例を示してみよう。

機能性サウンドの例:ドラクエ

 取り上げるのは、おなじみドラゴンクエストである。どの作品でもいいから思い出してみよう。ドラクエに使われている効果音で、臨場感を高める目的とは思えない効果音、言い方を変えると「実際の音の再現」ではない音は存在しているだろうか。そう、山ほどある。Aボタンを押したときのピッという音、「はい いいえ」が出る時のピリリッという音、攻撃をする際の音、敵の攻撃を回避した時のピロリという音、呪文を唱えた時の独特な音などだ。
 これらの効果音の役割を、臨場感を出すためだと考えるのは無理がある。武器を振りかぶっても音がするわけではないし、攻撃を避けてもそんな音はならない。ましてやAボタンを押したときの音というのは、ゲーム内の事象として何かが起こっているわけではないので、「実際の音」というものが存在しない。
 だったら何のためだろうか。もちろん、容量の厳しいファミコンで無駄に音を入れるはずもない(これらの効果音は初代FC版からすでに導入されている)。そこには何らかの役割があるのである。ちょっと考えればわかると思うが、その役割とは、「プレイヤーに情報を伝えること」である。つまり、攻撃の音であれば、「攻撃を試みている」ということを伝えているし、その直後のヒットやミスの音は、この2通りを用意することで、攻撃が当たったか外れたかを伝えている。さらに「はい いいえ」の際の音は、「はいかいいえを選択してください」というメッセージを伝えていることがわかる。

視覚情報の代わりとなる効果音

 これらの効果音が、視覚情報の代わりとなっていることは重要である。すべてを文章にして、選択肢が出るたびに「そうびしますか? はい か いいえを せんたくしてください」などと表示していたら読む方も手間だし、容量も食ってしまう。かといって唐突に「はい いいえ」を表示すると、慣れていないプレイヤーが戸惑ってしまうかもしれない。そこで効果音の出番である。確かにこの音が「選択肢の選択シーン」を意味するということは説明書にも書いていないが、選択肢と同時に鳴らすことで、「この音はこちらに選択を求めているんだな」ということを自然に覚えることができる。これがドラクエの巧妙なゲームデザインである。
 また、Aボタンのピッという音も、「Aボタンが確かに押されましたよ」ということを伝えるもので、押しっぱなしではないボタン入力の際にはあった方がいいものである。このボタン入力音についてはドラクエに限らず、身近な例が多数存在する。わかりやすいのが家電類の操作音で、エアコンのリモコンなどがピッピッというのも同じ意図だと考えられる。また、パソコンにおいても、「はい いいえ」を選択する際やエラー表示時などにまさにドラクエと同じ形式のシステムサウンドを採用しているのはよくご存じだろう。

多くのゲームで活用される機能性サウンド

 このような機能性サウンドの例としてドラクエを挙げたのは、初期のドラクエ作品が効果音の適切な使用によって視覚演出の不足を見事に補っているからであって、決してこれがドラクエの発明だと言いたいわけではない。むしろ、機能性サウンドはゲームデザイナーなら当然のこととして知っているか、思いつくことだろう。
 他にも、FFではメニュー画面のカーソル移動音は初期から導入されていたが、戦闘中に関してはシリーズを追うごとに徐々に使用される効果音が増えていっている。全体としてドラクエほど特徴的な音はないが、4から導入されたターンが回ってきた際のピローンという音は、まさに「コマンドを入力してください」という情報を聴覚的に伝えるものだろう。
 この例はRPGに限らず、マリオがジャンプする時のポイーンという音、コインを取った時のコイーンという音もまた、それぞれの情報の伝達に一役買っている。本来、人がジャンプした時に音が鳴るはずはないのだ。そうした不自然さから、後のアクション(スーパーマリオ64など)ではジャンプの音は主に「はっ」とか「ほっ」とか「ムッ」とかのボイスが代替している。見落とされやすいことだが、この点においてはボイスと効果音は同じものなのだ。つまり、ボイスもただ人がしゃべった文章を伝えるだけではなく、システムサウンドとしての役割を果たしうるということである。

ボイスのゲームデザイン上の活用法


 次に、ボイスの方に話を移してみよう。声というのは人(または人に準ずる知的存在)が発するものであるので、なおのこと「実際にしゃべった言葉の再現」がボイスの役割であると思うかもしれない。確かに映画やアニメはそうだし、「ボイスつき」と言われる文章とボイスが同時に表示されるものを見ている限りではそうだろう。しかし、効果音の場合と同様に、ボイスにもゲーム特有の機能がある。それは上で述べたように、ゲーム内の情報をプレイヤーに伝えることである。

アクションやシューティングの機能性ボイスの例

 ここでも例を挙げてみよう。機能性サウンドのうち、ボイスの長所がもっとも活かされるのはドラクエなどのRPGではなく、アクションやシューティングである。機能性サウンドの役割を思い起こしてみよう。効果音の場合には、それは「視覚情報の代わりに」何かを伝えるものであった。ボイスの際にもこの部分が重要で、それは「視覚情報がいっぱいいっぱい」なゲーム、つまり画面が目まぐるしく変化するアクションやシューティングにおいて活躍の場がある。そのいい例がグラディウス(II以降、ボイス自体の導入は沙羅曼蛇が先)である。
 このゲームはシューティングなので、画面上では自機を動かし、敵を撃ち落としたり敵弾を避けたりする必要がある。そんな最中に、パワーアップを入手したことを伝えるためにはどうしたらいいか。多くのシューティングではパワーアップはアイテムの色や形が違うから視覚的にわかるが、グラディウスはパワーアップカプセルしかないので個々の違いがわからない。そこで例のボイス、「スピーダッ」とか「ミッソー」とかを入れることによって、少なくとも事後的には何のパワーアップをしたかがわかるようになっているのだ。他にも、ボス戦前の弱点を伝えるボイスも、たとえ英語で何を言っているのか聞き取れなかったとしても、最低限「ボスが出てくる」というのはわかる。この点、ボス出現を視覚情報で大々的に知らせるダライアスの裏を行ったともいえる。
 もう一つ、アクションからはメタルスラッグが挙げられるだろう。おなじみの「ヘヴィマシンガーン」などのボイスも伊達にそうしゃべっているわけではない。細かく慌ただしい画面で、どの銃を取ったかを伝えているのである。
 ボイスの機能的な使い道はまだまだ存在する。もう一つのボイス向きのジャンルは、FPSだろう。このジャンルではプレイヤーの見渡せる範囲が限られているし、エイムに回避にとやはり忙しいので、ボイスで状況を伝えてくれるに越したことはない。とはいえ、この際のボイスは日本語であった方がいいので、英語ボイスのままの洋ゲーのFPSなどでは、ボイスが活かし切れているとはいえないだろう。

スターフォックス64でのボイスの機能性

 さらに、ボイスの機能性を最大限発揮させたゲームとして挙げたいのが、Nintendo64の「スターフォックス64」である。この作品では、仲間が敵の位置や注目すべきポイントなどを教えてくれる。敵が四方八方にいるオールレンジモードではなおさらこれは重要である。本作でのボイスの活用については、制作者側もその有用性を認識して作っていたようである。『Nintendo Dream』2016年6月号(Vol.266)の宮本茂氏へのインタビューによると、宮本氏はCDの大容量を利用したボイスつきのゲームが増えている現状に対して、「僕的にはゲームに関係の薄いことや何度も同じことを話されたりがじれったくて、『しゃべらないほうがいいんじゃないか』と思うことも多かったんです」と述べており、それに比べて、画面に文字を出しても読む余裕がないシューティングゲームはボイスとの相性がいいと考えていたようである。そこでスターフォックス64において「必要な情報を、短くしゃべらせようと」して、ボイスを多数盛り込んだと語られている。
 ここで宮本氏が賛同しなかったボイスが「演出用サウンド」としてのもので、それに対して氏が用いたのが「機能性サウンド」としてのボイスだということがわかるだろう。もちろん、氏はテキストのボイス読み上げが無駄だと言いたかったのではおそらくない。それとは別の、ゲーム性にまで影響を及ぼすボイスの利用法を模索した結果、スターフォックス64のような形式にたどり着いたのだと思われる。補足しておくと、同様のアイデアはコナミがSFCの「実況おしゃべりパロディウス」ですでに実行していたのであるが、ボイスがもっとも活かされているのは、やはりスターフォックス64において他はないと言いたい。

まとめ


 今回は、ゲームデザインにおける効果音とボイスの隠れた重要性について考察してみた。以下にその内容をまとめてみよう。 ということである。なおここでは機能性サウンドの定義として、ゲーム内の情報を伝達するものとしたが、これは厳密に言うと、演出用サウンドにも当てはまるものである。銃の発射音も銃が発射されたという情報だし、キャラクターの会話もその文章を情報として伝えていることには変わりはない。なので両者を区別するためには、「その音がキャラクターにも聞こえているかどうか」というのを基準とするといいように思われる。たとえば、ドラクエの勇者にはギラの効果音は聞こえているが、回避の際の音やAボタンを押したときの音はおそらく聞こえていないので、後者が機能性サウンドだ、というわけだ。マリオも、自分がポイーンとジャンプしているとは思っていないのではないだろうか。ただしこの基準を用いてもボイスの場合は区別できないので、やはり演出用サウンドと機能性サウンドは完全には分離できないということだろう。
 ここで書いたことは、いいゲームを作る際の秘訣としても念頭に入れたいことである。特に効果音などは常に「何かの音」だと思われることがしばしばなので、そうでない効果音もあるんだということ、効果音やボイスはゲームの遊びやすさにも影響を与えることができるということを伝えたい。システムサウンドというのも、ゲームデザイン上は決して侮ってはいけない存在なのである。


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